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戦国不精で何が悪い〜米作りとか面倒なのでやめました〜 ―神様のチート、無意味でしたよ。人口比10対1の東北なのに、なぜか天下が見えてきたかも―  作者: 犬童好嬉


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第173話 作戦02

貴丸はじっとしばらく地図を見つめながら考えていたが、そこから顔を上げると、部屋を見回した。


「じゃあ、今から策を話すねん?」


部屋の空気が一変する。


誰もが幼い童の口からどんな言葉が飛び出すのかを待っていた。


貴丸は指を一本立てた。


「まず、この戦で成し遂げることを、みんな同じ腹づもりにしておこう。この戦は勝つ必要がない。敵を倒すことも考えなくていい。これ大事ね」


その一言に、孫三郎たちの眉が動く。


「五日……いや、六日かな。それだけ持ちこたえれば十分かな。それだけありゃ、仲間の誰かは来るんでしょ?」


貴丸はにやりと笑った。


「それができた時点で、俺たちの勝ち。これが俺たちのゴールね」


静まり返る座敷。孫三郎が首を傾げた。


「……ごおる、とは?」


「あ、めんごめんご。最後にたどり着くところって意味ね」


「ふむ、最後にたどり着くところか」


貴丸は続ける。


「だから、この戦は普通の戦じゃない。槍で突いて、刀で斬って弓で撃つ戦じゃないんだよ。これは――心理戦と情報戦だよ」


座敷はしんと静まり返った。誰一人、その言葉の意味が分からない。


心理戦。情報戦。聞いたこともない言葉だった。


貴丸は皆の反応に苦笑した。


「まぁ、分かんなくていいや。とにかく、ここまで来たら腹を括って俺を信じて。へへっ」


そう言って孫三郎を見る。


孫三郎は静かに目を閉じた。友である信久。そして目の前の童。


常識で考えれば、とても信じられる話ではない。だが。皮屋で信久があれほどまでに心酔する姿を見た。


さらに先ほどの地形の読み。どれも十歳の童とは思えない。


ゆっくり目を開く。


「……承知した。ここまで来た以上、迷っても始まらぬ。友である信久殿がそこまで信じる童だ。この命、お預けいたそう」


深々と頭を下げた。

貴丸は満足そうに頷く。


「ありがとう」


そして貴丸は紙を引き寄せると、筆を手に取った。


「じゃあ、まず用意してほしい物があるんだ」


そう言って、さらさらと書き始める。


「竹。できるだけ長いものを、できるだけ多く。それと……一尺、二尺、それから四尺ほどの長さに切って、片方の端を尖らせた竹も大量に欲しいな」


信久はすぐに筆を走らせる。


「それから、竹の削り屑。これは一番大事だから、堺中から集めてほしい。捨てるような物でも構わない。木片や貝殻なんかもあれば一緒に集めて。銭を払ってでも構わないから、とにかくできるだけたくさん集めてね」


「竹の削り屑、ですか……」信久が確認するように呟く。


「うん。それと縄も必要」貴丸は指を折りながら、次の品を書き足していく。


「あと、布。大きさは……横三尺、縦九尺くらいのものを何枚か。色は何でもいいよ。赤でも白でも黒でも……むしろ、いろいろな色があった方がいいかな」


そこで少し悪戯っぽく笑う。


「それと、端切れの布もたくさん欲しいな」


信久は理由を聞きたい顔をしたが、黙って書き続けた。


「油と松脂。それから松明も。あ、硫黄も薬種屋で買えるなら欲しいな。あとは……法螺貝、太鼓、笛。音を出せるものを用意してね」


「音の道具まで……」


「うん。必要だからね」


最後に、貴丸は少し考えてから筆を止める。


「それと――厚めの和紙で、こんな形のものを作ってほしい」


紙をもう一枚引き寄せる。さらさらと線を引く。


描かれたのは、見慣れぬ形だった。底が広く、先へ向かうほど細くなる円錐形。


孫三郎が首を傾げる。「これは……?」


「秘密〜。まだ内緒。おほっ」


貴丸は笑う。「あと白粉ね」


今度は全員が首を傾げた。


「あと、松ちゃん(新五郎)いるかな?」


ちょうど茶を運んできた新五郎が顔を上げる。


「革でこんなの作れる?」


貴丸は今度は胴へ巻く帯のようなものを描く。


「できれば三〜四個ね。あと、折れた槍とか折れた刀があったら何個か集めといてね」


新五郎も首を傾げた。


「……折れた槍?」


「うん。できれば捨てるようなやつでいいよ。あ、使わないかもしれないけど、あれば助かる。あくまで俺の趣味かな」


部屋中が沈黙した。誰一人として用途が分からない。


孫三郎が恐る恐る尋ねる。


「……そのような物で、本当に敵を止められるのでございますか」


貴丸は当然のように頷いた。


「戦わないで敵を止められるなら、そのための銭は惜しまない方がいいよ。人一人育てるのに十年以上かかるんだからね。それが銭でなんとかなるんなら安いもんでしょ?」


そして堺の町を指差す。


「幸い、ここは堺だよ。銭を積めば、欲しい物はだいたい集まる。敵は四国から兵も兵糧も運んで来なきゃいけないからね。でも俺たちは違うでしょ、堺にも都にも近い。足りない物は買えるし、銭や物も借りることもできる。それに、運ぶ距離も短いから」


貴丸は笑う。


「つまり、地の利は、間違いなくこっちにある」


孫三郎は静かに頷いた。


「……確かにな」


貴丸も頷く。


「うん。よろぴくね。信久さんは品集めね。孫三郎さんは、高国さんの名で銭を借りるか、後払いの証文を書いてね。二日後には兵をここへ寄越して。そこでいろんな物をここに持って行ってもらう」


そして地図の一点を指差す。


「宇治川と木津川の合流する辺り。そこで全部受け渡す。そして敵を迎える準備をする。でも、そこから先は俺も着いて行くよ」


部屋が凍りついた。三兵衛が思わず立ち上がる。


「貴丸様! 戦場は危険にございますぞ! おやめくだされ! 元伯様に何と言えば良いのですか!」


泰能も厳しい顔になる。


しかし貴丸は笑った。


「弥太さんも一緒に来るよね? だったら、いざって時は真っ先に俺を逃がしてくれるでしょ?」


孫三郎は即座に頷いた。


「約束しよう。貴丸殿には剣も槍も弓も、一切近づけぬ。命に代えてもお守り申す」


貴丸は満足そうに笑った。


「それなら安心だね。それに戦場で普通の着物を着た子供なんて、案外誰も気にしないもんだよ」


泰能も苦笑しながら頭を下げた。


「……承知いたした」


こうして、一つの奇妙な作戦が動き始めたのである。


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