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第2話 「手切れ金じゃねえか」

 ルイーゼは滔々と語り始める。


「私とハル(あんた)——それとリーフちゃんは、みんな旅団のメンバーだったじゃない?」

「ああ、そうだな」


 魔王討伐旅団。

 各国の精鋭たちで構成された、実質的にこの世界でトップレベルの戦闘集団。

 異世界転生である俺も、様々な《《ご縁》》が重なって、運よく入団することができた。


「懐かしいな、……まあ、俺は終始お荷物だったけど」

「そうね」

「いやちょっとは否定しろよ」

「事実でしょ」

「じじつだよ」

「事実だけどさぁ!」


 こいつら2人まとめて宿から追い出そうかな。


「で」話を戻す。「そのあとお前は王宮に仕え始めたんだよな?」

「そうね。魔王が討伐されたとはいえ、その残党は各地で叛逆の機会を伺っている。それに、一時期的に協力したように見えても、国同士の大小さまざまな諍いは未だ解決していない。

 私みたいな強力な魔法使いは、それだけで重宝されるわね」

「だよなぁ」


 俺はルイーゼをまじまじと見つめる。


「……で、そんな王宮お抱えの魔法使い様が、なんでこんな辺鄙(へんぴ)な場所へ来たんだ?」

「フフッ」


 ルイーゼは自慢げに鼻を鳴らした。

 おそらくしょうもない理由なんだろう。


「ンまッ、私の実力は誰もが認めるところだったけど? 王宮っていう平和な場所では持て余しちゃうみたいなのよね〜」

「なるほど」


 思ったよりはまともな理由だった。

 ただでさえあの魔王討伐旅団というだけで、良くも悪くも一目置かれる存在となるのだ。

 それはもはや、「尊敬」を超えて「畏怖」の領域だ。


 加えてルイーゼは、旅団の中でもトップレベルの実力の持ち主だ。扱いに困ってしまうのも頷ける。

 それであれば、彼女がこうして王宮を離れたのも納得でき——


「王宮の人たちも『こんなところに居てはいけません! 早く旅立つべきです!』って毎日言ってきてさァ〜!」


 話変わってきたな。


「一生食べるに困らない財産をくれて、『これだけあれば城を離れられますよね⁉︎』って言ってくれたの!」

(手切れ金じゃねえか)

「お姫様だって、『あなた様のようなお方はこの王国に留まるべきではありません! このような平和な国では実力を発揮できませんし、役不足です! ルイーゼ様の今後のご活躍が実りあるものとなりますことを心よりお祈り申し上げます!』って言ってくれたし!」

「手切れ金じゃねえか」

「酷い!」


 ヤバい、心の声がつい漏れてしまった。


「厄介払いされたって言いたいの⁉︎」

「まあ、そうですね」


 おまけに最後の方、俺が元いた世界の就職活動のお祈りテンプレートだったし。

 魔王討伐旅団のメンバーとして最大限の敬意を払われながらも、体良くお払い箱にされた形だ。


 ルイーゼは消沈した面持ちになる。

 俯いて、今まで聞いたことのないようなか細い声で呟く。


「ええ……なんとなく分かってたわよ……。

 魔王を討伐したあと王宮に行く流れになったとき、お姫様から『え? ホントに来るんですか?』『いやあの、こう言っちゃなんですがあの国なんも無いですよ』『いや謙遜じゃなくて! マジで! 楽しいこととか無いですから! パンもサーカスも無いですから!』って言われたから、ひょっとして私、避けられてる…? って思ったもの……」

「逆によくそこまで言われてもなお行こうと思ったな」


 そのメンタルは純粋に尊敬する。

 決して見習いたくはないが。


「……私」


 ルイーゼは窓の方を眺めながら言った。


「……魔王討伐の旅、終わってほしくなかった。このまま一生魔王の元にたどり着かずに終わればいいなんて、そんなことすら思った。

 ……そんなこと、あるわけないのにね」


 初めて見る、ルイーゼの感傷的な表情。

 コイツ、こんなセンチメンタルな感情を露にするような女だったのか。一緒に旅をしていたときは気づかなかった発見だった。


 俺はなにか、ルイーゼにかける言葉を探していた。

 しかし、その言葉を紡ぐ前に、俺は服の裾を何者かに引っ張られた。


「ハル」


 俺の服を引っ張っていたのは、リーフだった。


「ごはん」


 ぐうう、と、リーフの腹の虫が鳴る。

 あまりにも子供らしい所作に、場の空気がすこし弛緩するのを感じた。


「ああ、そうだな」俺はリーフに対して微笑む。「飯にしよう」



 俺はパンとスープの簡単なメニューをテーブルに配膳した。

 本来は宿に泊まりに来た客のために使うテーブルだが、今回は俺とリーフも一緒に座っている。


「ここにすわっていいの?」

「ああ、今日は特別だ。俺の友人――知り合い――、……あ~~、同僚が来たからな」

「ちょっとずつ関係性がランクダウンしていくのなんなの?」


 ルイーゼがじっとりとした視線をこちらに向けるが、気にしない。


「まあ、なんだ、ルイーゼ、とりあえず食ってけよ。

 こんな遠いところまで来たんだ、腹も減ってるだろ」

「まあ、減ってるけど……」


 ルイーゼはスープの入った皿をまじまじと眺めた。

 器を眺め、何かを回顧するように語る。


「久しぶりね、ハルの手料理」

「そうだな、何年ぶりだろうな」


 ルイーゼはスプーンを手に取り、スープをゆっくりと口に運んだ。

 一口、二口、飲み込んでいく。

 そうして、飲み込んでいくうちに。


「……」


 ルイーゼの両目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。


「……笑っちゃうわね」


 ルイーゼは自嘲する。


「こんな薄くて、何が入ってるかも分からないスープなのに……」

「この流れでけなすことある????」


 あと、薄い味付けなのはわざとだ。

 200年生きているとはいえ、リーフの舌はまだ子供のように未発達なのだ。濃い味付けのものを食べさせるわけにはいかない。

 もちろん、これはあくまで自分たちが食べる料理の話で、ふだんは宿に来た客に合わせて料理を振舞っている。

 ルイーゼはひとしきりスープを飲んだあと、ふうと息を吐いた。


「おかしいわね、王宮で美味しいものなんてたくさん食べたのに、ハルに作ってもらった料理の方が何倍も心に沁みるわ」


 それまで、悲嘆に暮れていた少女の顔が、ほんの少しだけ和らいだ。

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