革命に終わりはないが自己批判はしない
意図したわけではないのですが今回の更新で連載開始からちょうど1年になりました。
予定ではとっくに完結してるはずだったんですが、終わりが見えません。
今後ともよろしくお願いします。
新世界暦1年11月8日 新大陸南東に広がる海域のどこか
見渡す限りの水平線の洋上を、大型の飛行物体が5隻、船団を組んで飛行している。
一見すると神聖タスマン教国の使用していた大型飛行艇に似ているが、意匠が異なる。
どれくらい違うかというと、各国の軍艦のデザインが違うくらい違う。
彼らは元ダスマン連合首長国に属していたいくつかの国からの脱出船である。
とはいえ、すでに国を出て3ヶ月。
もともと外洋航行の術を持たない彼らは、適当に彷徨い続けているだけであり、元の大陸に帰りつかなかったのは最初に逃げるためにひたすらまっすぐ進んだおかげだが、それが幸運か不幸かは難しいところである。
すでに積んでいた食料は底が見えており、航続距離をほぼ気にする必要のない大型飛行艇は間もなく世界の空を漂う幽霊船になろうとしていた。
「船長、どうだ?」
その船団の旗艦と思われる船では、上位者らしき偉そうな服を着た男が船長に話しかけていた。
もっとも、上位者であることを示すのはその服装のみで、日本でいうと中学生くらいにしか見えない容姿をしている。
「・・・そろそろ、覚悟を決めなければならないかもしれません」
飛び続けても一向に陸地は見えない。
積んでいる食料が尽きるのは目に見えている。
では、その食料が尽きた後、船内で何が起こるか、なんていうのは考えたくもない事実である。
今も辛うじて船内が規律を維持できているのは、食料が尽きておらず、その残量をごくごく一部しか把握していないからである。
それが尽きた後、食べるものを求めた人間が何を食べようとするか、なんていうのは考えたくもない。
「そうか・・・」
そう言ってまだ少年と言っていい上位者は俯いた。
唯一の継承権保持者である息子を逃がしたい、という首長の希望だったが、それが救いだったのかは難しい問題である。
今の思い詰めた年齢らしからぬ表情を見れば、国に残って両親とともに死んでいた方が良かったのではないか、と船長は密かに思った。
「船長!煙が見えます!」
「何だと!?」
慌てて船員の指差すほうを見れば、水平線にいくつかの煙が上がっていた。
船長はぎゅっと拳を握りしめ、どうか母国を蹂躙した国のものではありませんように、と強く祈ったのだった。
新世界暦1年11月15日 人民統制委員会 革命記念軍港
ラストールとの海戦で主力艦の大多数を失った、などというのは出港時は華々しく宣伝したのにその後の音沙汰がないことから明らかなのだが、一応公式には「何もなかった」ことになっているので誰もそのことを話題にもしない。
そんなすっかり寂しくなった革命記念軍港に見慣れない飛行物体が入港してきており、たまたま居合わせた港湾労働者や軍人は度肝を抜かれていた。
そんな飛行物体とともに入港してくるのは、人民統制委員会の革命管理艦隊、要するに普通の国でいうなら、本国防衛艦隊とか、地方隊とか呼ばれるようなものである。
革命管理艦隊の陣容は、地球での呼び方でいうと、ポスト条約型重巡3隻、嚮導駆逐艦2隻、艦隊型駆逐艦8隻といったところである。この他に、沿岸警備を目的とした日露戦争世代の旧式戦艦が6隻と、海防艦32隻が所属しているが、足が遅いので、基本的に別編成で運用されている。
「がははは、思わぬ拾い物だったな」
その革命管理艦隊の旗艦艦橋で大笑いしているのは革命管理委員である。
「全くです同志革命管理委員。これでラストールの反革命どもに裁きの鉄槌を下すことができます!」
「うむ、軟弱なブルジョワ思考に染まったラストールの反革命どもに目にモノ見せてくれよう!」
艦委員長と革命管理委員が、公式にはラストールとの海戦が「無かった」ことになっているせいで、奥歯にモノが挟まったような言い方になっているが、要するにラストールにリベンジ!という思いは共通している。
「しかし、演習中に遭遇した時は肝が冷えました」
「うむ、どうしてあんなバカでかいものが浮いているのか、不思議でならん」
現在、主力艦隊を失った人民統制委員会は必死になって残った艦隊の練度を上げようとしている。
もっとも、戦艦で残ったのは旧式艦ばかりで、戦艦としては期待できないどころか、下手をすれば射程の問題で最新の重巡にも撃ち負けかねない艦しかなく、辛うじて一線級と言えるのはこの革命管理艦隊の他には、水雷戦隊が2つ残っているのみである。
「戦力化を急ぎませんとな」
「乗ってる人間の言葉が通じんのは面倒だが、動かし方さえわかればお役御免よ。あとは労働教化所にでも送ればいい」
何やら難民船だったらしく、飛行艇を動かすのに関係ない人間もかなり乗っていた。
とりあえず航海中は適当に食事を与えていたが、入港した以上載せておく意味はないので、乗員以外はさっさと労働力として使い潰す予定である。まぁ、動かし方がわかれば乗員も後を追わせるあたり、実に鬼畜な国だが。
「間もなく建造中だった新鋭艦も2隻完成しますし、そうなれば」
「うむ、ラストールに革命をもたらす日は近い!」
この国に完熟訓練という言葉は存在しない。
なぜなら、完璧で幸福な兵士なら完成品(完成しているとは言っていない)を与えられれば即座に100%能力を発揮できなければならないからである。
まぁ、その時出来ることをやれば100%だからね。仕方ないね。
「ああ、その日が来るのが楽しみでたまらん!」
ラストールの災難は続くのか。
今はまだ誰も知らない。
新世界暦1年11月16日 ラストール近海 ラストール王立海軍第三艦隊
第一艦隊の主力艦が軒並みドック入りし、第二艦隊は改装作業中なので、一線級戦力として唯一残った第三艦隊の責任は重い。
そんなわけで、今日も今日とて、哨戒と演習に精を出していた。
「次の艦隊防空艦が輸入になるらしいな」
そんな演習中の旗艦の艦橋で艦隊司令が幕僚たちと話している。
「あの隔絶した性能を見せられてしまうと致し方ないかと」
APTO艦隊来訪時に戦闘に巻き込もうとしてやらかした幕僚は既に左遷されて、母港で特に必要のない資料整理をさせられているのでここにはいない。
「しかし、問題は値段だよ。なんで軽巡、重巡クラスの艦で戦艦並の値段なの?」
イージス艦が概ね1隻1400億円、英国が誇る45型駆逐艦はなぜか1隻2400億円(問題改修費用を除く)、対してインフレ率や為替等の問題があるので諸説あるものの、大和型戦艦の建造費が現代換算で2800億円、アイオワ級戦艦の場合で8000億円と言われる。
APTO加盟を決めたラストールとしては、購入先は日英米に限定されるので、選択肢は限定される。
「日本が提示したのがぶっちぎりで安いですね」
「そのかわり射程が一番短い上に、やっぱり大きさ考えると高いけどな」
日本が提示したのはいわずもがななあきづき型護衛艦である。
お値段750億円だが、搭載ミサイルは艦隊防空を目的に造られたわけではないESSMであり、もともとイージス艦を補完するために造られたこともあり、能力は限定的である。
アメリカの安価な海外売却の定番、OHペリー級のほうは弾切れである。
まだ保管しているぶんもあるにはあるが、防空艦として最も重要なものを撤去済みの分しか残っていない。
「とはいえ、買うしかあるまい。あんなもの我が国では造れないしな」
「アズガルドは航空機もほぼ輸入に舵を切ったようですし、我が国もそうなりますか」
「外貨がいくらあっても足りなくなるだろうな。どうやって確保するのやら」
ま、そんなこと軍人の俺には関係ないけどな、と思った艦隊司令だった。
次は・・・水曜日かな?




