肉食獣同士の戦闘って実際にはあんまりないよね
新世界暦1年11月9日 ジュラシック大陸 湖上王国と魔王国の中間砦 外壁上
「てててーん」
「「「てててーん」」」
「てててーんててーんててーん」
「「てててーんてんてんてててーんてんてん」」
外壁の上から外を闊歩している大型生物を見ながら、日英米の護衛団が大ヒットした恐竜で動物園を作ろうとして毎回ポカする映画シリーズの主題歌を歌っている。
それを湖上王国や魔王国から砦の維持に来ている一団が、何やってんだあいつら?という目で見ている。
「いやーすごいね。あれなんかまんまスピノサウルスじゃね?」
「というか映画よりでかいよね。動物園で飼うのは大変そうじゃね?」
エサ探してますという目つきで砦の周囲をうろうろするスピノサウルスもどきを見て、きゃっきゃ言いながら写真をとっている一行。
ちなみに、アズガルドの護衛団も歌を歌っていないだけで、きゃっきゃいいながら写真を撮っているのは同じである。
「しかし、よくもまぁあんな島でないと生存圏を維持できないような技術レベルでこんなとこにこんな堅牢な砦なんて作れたよね」
「というか、これほんとに湖上王国と魔王国が作ったんか疑わしいレベルよね」
この二国間の概ね中間位置にある砦は、もともと基礎のしっかりした岩盤の上にかなり頑丈な基礎工事を行って建てられていた。
「下の基礎部分や地下見てきましたけど、明らかに鉄筋コンクリートらしきモノが使われてますけど、上物は石積みや木造ですし、ちぐはぐですねぇ」
「もともと別の誰かが建てた遺構を利用して建ててるみたいな感じだな」
「別の誰かって誰さ」
「知らんよそんなもん」
この砦がスピノサウルスもどきの攻撃に耐えられそうかどうかには興味があっても、その歴史的来歴なんてのは犬のクソにでも食わせておけばいいと思っている連中ばかりなので、誰もその辺は調べようとしていない。
「防衛上の懸念は、明らかに城壁と比べて弱そうな正門かね」
「けど狭いからあの図体じゃ通れないだろ」
湖上王国と違って、この砦は人の出入りが前提の施設なので、外と通じる門があるのである。
とはいえ、防御上の弱点になるので、大型動物が通れない大きさになっている。
特に人が攻めてくることを考える必要が無いので、打って出るとか、誘い込んで、とか考えられていない構造である。大型動物の襲来を防げさえすれば、餌にありつけない動物はじきにどこかに行ってしまうのである。
「けどあいつも飽きて来たな。次の恐竜こねぇかな」
完全に例の映画のノリになってきているが、死亡フラグそのものには敏感でも、トラブルフラグには無頓着な護衛団だった。
新世界暦1年11月9日 ジュラシック大陸 湖上王国と魔王国の中間砦 大食堂
日英米アズガルドと、魔王国の外交折衝が砦の大食堂を利用して行われていた。
元々双方が魔王討伐だのなんだのと理由をつけて宝物を交換するための場所なので、外交折衝を行うような場所がないのである。
ちなみに、神託の巫女もオブザーバーで参加している。
「まぁ、正直、利権だのなんだのと言われても、うちも実効支配できてる範囲は湖上王国と大差ないよ」
魔王国は湖上王国とは対照的に、断崖絶壁の上にあるのは航空偵察で確認済みである。
ギアナ高地のようなテーブルマウンテンの上に都市が広がっているので、湖上王国とは違う形で周辺とは隔絶している。
そのテーブルマウンテン周辺は相変わらず恐竜王国なので、それ以上広がらないのである。
「じゃあ、周辺は開発できれば好きにしていい、と」
「うーん、まぁ使えないものの所有権を主張する気はないけど、なんらかの利益供与は欲しいかなぁ」
「我々は鉱山周辺の安全を確保するだけで、鉱山以外の土地をどうしようと我々には関係ありませんよ」
うーん、と魔王は唸る。
別にそのままうんと言ってもいいのだが、一応国の主として、はいそうですか、で利権を渡してしまうのも考え物だという話である。
「周辺が開発できたとしても、人口が急に増えるわけじゃないしうちの独力じゃすぐには開発できないから旨味がないんだよねぇ」
勿論、狭い安全地帯に押し込められて停滞している国なので、開発できる場所が広がるのは長期的には利益になるのだが、長期的な利益を得られてはいそうですか、と言えるのは一部の為政者や商売人だけで、大衆は即物的なものである。
ほぼ初めてとなる外部との接触で、大衆から妥協したと見られるのは社会体制の安定に大きなマイナスではないか、と魔王は思っているのである。
「特に種族間抗争があるわけではないが、うちは多人種国家だ。安定を崩せば瓦解しかねない」
「崩れられると面倒だからどうにかして」
「いやどうにかして、じゃねぇよ!」
もうちょっと利益を寄こせと言ったら、頑張れ、と返された魔王はキレるが、日英米もさすがに本気で言ったわけではない。
というか、欲しいのは利権であって、こんなところに領土を持っても統治や防衛が面倒なだけなのだ。
「そんなアホと交渉しなくても、うちなら開拓できるエリアを広げてもらえればその他の採掘なんかは自由にしてもらっていいですよ。外部との連絡や交易も支援してもらえるのなら、なおいいですね」
オブザーバーとして参加している巫女が横から茶々を入れる。
「んが!?」
「どうです、もうこんなのとの交渉は打ち切って湖上王国に帰りましょう」
巫女は欠伸しながらさっさと帰ろうぜ、という態度を隠そうともしない。
「まぁ、確かにアクセス自体は湖上王国のほうがしやすいですが」
湖があるのでUS-2でアクセスできる湖上王国に対し、テーブルマウンテンの上に都市が広がっている魔王国のほうはV-22しか手段が無いうえに、湖上王国より大陸奥地にあるので片道でも空中給油が必要になるので、直接のアクセスが非常に面倒なのである。
「まぁ、開発の許可と、免税特権とは言いませんが我々の事業に不当な課税や規制を行わない、という確約を頂けるのなら、それなりの便宜はお約束できるでしょう」
正直なところ、魔王国についてはとりあえず唾つけといて、実際に手を付けられるのは湖上王国でインフラ整備が終わってから、というのが各国の共通認識である。
「ぶっちゃけて言ってしまうなら、我々に利権をくれて敵対しないなら、それなりの利益供与と発展はお約束しますよ、という話です。どのみち貴国だけでは領域は広がらないのですから、損はないのでは?」
「あ、はい」
結局、魔王は日英米、そしてついでにアズガルドにそれぞれ鉱山利権といくつかの権利を割り当てることにして、湖上王国との関係見直し(まぁ王族同士は友好関係というか実質親戚みたいなもんだが)についてはインフラ整備の進展を見ながら随時進める、と言うことに落ち着いた。
新世界暦1年11月9日 ジュラシック大陸 湖上王国と魔王国の中間砦 外壁上
「んんー、こんな感じ?」
頑張ってスピノサウルスモドキを画面に入れて自撮りしようとしているのが何人かいるが、かなり身を乗り出しており、危なっかしい。
「落ちるなよ?絶対落ちるなよ?」
「むしろそこは押すべきでは?」
「いや、誰か落ちたら面倒なんて話じゃすまないからね?」
そんなくだらないことを言いつつ桐島一尉とアメリカの護衛隊長は、自撮りしようとしている連中を眺めている。
「しかし彼らの自撮りは成功率低そうだなぁ」
「まぁ、フィルムの上にマニュアルフォーカスだしなぁ」
アズガルドの護衛団も当初の緊張感はどこへやら、一緒になって写真を撮ろうと奮闘していたが、如何せん私物で持っているのはレンジファインダーのフィルムカメラである。
ちなみに、アズガルドにも一部民生品のデジカメが入ってはいるが、今回の使節団では記録用に外交団が官給品を持っているのみであり、まだ一般には流通していない。
ちなみに、他人事みたいに言っている2人だが、しれっと先に写真を撮っていたりするので、今の状況を作った元凶である。
「あ、なんか増えた」
「すごいねー」
スピノサウルスモドキとは異なる大型の肉食っぽいのが砦周辺に現れたのである。
見た目でいうとバリオニクスっぽいが、ディロフォサウルスと足して割った感じの、サイズはティラノサウルスクラス、という地球の知識でいうとちぐはぐな感じである。
「敵対してる?」
「みたいだね」
互いに向かい合うと、威嚇するように咆哮し、攻撃の隙を窺うように動き始めた。
そして、スピノサウルスモドキがバリオニクスモドキに飛びかかったのをきっかけに、戦闘が始まった。
「すごい迫力だな」
「しかし、肉食同士で争うとか好戦的な種族だねぇ」
凄まじい咆哮をあげながらどったんばったん戦闘を続ける2頭を眺めながら、皆やんやとヤジを投げている。
が、そんなとき、スピノサウルスモドキがバリオニクスモドキに体当たりし、弾かれたバリオニクスモドキは勢いよく城壁に衝突した。
「うお」
それほどの揺れではなかったものの、不意打ちだったので驚きもあって実際以上に揺れたように感じられた。
「1名落下!」
その叫び声とともに、一気に緩んでいた空気が吹き飛んだのだった。
次は水曜日か木曜日




