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戦国不精で何が悪い〜米作りとか面倒なのでやめました〜 ―神様のチート、無意味でしたよ。人口比10対1の東北なのに、なぜか天下が見えてきたかも―  作者: 犬童好嬉


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第177話 戦準備

貴丸の説明が一段落すると、陣幕の中央へ地図が広げられた。


「じゃあ、ここからは何をするか話しまーす」


貴丸は地図へ指を走らせながら、作戦を示していく。話が進むにつれ、陣中の空気が少しずつ変わっていった。


「……は?」「そんなことをするのか」


思わず声を漏らす者。目を白黒させる者。腕を組んだまま唸る者。そして、一通り聞き終えた瞬間、堪えきれず吹き出す武将まで現れた。


「はははっ! 本気で申しておるのか!」


陣幕のあちこちで驚きと笑いが入り混じる。それほどまでに、貴丸の策は誰も思いも寄らぬものだった。


もっとも、その場で最も驚いていたのは、ほかならぬ孫三郎である。


最初にこの策を聞いた時、孫三郎も思わず耳を疑った。


(こんなもので本当に敵が止まるのか)そう思わなかったと言えば嘘になる。


だが、先ほどの貴丸の話を聞き、その考えはすっかり変わっていた。


兵の数だけではなく、水、兵糧、駄馬、人足に至るまで瞬く間に勘定し、さらに武将一人ひとりの役目や行動まで見抜いてみせた。


あれほどの洞察力を持つ童であれば、自分には思いもつかぬ景色を見ているのかもしれない。そう思えたのである。


孫三郎はゆっくりと皆を見回した。


「この策については、すべて貴丸ど、いや、敦丸殿へ任せる」


その一言で、陣幕の空気が引き締まる。貴丸は頷くと、さっそく一人ひとりへ役目を割り振っていった。


「足軽大将の人たちは、これをお願いしまっす」

「馬廻りの人たちは、こっちね」

「伝令衆は、この道を何度も走って覚えてね。道にこの白い布を草や木に括り付ければ目安になるよ。この布の道には、あれは撒かないで」


次々と指示が飛ぶ。その内容を聞くたびに、武将たちの表情はめまぐるしく変わった。


「……なるほど」と感心する者。


「そんなことまでやるのか」と驚く者。意味が分からず首を傾げる者。だが、不思議と異を唱える者は一人もいなかった。


総大将である孫三郎が、すべてを貴丸へ委ねると宣言したこと。


何よりも、つい先ほど目の当たりにした、童とは思えぬ洞察力を、誰もがその目で見せつけられていたからだった。



その日から二日間。


孫三郎率いる幕府方およそ千の兵は、貴丸あらため”敦丸”の命のもと、それぞれに与えられた役目へ懸命に取り組んだ。


ある者は山へ入り、ある者は川へ向かい、ある者は資材を運び、またある者は昼夜を問わず走り続ける。


その様子を見ても、何をしようとしているのか分かる者はほとんどいなかった。


それでも誰一人として手を止めることはない。


やがて、その二日間の積み重ねが、誰も予想もしなかった形で戦場を大きく動かすことになるのだった。


西へ傾いた陽が陣を赤く染め始めた頃、本陣の外がにわかに騒がしくなった。


「ご注進! 申し上げます!」


張り詰めた声とともに、一人の物見の武者が陣幕へ駆け込んでくる。砂埃にまみれ、肩で息をしながらも、その場へ膝をついた。


孫三郎が静かに頷く。


「申せ」


物見の武者は一度深く息を整えると、声を張り上げた。


「淀川手前に敵勢、続々と集結しております!」


陣幕の中の空気が一瞬で変わる。武将たちが顔を上げ、互いに視線を交わした。


物見は続ける。


「先陣は、三好元長殿の旗印にございます。さらに寒川左馬允殿、香西勢をはじめ、阿波衆と思われる旗も数多く確認いたしました」


その報告に、陣幕の中でざわめきが起こる。


物見はさらに言葉を続けた。


「敵勢は、およそ五千。いえ、それ以上かと。いずれも阿波より渡ってきた先遣の軍勢と思われます」


孫三郎は落ち着いた声で尋ねる。


「澄元殿と三好之長殿は」


物見は即座に答えた。


「阿波および堺より届いた知らせによりますれば、細川澄元殿、三好之長殿の本隊は、あと十日とかからずに渡海し、こちらへ到着する見込みとのことでございます」


陣幕の中に重い沈黙が落ちた。


敵はまだ全軍ではない。それでも、目の前に迫る五千の兵は十分すぎるほどの脅威だった。


「……やはり、その通りか」


孫三郎は小さく息を吐く。


ここまでは、孫三郎の読みの範囲内だった。


しかし、その場で最も落ち着いていたのは、当の貴丸だった。


「予定どおりかな、ぽよ」


ぽつりと呟く。


すると、隣にいた足軽大将が思わず眉をひそめた。


「……ぽよ?」


だが、貴丸は気にした様子もなく、まるで明日の天気でも話すような顔で地図へ視線を落とす。


「敵が予定どおりなら、こっちも予定どおりだね」


そう言って顔を上げると、先ほどの物見の武者へ向き直った。


「敵の様子はどうだったすか?」


「様子……でございますか?」


「うん。疲れてる感じとか、兵の動きとか」


物見の武者は少し考え、それから答えた。


「はっ。かなり疲れている様子にございました。今回は十分な馬も集められなかったようで、二百騎いるかどうか。多くの兵が徒歩にて進軍しております。そのうえ休みも少なく、一気にここまで来たようで、兵の足取りは重うございました」


さらに続ける。


「それと、堺の商人からの話では、兵糧もまだ十分には集まっていないようだとのことにございます」

貴丸は満足そうに頷いた。そして、物見の武者を見る。


「なるほど、なるほど。すごいね。そこまで調べてきたんだね。敵が何人いるかだけじゃなくて、疲れ具合、馬の数、兵糧の状態まで見てきた」


貴丸は孫三郎へ顔を向けた。


「孫三郎さん。この人、すごく優秀な物見だと思うよ」


突然褒められ、物見の武者は戸惑ったように頭を下げる。


孫三郎も興味深そうに彼を見た。


「そなた、名は何という」


武者は背筋を伸ばした。


「島清継と申します!」


その名を聞いた孫三郎は、わずかに目を細める。


「島清継……その名、覚えておこう」


そして静かに頷いた。島清継は深く頭を下げた。


その様子を見届けた貴丸は、今度は周囲の足軽大将たちへ視線を向ける。


「みんな、準備は終わってる?」


一人の足軽大将が力強く頷いた。他の足軽大将も続いて話す。


「ご命令どおり、すべて整っております」

「申し付けられたものは、漏れなく用意いたしました」

「伝令衆も配置につき、いつでも動けます」


貴丸は満足そうに笑った。


「よし。じゃあ、始めよっか」


そして、楽しそうに告げる。


「さぁ、これから楽しい戦の始まりだよ!」


その一言で、陣幕の空気が変わった。


歴戦の武将たちは互いに顔を見合わせる。


これから何が始まるのか。まだ、その全貌を知る者はいない。


ただ一人。


目の前にいる十歳の童だけが、その先を見ていた。




総大将から「名、覚えておく」。この一言はかなり大きい言葉です。

今は戦の最中なので、一言だけですが、戦後に確実に褒美・感状につながります。


おおっと!ポチが多くなりましたね。

やはり皆さん、戦シーン、読みたいんですよね。。

戦のシーンは、、書きたいけど、、時間軸と敵と自陣の描写、考証と検証、

実際の歴史との辻褄合わせ、、、大変なんだよなぁ。。

他の作者さん、よく描写できるなぁ。。

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― 新着の感想 ―
島清国 清興親子と関係あるのかな?
続きが楽しみだ!
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