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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
113/201

騙して悪いが

新世界暦1年11月3日 ザルツスタン連邦国 防衛線後方地点


闇夜の街道を灯火管制を行った戦車部隊が行軍している。

戦車に詳しい人間が見れば、KV-1とKV-2を足して割った(車体一緒じゃん)みたいな見た目だな?と思う車両が多い。

ザルツスタン連邦国で最後に残った大規模な機甲師団である。


ザルツスタン連邦国に上陸したインド軍は、すでに現地の飛行場を接収し、完全に復旧、というか元より高機能な空軍基地に作り変えてしまったので、制空権を完全に喪失したザルツスタン連邦国は、完全なジリ貧状態である。

未だ決着がつかずにザルツスタンが粘れているのは、国境付近で演習を繰り返す中国とパキスタンのせいで派遣戦力が限定されているインドが押し切れていないだけなのだが、そんなことを知る由も無いザルツスタンはこれを敵が攻勢限界を迎えたと判断し、各所に隠蔽することで辛うじて残っていたなけなしの機甲戦力を投入した反撃作戦を実行したのである。


昼間は敵の航空攻撃の危険があり、夜間にこっそり移動して戦力を集結することで一気に敵航空基地を突く、というのがザルツスタン連邦国の意図だった。




新世界暦1年11月5日  ザルツスタン連邦国 防衛線後方 機甲師団集合地点


すっかり陽が沈み、暗闇に包まれた森の中で動き回る多数の影があった。

ザルツスタン連邦国最期の機甲師団戦力が、昼間の航空偵察をごまかすために施していた偽装を解除し、次々にエンジンに火を入れ出したのである。


「第1重戦車中隊、全車続け!」


先頭車両の車長用ハッチから顔を出している中隊長が無線に向かって指示を出す。


「我々の故郷を焼いた悪魔どもに鉄槌を下すのだ!」


その号令とともに、重厚な重戦車の群れが敵の航空偵察をごまかすために入っていた森を出る。

多数の戦車のエンジン音が共鳴し、闇夜に響き渡る。


これまでのところ、敵の攻撃は昼間だけで、夜は航空攻撃はもちろん、地上部隊の攻撃もほぼない。

ほぼ、というのは嫌がらせのような砲撃が不定期に行われていたからである。


「目標の占領されたザリーニングラード航空基地にいかなる犠牲を払ってでも突入する!」


防衛線上の街道に設置された対戦車障害は、すでに工兵によって撤去されている。

最後の機甲師団と、他部隊からかき集められた戦車、半装軌車(ハーフトラック)、トラック、とザルツスタン連邦国最後の正規戦力といって差し支えない大戦力である。


そんな車列が重戦車を戦闘に、一気に敵前線めがけて突撃する。

これまで前線で隠蔽されていた野砲や歩兵砲、迫撃砲も敵前線に向けて射撃を開始する。


突撃開始だと重戦車が敵前線に躍り込もうとしたところで、聞きなれない音が聞こえてきた。


「何の音だ?」


装填手もハッチから不安そうな顔を出して周囲を見回すが、陽は完全に沈んでおり、曇っているので星の光もほぼない暗闇である。

プロペラの回転音のように聞こえるが、聞いたことのない音である。


次の瞬間、空で複数の閃光が走ったと思うと、複数の飛翔音が聞こえ、40を軽く超える戦車が一気に吹き飛んだ。

彼らには知る由も無いが、インド空軍のAH-64E編隊によるヘルファイア対戦車ミサイルの一斉攻撃である。


「バカな!?敵はどこだ!?」


部隊は完全に混乱状態に陥った。

砲兵が砲撃を開始したとはいえ、未だ敵前線に戦闘部隊が到達していないのに、こちらの位置がわかっているかのように正確に攻撃されたのである。


「嵌められたのか!?」


これまで敵は昼間は正確に攻撃してきたのに、夜間に攻撃はしてこなかった。

それを勝手に「できない」と判断して今回の作戦が立てられていたが、これまで敵があえて「していない」のだとすれば、その目的は・・・ということに気づいて中隊長は戦慄する。


「攻撃中止!全車散開!森でも建物でもどこでもいい!隠れるんだ!」


無線にそう叫び、自車も街道を外れて脇にある森を目指す。

そこに新たな音が聞こえてくる。

さんざ昼間に聞きなれた轟音である。


「敵航空機接近!」


姿は全く見えないが、まっすぐこちらに向かってきて、上を通過した、と気づいたと同時に、中隊長の意識は爆発と共に吹き飛び、二度と戻ることはなかった。





新世界暦1年11月3日 ザルツスタン連邦国インド占領地域 派遣インド軍司令部


時間は少し戻って、ザルツスタンがせっせとなけなしの戦力を集合させているころのインド軍である。

最初に印露艦隊に喧嘩を売った艦隊が帰港して巻き添えでボコボコにされた軍港の近くにある飛行場を大拡張して現地司令部を置いていた。


「こうもこちらの思惑に乗ってくれるとむしろ、こちらが嵌められてるんじゃないかと疑ってしまうな」


白黒の赤外線画像を眺めながら、派遣軍司令官の陸軍中将は笑っていた。


「ええ、全くです。夜間攻撃をしてこなかった甲斐があるというものである」


中将の言葉を受けて、同じく笑っているのはロシア空軍の大佐である。

ロシアは地上兵力を新大陸に割いているので、こちらにはほぼ航空戦力しか派遣していない。

インドが地上兵力偏重で、空軍戦力は旧式機が多く、一線級の機体は米仏露ごった煮なので、割と弱点を補い合う配置だったりする。

インド空軍も固定翼機を派遣していないわけではなく、テジャスを16機派遣し主に防空を担当している。

とはいえ、敵航空戦力はほぼ壊滅しているし、ロシアが唯一の地上戦力として地対空ミサイルを展開しているので、あまり必要はなく、対地攻撃していることも多い。

対して、ロシア空軍はSu-24とSu-25、Tu-22が主力で、対地攻撃、というか本国から飛んでくるTu-95やTu-160も合わせてほぼ無差別爆撃を行っていた。


「隠されたものを探して掃討していくのは面倒ですからね。向こうがわざわざ集めてくれるのなら願ったり叶ったりです」


司令部にいる幕僚たちも思惑通りに敵が動いてくれたことに安堵していたり、笑顔を見せていたりと、明るい雰囲気に包まれている。


ザルツスタン連邦国攻略において、問題となったのは派遣戦力の少なさだった。

本国防衛を考えると、あまり戦力を派遣できなかったのである。

ロシアも新大陸や本国での中国との睨み合いのせいで地上戦力は派遣できず、地上戦力はインド陸軍の18万が全てだった。

18万もいれば十分じゃね?と思うかもしれないが、イラク戦争の米英軍が約25万で、占領後のことを考えると過少だと批判され、実際その通りになったのである。

遠征の場合、遠くなればなるほど兵站部門の占める割合が増えるので、数字ほどに戦闘部隊がいないのである。


イラク戦争の失敗は、敵戦力を残したまま首都を衝いて指揮系統を崩壊させてしまったので、武器が流出し面倒なことになった。

それを防ぐために、電撃的に敵の首都を急襲する作戦プランは破棄し、ある程度のところで攻勢限界を装い、敵戦力の集結を待つ、という作戦がとられていた。

そこで、敵の戦力集結を促すため、ここまで夜間攻撃は行わず、無人機による偵察だけにとどめていたのである。


結果は御覧の通りで、夜間なら航空攻撃を受けないと勘違いした敵がどんどん戦力を集積してくれている。

そして日の出前にはせっせと森林やトンネルなどに偽装して隠しているのだから哀れですらある。


「敵の集積具合からすると明日で部隊集合が完了、明後日がXデイというところかな?」

「まぁ、こちらはすでに出撃準備は完了しているので、敵の集合が終わり次第攻撃可能です」


結局、敵の戦力集合が完了したか一番簡単に確認できる方法として、敵が攻勢を開始した時点をゼロアワーとして航空攻撃開始という作戦方針が決まり、実際その通りに実行されたのだった。

次回は水曜日

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― 新着の感想 ―
[良い点] >上を通過した、と気づいたと同時に、中隊長の意識は爆発と共に吹き飛び、二度と戻ることはなかった。 この辺りの、無情なる死が唐突に襲ってくる描写は、 今話までに何度も描かれているにも関わら…
[一言] ザルツスタン、最大限の工夫も裏目に… 夜間に攻撃が無いってのが唯一の希望だったんだろうなぁ… もうこれは正規戦諦めてゲリラ闘争…と行きたいところだけど、支援してくれる国のアテがないとそれも難…
[一言] 久々のザルツスタン。てかまだ生き残っていたのね。
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