名前考えるのって面倒だよね
新世界暦1年11月9日 アズガルド神聖帝国ドラスト大陸領 セントール空軍基地
「はい、そういうわけで帰って参りました」
「誰に言ってるんです?」
桐島一尉の突然の発言に、部下が怪訝な表情を浮かべる。
「いや、なんとなく」
「帰ってきたって言ってもこのまままた出発ですよ」
彼らの右手には湖上王国から帰って来るのに乗ってきた海自のUS-2、そして左手にはこれから乗って出発するアメリカ海軍のCMV-22Bが駐機している。
「休憩なしってバカなの?」
「なんでそんな急ぐんでしょうね?」
急いでいる理由は、単純に機材繰りの問題だったりする。
US-2はほぼ全稼働機を今回の訪問に投入しているし、米海軍のCMV-22Bも配備が開始されたばかりで数が無い上に、前任のC-2Aグレイハウンドは酷使されすぎて後継の配備を待たずに退役が始まっている状態である。
ちなみに、わざわざそんなCMV-22Bを機材に選定した理由は、通常のV-22より航続距離が長いからである。
あと、輸送手段を日本に頼りっぱなしというのをアメリカが良しとしなかったのも一因である。
「で、お嬢さんは大丈夫なんかね」
言葉が通じないのは承知で桐島は神託の巫女に声をかける。
なんか多分、大丈夫的なことを言っているのだろうが、顔面蒼白で心なしか歩いている膝も笑っているように見える。
「ほんとに大丈夫かね?」
「あっちは元気そうですけど」
もう1人のお客さんである角の生えた男を見遣る。
「魔王が普通に訪問してて、王族と酒飲んでるとか、魔王も勇者も夢がねぇなぁ!?」
「ほんとですね」
結局、魔王の国、便宜的に魔王国と呼称しているが、と接触を持つためにもとりあえず勇者として接触してこい、というのが各国の本国の指示だったので、そうすることになった。
問題は道中だったのだが、偵察衛星と航空偵察のおかげで、接触地点らしい砦はすでに発見していたので、US-2で一度帰って、CMV-22に乗り換えて、(空中給油して)砦に乗り込むことになった。
結果、今日中に砦に着けることになるわけだが、焦ったのは湖上王国だった。
こんなイレギュラーが行く、ということを向こうに伝えておかなければならないが、それを伝える魔王が帰路について1人で最速で砦に向かっても2~3日はかかる。
しかし、日米は機材繰りの問題で一日でも早く終わらせたい。
そのため出発を遅らせることを頑として拒否する日米に湖上王国が折れて、魔王が来訪していることをゲロったのである。
んじゃまあ、魔王も連れてけば問題ないよね、と乗っけていくという乱暴な解決方法が取られた。
もっとも、国家元首がいるならもう砦まで行く意味なくね?という話に気付くのは砦についてからなあたり、みんな機材繰りのことだけで頭がいっぱいでテンパっていたのである。
ちなみに、神託の巫女も、魔王そのものを連れてくなら連絡要員の私いらねぇじゃん!?ということに気付くのは砦についてからなので、割とみんなテンパっていたのである。
「まぁ、何事もないといいね」
「空中給油失敗して墜ちたりしませんよね?」
「・・・思ってても言うなよ」
若干の不安を残しつつ、KC-130の離陸を見送りながら、一行はCMV-22に乗り込んだのだった。
新世界暦1年11月9日 日本国東京都 内閣総理大臣官邸
「そういえばあの大陸の名前どうしようか?」
「唐突に何を言い出すんですか」
一切前後の脈絡を無視して発した首相の言葉に、またいつものか、と官房長官は呆れたように返した。
「いや、名前が無いのも呼びにくいじゃん?」
「現地の呼び方でいいんじゃないですか」
面倒ですし、という言葉を官房長官は飲み込む。
「けど、報告書を読んでる限り、彼ら自身は大陸はおろか、世界が転移したことも把握してないよね。そんな状態で大陸の名前なんてつけてるのかな?」
肝心な報告書は読まないくせにいらんことばっかり読みやがって、と官房長官はキレかけるが、ここでキレても自分の血圧が上がるだけでこの首相は反省しないと思い留まる。
「ちなみに、どんな名前を考えてるんですか?」
「葦原中国とか?」
「領有権でも主張する気ですか?」
あまりに予想通りの出典元に官房長官は呆れかえる。
「うーん、アレフガル」
「言わせねぇよ!?」
ある意味、相応しい名前ではあるが、使うわけにはいかないので官房長官が阻止する。
「えー、じゃあ何がいいのさ」
「知りませんよ。適当に現地から持ち帰った情報で考えればいいでしょう」
ちなみに、その持ち帰った情報で日本の外務省がアレフ~を推そうとして版元と揉めたり、魔王だけを拾ってシューベルトだのと言ってみたりと、わりとお祭り騒ぎになるのだが、結局生息している大型爬虫類(?)達にあやかってジュラシック大陸と呼ばれることになるのだった。
新世界暦1年11月9日 ジュラシック大陸 湖上王国と魔王国の中間砦
よくもまぁこんな隔絶した場所に建てたものだ。と感心させられる堅牢な砦の周囲を一回りして、その敷地内に3機のCMV-22Bが降りた――――てるほど広い場所はないので1機ずつ順番に降り立って人員を降ろす。
1機だけはそのまま待機するが、残りは駐機しておける場所が無いのでそのまま帰投である。
迎えに来るのは明日の予定なので、必然的に1泊はこの砦で過ごすことになる。
「膝笑ってんぞ、大丈夫か?」
桐島一尉が神託の巫女に声をかける。
まぁ、言葉は通じてないのだが、巫女は何やら強がってグッと親指を立てているが、膝が笑って腰が引けているのでいろいろ台無しである。帰りもあるのに大丈夫なのだろうか。
「魔王様はどこいった?」
「あそこだな」
SASの隊長が指さした方を見ると、突然敷地内に降り立ったCMV-22に驚いて建物から出てきた者たちに何やら話しかけていた。
「ふむ。あれは人間なのだろうか?」
「さあ?」
2人が首をかしげる理由は、角が生えていたり、耳が長かったり、外見上の特徴として人間と異なる容姿をしているのが多数いるからである。
そういう特徴が無い普通の人間らしいのは、多分湖上王国の関係者なのだろう。
「人種云々以前に、種族として別なのではなかろうか?」
「その辺は遺伝子調べてもらわないと確定しないんじゃね?」
「また揉めそうな話だなぁ」
種族的な話は遺伝子調査でわかるだろうが、果たしてそれが人間なのかどうか、という話になると途端にめんどくさくなるので、3人の護衛隊長は考えるのを止めた。
「?言語を話して意思疎通ができるのなら人間扱いでもいいのでは?」
そこで空気を読まずにアズガルドの護衛隊長が発言した。
「まぁ、その通りなんだが」
「その”人間扱い”なのか、”人間”なのかで一悶着ありそうでなぁ」
政治的公正さとか厳格に言い出すとめんどくさいから適当でいいじゃん、という頭の3人の護衛隊長はその辺の話を突っ込みたくないのである。
「まぁ、外交団にぱぱっと話つけてもらって湖上王国に戻って、任務完了と洒落込みたいなぁ」
正直、もう護衛団は出番無さそうということで、完全に消化試合ムードである。
「あー、そうですね。俺も早く帰りたいですよ。帰ったら彼女にプロポーズを、実はもう指輪も買ってあったり」
「「「おまええええええええええ」」」
アズガルドの護衛隊長の不用意な発言が嵐を呼ぶのか、それとも何事も無くこのまま帰ることができるのか。
そんな護衛隊の不安をよそに、外交団は魔王国との外交折衝に入ったのだった。
次は・・・土曜日?




