外交とは出し抜くこと
本話には日本で行うと犯罪行為としてお縄になってしまう行為が含まれますのでご注意ください(今更
新世界暦1年11月7日 湖上王国 王都 大聖堂前 船着き場
着水したUS-2から船外機付のゴムボートを展開して、船着き場らしき場所に来たのだが
「数が多いな」
「見物に出てきた、って感じではないですね。前もって待っていた感じです」
「待伏せされていた、という様子ではないが警戒は怠るな」
第一陣として上陸した陸自特殊作戦群の桐島一尉は警戒を怠らずに指示を出す。
「しかし、何言ってるのかさっぱりわからん」
「ほんとどうするんだろうね、これ?」
まぁ別に交渉するのは俺たちの仕事じゃないし?といった感じで自衛官たちは自分たちの仕事をしている。
ちなみに、当初は護衛だし交戦中でもないのだから警察の管轄だ!とか噛みついたのもいたのだが、実際に派遣される現場サイドが全力で抵抗したのと、一緒に行く英米が国外なのに警察とかふざけんな、とさすがにキレたので自衛隊になった経緯がある。
とりあえずこんな派手な出迎えがあるのは想定外だったが、敵対的な様子はないことに安堵しつつ、後続のボートを待つ。
そして、日英米アと揃うが、
「予想通り言葉がさっぱりわからん」
「どうすんだ?」
「外交官に期待じゃね?」
数が4倍になっただけで言っていることは自衛隊だけのときと違いは無い。
とりあえず身振り手振りと、持ってきたタブレットなども駆使してコミュニケーションをとろうとする外交官たちを眺めながら、周囲の警戒を続ける各国護衛団だった。
新世界暦1年11月7日 湖上王国 大聖堂 神託の間
「なんなんですかあれ!?あんなの聞いてませんよ!?」
US-2が湖に着水するのを見て気が動転した湖上王国の幹部一同は、密談に都合がいい地下の神託の間に集まっていた。
「へー、神託の巫女でもわからないことがあるんだ」
「うるさいですよ!?」
へらへらとバカにしたように言った第一王子を神託の巫女が一喝する。
「しかし、どうしたもんか。あんなのがどうしてここに来たのかわからないが、神託の通りに現れたのが非常にまずい」
「だから私は伝承通り大聖堂のバルコニーに降り立つようにしよう、といったではないですか」
「仕方ないだろう、いま使えるワイバーンではあそこに降りるのはちときついんだから」
「だったら王城の空中庭園にすればよかっただろう。なんだって湖に降り立つだなんて言ったんだ」
空中庭園なんて大層な名前がついているが、単純に王城は島で一番高い位置にあり、そこに大きなテラスが設けられているのである。
地球基準で分かりやすく言うと、ひゅうがの飛行甲板くらいの広さである。なかなかデカい。
「やはり勇者を一般の目に触れれさせることで、英雄ということを演出せねばな・・・」
「そのせいで今収拾がつかなくなったんじゃないか」
皆、普段から結構一緒にいる近い血縁なので、遠慮というものがない。
「とにかく、今はあの来訪者たちをどうにかせねばなりません。まず方針を決めましょう。歓迎するのか、しないのか」
ぐだぐだになりかけたところで、神託の巫女が、ぱんと手を叩いて結論を促した。
「いきなり攻撃してきたわけでもない。平和的に交渉できるのなら、我々にとっても益があるのでは?」
大司祭が外部との交流を進めるべき、との意見を述べる。
「平和的な交流はいいが、連中が飛んできたことからしても我が国が孤立していることに変わりはない。外からの情報だけが入ってきたとき、果たして今の王国の体制が維持できるか?」
それに対し、国王は辛うじて維持できているこの小さな王国の行く末を心配する。
なんせ、わざわざ人為的に勇者と魔王なんて英雄と敵を作ってまで人心を1つにまとめている国である。
まぁ、魔王は実際にいるのだが、別にこの国にとって脅威というわけでもない。
むしろこの国にとっての脅威は、湖の島に国を作らねばならないほど、危険生物が闊歩しているこの大陸そのものだったりする。
プロパガンダで成り立つ国家とはいえ、この過酷な大陸で人間という種を存続させるための苦肉の策だったことも事実であり、うかつに外の情報を入れると、この閉じた王国は崩壊してしまうのである。
「しかし、あんなものを持っている相手だ。とにかくいずれにせよ、ここは穏便に行くべきだろう」
国王はとりあえずの方針を決めて、どうやって穏便に帰ってもらおうか、と頭を巡らせながら神託の間から続く階段を上がり始めた。
ちなみに、本来ならワイバーンに乗って登場するはずだった勇者役の王家から離れて育てられた第三王子は、飛行するUS-2を唖然として見送り、完全に出番を失って森で一晩過ごすことになったのだが、皆に忘れられていたというのは秘密である。
新世界暦1年11月7日 湖上王国 王都 王城離宮
王城からは少し低い場所に造られた離宮に、4ヶ国合同の訪問団は押し込められていた。
とはいえ、もともと外交使節なんて来ない国な上、唯一例外的に訪れる相手も、公式には敵対していることになっているので、普通は王城の本城内に宿をとるので、この離宮は本来、王太子となった王子が使用するものであり、それなりの広さはあるので、「押し込められる」というほどではない。
「まぁ、友好的なようで良かったですな」
「問題は言葉でしょう。身振り手振りやタブレットに表示した画像を使っていては限界がありますよ」
「また来る約束をして、書物などの言語情報を持って帰れれば、それで成功じゃないですか?」
そして、日本の外務省に割り振られた部屋で2人の外交官が話している。
ちなみに部屋の割り振りは4ヶ国で勝手に決めた。
どうもこの離宮を好きに使っていいと言われた(気がする)からである。
「なんだったら1人くらい連れて帰りたいが」
「意思疎通が不十分なのにそんなことして、拉致だなんだとマスコミに騒がれたら面倒ですし、あとからこの国に連れ去られたとか言われたら外交問題になってもっと面倒ですよ」
「アズガルドのときもそうだが、先人たちの苦労をまさか俺らが味わうことになるとはなぁ」
地球国家のとの外交関係で「言葉が通じない」なんていうことはまずない。
国連に参加している限りは、国連公用語の英語、仏語、露語、スペイン語、中国語、アラビア語のどれかが通じないということはないし、参加していなくてもどれも通じない、なんていうのはよほど秘境の少数民族でもない限りないからだ。
「まぁ、とりあえず次につなげて、言語情報を持ち帰るという低い志で頑張りますか」
「というか、それ以上は望めないですしね」
やれやれ、といった感じで2人は会話を終えたのだった。
新世界暦1年11月7日 湖上王国 大聖堂 外縁部
基本的に明かりが貴重品な中世世界にありがちな通り、この国の夜は早い。
そんな寝静まった湖上王国で、うごめく怪しい影が1つあった。
せっかくなので、ここからはそんな怪しい影の主観で見てみることにしよう。
私の名前はジェイソン・ボンド。
外交使節団の英国陣営の護衛についてきた特殊空挺の隊員だ。ということになっているが、本当の所属は秘密情報部だ。
私の任務は、共に使節団を派遣している他の3ヶ国を出し抜くこと。
と言っても、言葉すら通じないのだから出来ることは多くない。
政治工作が出来ない、となると情報を他国より多く持ち帰るしかない。今なら何を持ち帰っても貴重な情報なのである。
そこで目を付けたのが、この建物。
警備はいるが、王城ほどではなく、その警備も夜になったらどこかの警備員程度の仕事しかしていない。
地理的要件もあり、コソ泥程度しか警戒する必要がないからだろう。実に好都合だ。
なんせ、警備システムなんてものが存在しそうにない技術水準である。見回りさえやり過ごせれば侵入し放題である。
そんなわけでぱぱっと敷地内に侵入し、内部の様子をうかがう。
明かりがついている部屋は1つだけ。
建物の上部なので、監視カメラもない世界で警備の詰め所、ということは考えにくいが、まずは最優先で確認することにする。
壁をよじ登るため、ワイヤーフックを射出し、屋根に引っ掛ける。引っ張ってしっかりかかっていることを確認するが、念のためもう一本射出し、別の場所にかける。
せっせとよじ登り、窓からそっと中の様子を窺う。
かなり地位の高い人間の居室のようで、宮殿のような装飾が施された内装や家具が目に付く。バッキンガムには劣るけどね!
寝室らしき部屋を、誰もいないのかとしばらく観察していると、1人の女性が入ってきた。
どうやらここは彼女の居室のようだ。到着時にバルコニーで見かけた、かなり地位が高いらしい女性だ。聖女とかいうイメージがぴったりな服装に、本人の容姿も、繁華街を歩けば男なら10人中7、8人はおっと思う美人である。
そして、その女性は何やらぶつぶつと文句のようなことを呟きながら、おもむろに服を着替え始めた。どうやら寝間着に着替えるようだ。
うーん、マーベラス。
思わず持っていたデジカメで撮影してしまった。
言葉が通じるならここで部屋に入って口説き落とし、ラブロマンスと洒落込みたいところだが、残念ながらそれはできない。
仕方ないので仕事に戻ることにして、無人の講堂らしきところに侵入する。
一段高くなった正面には祭壇らしきものがあり、外見から宗教施設だろうと思っていたが、やはりそうだったらしい。
説教するために講堂のような場所を設けるのはどこの宗教も共通である。
そこで書物をいくつか見つけたので、聖典らしきものを中心に中身を全て撮影し、暗号化して民間の衛星通信回線を使って送信した。ちなみに、侵入をこの時間にしたのは、夜間だから、というのもあるが、契約している衛星が通信可能圏に入るから、という理由もある。
本来なら軍用の通信衛星を使いところだが、独自の打上能力を持たないイギリスでは今のところ困難である。
とはいえ、衛星通信は指向性が強く、発信元と受信元の線上に近くないと電波傍受は困難であり、大量の通信が行き交うインターネット回線を経由して暗号化した画像情報を送信するので、まず他国に見つかることはないだろう。
ちなみに、先ほど撮った女性の画像だけはプライベートに分けておくことも忘れておらず抜かりはない。
それにしても、紙が貴重らしく、羊皮紙のようなものに書かれているのが大半である。
装丁に使用しているのも皮のようだが、地球では見たことのないものである。・・・まさか人の革じゃないよね?
桐島一尉再登場。そしてエイプリルフールキャラを再利用。
次は日曜日にできるとええなぁ




