お酒はほどほどに
新世界暦1年11月8日 新世界暦1年11月7日 湖上王国 王城 王族食堂
「うおおお、頭が痛い」
王族たちが普段食事をとる食堂に国王以下、王族重役たちが集まって朝食をとりながら来訪者の対処方針を考えていた。
もっとも、国王と大司祭、あと飛び込み参加の魔王は、二日酔いでほぼ死んでいる。
3人で、日英米がお土産で持ってきたのを3本も開けているのだから、起きれただけ立派である。(誉めてない)
国王が頭が痛いを連呼しており、大司祭はグロッキー、魔王は一見すると何とも無さそうに見えるが、話しかけても何かに耐えているようで反応がない。
「このクソ親父ども・・・」
打ち合わせもかねて朝食を食べに王城に来た神託の巫女が毒を吐いているが、いつものことなので誰も気にしない。
「それで、魔王様も来られたわけですし、来訪者への対処方針を決めませんと」
一向に話が進む気配がないので、二日酔いではない人間で最高位の神託の巫女がうんざりしながら言う。
「あくまでもあれを勇者として魔王討伐に向かってもらうのか、勇者ではないことを民衆に公表して改めて勇者を登場させるのか、そもそも勇者と魔王の存在を無かったことにしてしまうのか」
「キリッとした巫女君も美人でいいねぇ。どうだい、そろそろ僕と結婚しないか?」
話を進めたい巫女に対し、少し復活した魔王がいらんことを言い始める。
「私個人としては、来訪者に魔王に我が国がいかに苦しめられているかを伝えて勇者として魔王を討って頂く案を推したいと思います」
「Oh...」
それに対して巫女は、遠回しに死ねよお前と無表情で告げる。
「ああ、昔はお兄ちゃんお兄ちゃんとあんなに可愛かった娘がこんなに口が悪く・・・」
よよよ、とウソ泣き臭いコメントをする魔王。
「お前、自分の行動を顧みろよ。冷たくなったのはあいつの風呂覗いてからだろ」
「いや、それは事故じゃん!?」
割とどうでもいい話にまた脱線したので巫女がキレかけているが、魔王を討ってもらった後に実は真の悪は国王と大司祭だったというシナリオで始末してもらうのもありか、とか物騒なことを考えていた。
「とりあえず、言葉が通じないというのはまずい。どうにかできんのか?」
ここでようやく国王からまともな話がでた。
「どうにか、と言ってもどうするんです?」
まともな話を始めたのでとりあえずこいつらの処刑計画は見送ってやるか、と思う巫女だった。
「うーん、うちの宝物庫漁ったらなんかないかな?」
大司祭が秘蔵の宝物になんか便利なもんないかな?と言うが、誰もそれらしき心当たりはない。
「ふふふ」
すると、魔王がよくわからない不気味な笑い声をあげ始めた。
「なんですか気持ち悪い」
「・・・巫女の当たりがキツくて生きるのがつらい」
「いや、実際笑い方は気持ち悪いから。で、なんなん?なんかいいの持ってんの?」
大司祭にも笑い方が気持ち悪いと言われ、地味に凹みながら魔王は懐から大きな水晶玉を取り出した。
「何お前?そんなもん持ち歩いてんの?」
「いや、今回の魔王討伐の証明アイテムにちょうどいいかな、と思って持ってきたやつなんだけどね、こんなことになってるなら我ながらこのチョイスはファインプレーだったな、と」
うんうん、と1人納得している魔王だが、その水晶玉が何なのかわからない他のメンツは頭上に?が浮かんでいる。ちなみに、巫女だけは胡散臭いものを見る目で魔王を見ている。
「これは翻訳の宝玉といって、これに手をかざして話すと、この水晶に相手が読める文字でその内容が浮かび上がる・・・らしい」
「また胡散臭いものを」
「いや、だってそう伝わってるんだもん。言葉が違う試す相手なんていないんだからしかたないじゃん」
いきなりそんなもんを本番で試すのは怖い、と皆思ったが他に方法もないのでとりあえず試してみることになったのだった。
新世界暦1年11月8日 湖上王国 王城 謁見室
4ヶ国の訪問団が、不思議そうな目で水晶玉を眺めている。
「便利といえば便利ですかね?」
「量産できないなら意味ないのでは?一度言語解析が済めば翻訳アプリ作る方がいいように思いますが」
「誤翻訳が無いのなら価値があるのでは?まぁ、量産できないなら意味ないですが」
結局のところ、日英米の結論は量産できないなら意味がない。というところで落ち着いた。
つまり、「ころしてでもうばいとる」価値はない、ということである。
「で、要約すると狭い領域内で求心力を維持するために意図的に強敵と英雄を創って求心力と一体感を高めていた、と」
ここまで宝玉経由でやりとりしたことをまとめる。
「それを彩るために巫女の神託、という形で英雄の登場を予告したら、その予告通りに我々が登場してしまった、と」
そんなこと知らんがな、とアメリカ外交団の顔に表れていた。
「まぁ、その通りですね。で、彼らはどうして欲しいんでしょう?神託通り魔王をやっちまえばいいんですかね?」
そして好戦的なイギリス外交団。
「いや、関わってもめんどくさい未来しか見えないんですけど。英雄譚が国家同士の出来レースだったとか、絶対揉めますって」
そして強烈にめんどくさいことになりそうと嫌な顔の日本外交団。
「うちとしてはこれ以上近くでゴタゴタが増えるのは困るといいますか・・・」
そして控え目にどうにかしてよ、というアズガルド外交団。
「魔王だって。撃ったら死ぬのかな?」
「豆鉄砲で死なないなら爆破すればいいじゃない」
「いやぁ、ゲーム染みて来たねぇ」
そして能天気なことしか言わない各国護衛団。
「というか、魔王の国が存在するわけですよね?そんなに厳しい大陸ならなんで統一とか考えなかったんです?」
そして根本的な疑問について、宝玉経由で質問する。
限られたリソースを分散する、というのは戦場と同じく悪手である。まぁ、人口に対して島が狭すぎる、という問題がある可能性もあるが。
「理由はいくつかあるが、まず大人数での移動は大型動物に捕捉される可能性が高く、リスクが大きすぎること。数人なら隠れてやり過ごせても、大人数でしかも物資輸送までしていれば間違いなく甚大な損害が出る」
その疑問に国王が答える。
「そして、魔王の国とこの国では、住んでいる人種が異なることも大きな理由だ。人間、見た目が違えばすぐになんだかんだとケチをつけるものだろう?」
その国王の言葉に日英訪問団が米訪問団のほうを見る。
「「あー、それめっちゃわーかーるー」」
「まてやコラ」
別に人種差別はアメリカだけでの問題でもないが、わかりやすい人種間闘争があったから目立つのである。
「とはいえ、こっちは魔王討伐とか言って兵力を派遣するわけだろう?」
「基本的には数名の使節団みたいなものですね。事情をわかっているものだけで編成しています」
どこまでも仕込みである。
「けど、向こうはそれをどう処理するんだ?」
「同じですよ。向こうも討伐団を組織して、中間地点に築いている砦で双方落ち合って、討伐の証と称して宝物を交換するわけです。最大の冒険は道中の肉食動物たちから逃げることですかね」
夢がねぇな、というのが4ヶ国訪問団の感想である。
「で、それを俺らに行けと?」
「そちらにとっても魔王の国とも接点ができますし、いいのではないですか?こちらからは神託の巫女を同行させますし」
国王はそう言ったが、肝心の巫女はそんなの聞いてねぇ!とばかりに凄まじい形相で国王を睨んでいる。
ちなみに、その肝心の魔王が打ち合わせのために王都に来ている、というのはあくまで伏せておくつもりである。訪問団に勇者として出発して帰ってきてもらう方が都合がいいからである。
「本国と相談します」
とりあえずそう返事をしてその日はお開きとなった。
そうして各国が本国にお伺いを立てた結果、またぶっ飛んだことをする羽目になったのはまたのお話。
次は土曜日かなぁ・・・?




