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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
118/201

情報収集の大半は徒労

新世界暦1年11月7日 湖上王国 上空 アメリカ空軍 RC-135


天候が問題にならない高空を飛行する1機の変わった形の飛行機があった。

民間エアラインからは姿を消したジェット旅客機黎明期の4発機をベースに造られた、アメリカ空軍が保有するRC-135である。

一種の戦略偵察機ではあるが、その任務は電波情報収集(SIGINT)であり、発信された電波情報を収集、解析するのが主任務である。


逆に言うと、電波を出す機械を持たないような相手に対しては、全く役に立たないのだが、なぜか湖上王国上空を飛行していた。

勿論、標的は湖上王国ではなく、湖上王国に派遣されているアメリカ以外の外交団の通信である。


外交交渉に関して、外交団と本国の通信を傍受して外交交渉を優位に運ぶ、なんていうのはアメリカの常套手段である。

もっとも、今回の場合は単純に各国が湖上王国をどうするつもりなのか、その真意を知るための保険、といった程度のもので、何か拾えればラッキー、程度である。


「地上からの電波発信を確認。民間契約の衛星通信です」


まったく電波放射の無い地点の上空をグルグル旋回しているだけだったので、まったりした空気が流れていた機内が微かに色めき立つ。


「内容は暗号化されていますが、画像情報のようです。現在、回線の契約者を照会中」

「さて、日本か、イギリスか」


舌なめずりしながら情報の解析にかかる。


「日本なら自前の通信衛星を使うでしょうし、イギリスでは?」

「それ以前に、ろくに外交交渉なんて出来てないんだから、本国にお伺いなんて立てる必要が無いだろ。多分、非公式、もしくは非合法に得た情報を送信している可能性が高い。そうなれば日本でも偽装のために民間回線を使うくらいの知恵は回るだろう」


そんな会話が交わされる間も情報の解析は進む。


「回線の契約者がわかりました。ロンドンにある老舗高級テーラーが契約している通信回線です」

「・・・偽装する気あるのか?」

「さあ・・・?」


暗号化された情報を送信したのがほぼ100%英国秘密情報部(SIS)の人間だと特定されたことで、皆の興味はその中身に移った。


「解析は空中でやるより地上でやる方がよさそうだな」


単純なマシンパワーの問題である。

とにかく情報を収集することに重点が置かれているRC-135は機内スペースの多くを多数の周波数に対応する傍受機に占有されている。


「持って帰ってからのお楽しみか?」

「しかし、何か動きがあったらすぐに送信しろと言われてるしなぁ。衛星は使えるか?」


惑星のどこにいても常時通信衛星が使える。という状況には残念ながら未だ至っていない。

偵察衛星と早期警戒衛星、GPSが優先されたのも1つだが、日本と同じ状況、「ロケットはあっても衛星が間に合わない」という状況のせいである。


「ダメですね。さっき通り過ぎたばかりです」

「交代機がこちらに向かってるはずですから、中継すればすぐ嘉手納か三沢までは届くはずですが」


うーん、と情報士官は唸る。

なんせ、その経路の途中にはイギリスもあれば、日本の通信傍受施設もあるのである。というか、三沢はもろに日本の巨大通信傍受施設がある。

そこに向けて送信するとか、傍受してくださいと言っているようなものである。


「いや、傍受させて解析させるのも手か?」


解析の手は多い方がいいのは事実である。そして日本のほうが早ければ結果だけ掠め取ればいいのである。


「迷いどころだな」


結局、次の衛星が来るのを待つことを選択した米国だったが、中身の解析が終わり、出てきたのが湖上王国の大聖堂の教典で、普通に使節団がもらって帰ってきたものだとわかって悶えるのはもう少しあとの話である。




新世界暦1年11月7日 湖上王国 対岸農業地区


誰にも知られることなく英米が「こうどなじょうほうせん」を戦っているころ、湖の湖岸、湖上王国が唯一島以外に持っている領地の船着き場に1人の来訪者があった。


恐竜も裸足で逃げ出すような巨大生物が生息するこの大陸で、農耕地として辛うじて湖上王国が維持している土地だが、湖に面した場所を除いて、高い石造りの塀で囲まれている。

城壁に勿論途切れはなく、門すら設けられていない。外との交流が無いのだから、防御上の弱点をわざわざ設ける必要はない、というわけである。

城壁の外には広く深い堀が設けられており、城壁の上には一定間隔で巨大なバリスタと投石器が設置されている。


そんな場所なので、城壁の上で不寝番の連中はともかく、中の警備をしている人間なんて、ゆるゆるのガバガバである。

もっとも、王国としても、城壁の警備さえしっかりしてくれればいいので、メリハリをつける意味でも、城壁の警備番の時以外は多少のゆるみも許容されていた。

どうせ農業地区で働く人間も夜は島に帰ってしまうので、住んでいる人間はおらず、警備といってもやることがないのである。


そんなわけなので、船着き場にその来訪者が現れたとき、警備についていた兵士達は、一応警戒した。

深いフードのついたローブを羽織っており、顔はもちろん、体格すらはっきりせず、性別も読めない、「不審者です!」という出で立ちである。

これを警戒しないなら何を警戒すればいいのかわからない。


「夜間の船での往来は禁止されている。知っているだろう。帰りの船に乗り損ねたのだろうが、例外は認められん」


とはいえ、今のところただ夜に船着き場に来た、というだけである。

班長は怪しい奴、と思いながらも、追い返そうとする。ごくまれに夕方の帰りの船に乗り遅れる人間がいるのも事実である。

その場合は、そこいらで野宿するか、運が良ければ当直次第で兵舎に泊めてもらえるのだが、この見るからに怪しい奴を兵舎に泊める、というのは気が引けた。

目を離す、というのもどうかと思うので、そこらで寝てくれないかな、というのが班長の率直な感想である。


すると、不審者は班長に何かを見せ、別のものを渡した。

それを見た班長は目を見開き、渡されたものを懐にしまうと、不審者を船に案内した。


「この方を王都の船着き場まで」


班長はそう言って待機している船頭に指示する。

基本的に夜間の船の往来は禁止でも、緊急事態はあり得るので一応船頭も待機はしているのである。


「なぜです。緊急事態でもなさそうですが」


船頭は不審げな目をまず班長に向け、続けて班長が連れているローブの不審者に向けた。

すると不審者は、先ほど班長に見せたものと同じものを船頭に見せた。

船頭は一瞬、驚いた様子は見せたものの、船を出す準備を始めた。


「じゃあ出しますんで」

「くれぐれもよろしく頼む」


班長はそう言って船を王都に送り出した。


ローブの不審者はそのままフリーパスで王都を通り抜け、王城へと入ったのだった。




新世界暦1年11月7日 湖上王国 王城 国王私室


「くそー、どうすんだよ」

「しるかそんなもん、なるようにしかならねぇよ」


部屋の中には空き瓶が転がっているが、地球の酒飲みなら見慣れたラベルが貼られている。

言うまでも無く使節団のお土産なのだが、ちょっと味見、といって飲み始めたら止まらなくなって立派な酔っ払いになった国王と大司祭の兄弟。

元々は巫女や宰相など(王家近縁)もいたのだが、酔っ払いが出来たのを見てそっと絡まれないように帰ったので、2人しか残っていない。


「勇者どうすんだよ。市民は完全にあの来訪者が勇者だと思ってるじゃねぇか。言葉もわかんねぇし、どうすりゃいいんだよ」

「ああー、神託が嘘っぱちだとかバレたらどうなるかとか考えたくねぇ」


完全にただのダメ親父と化している2人だが、そこでゆっくりと部屋の扉が開けられた。


「ん?誰だ?」


そこに立っていたのは深いフードのついたローブを被った人物、要するに見るからに不審者である。


「何奴!?」


国王は誰何し剣を取った、つもりだったが空き瓶を握って構えていた。

もうグダグダである。


「ずいぶんと面白そうなことになっているではないか」


そう言ってフードを脱いだ下から現れた顔は浅黒い肌に整った顔、燃えるような真っ赤な瞳に、緑の髪。これだけでも異質だが、なによりも異質なのは、その頭に生えた2本の角である。


「「魔王!?」」


2人の声がシンクロする。さすが兄弟である。


「いやぁ、久しぶりだな。到着は明日じゃなかったか」

「そうだそうだ。今日つくとわかっていれば迎えをやったのに」


湖上王国のトップ2人は、旧友に会ったように馴れ馴れしく魔王と呼んだ男に近寄って肩を叩いている。まぁ、実際旧友なのだが。


「思いのほか道中が何事も無くて早くついてしまったんだ。それにしても、貴様らかなり飲んでいるな?」


そう言って魔王は空き瓶を手に取る。


「おお、まだあるぞ。まぁお前も飲め。面倒なことが起こっていてな、だがその面倒ごとが持ってきてくれた酒だ。酒精が強いうえに香りもいい」


そう言って酔っ払いが2人から3人に増えたのだった。

次は火曜日か水曜日かな?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話のタイトルは本質を突いていると思います。 ……今話の米軍、お気の毒www [気になる点] >神託が嘘っぱち あ~あ、読者視点ではもう嘘だってバレてるよ……。 湖上王国が外界と上手く…
[一言] もしかしなくてもグルじゃねえか、このドランカー共・・・
[一言] 更新お疲れ様です。 『こうどなじょうほうせん』w 大トラ三人(^^;; 次回も楽しみにしています。
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