44.開戦
それから、戦いの準備をした。穴罠で敵兵を穴の中に落とす作戦だ。これならば、村人に大きな被害が及ばない。
それでも、どんな不足な事態が起こるか分からない。一応、村人も武装させることにした。
木で出来た盾を作り、木と石で作った柄の長いハンマーを持たせる。
剣も材料さえ取ってこれば作れるのだが、戦ったことのない村人が剣を扱えるとは思っていない。だから、誰でも使える打撃系の武器を持たせた。
最低限の装備を整えると、今度はキジバード団を偵察に向かわせ、三領の動向を見守る。
しばらくすると、三領から出兵したという報告が届いた。騎士爵家の二家からは二十名ずつの武装した農民が。男爵家からは皮鎧に身を包んだ兵士が八十名、武装した農民が百八十名が出てきた。
合計で三百人も出してきた。どうやら、数で押し切って勝ってしまおうという考えが見て取れる。
だけど、どれだけ人数を出してきても、戦える人数を出してきても、無駄。穴罠にはめるのだから、その戦力は全部無効化出来る。
悠々と敵勢力が到着するのを待ち、キジバード団の報告を待った。そして、とうとうその日がやってきた。
「敵勢力接近! 明日、到着予定!」
「来たね!」
私はすぐに行動に移した。戦える村民を集め、装備を整えさせた。そして、お父様が乗る馬に乗せてもらい、村民の前に立った。
ざわめいていた村人たちが、私たちの姿に気づいて静まり返る。不安と緊張が入り混じった空気。その中で、お父様が口を開く。
「皆、よく集まってくれた。すでに知っている通り、敵は三百。我らは百五十。数だけ見れば、二倍の差がある」
その言葉に、わずかにざわめきが起こる。だが、お父様は構わず続けた。
「だが、恐れる必要はない。敵は寄せ集め。統率も甘く、力も散漫だ。それに対し、我らはこの地を守るために集った者たちだ」
ゆっくりと、全員を見渡す。
「そして何より我らには、ミリア様がついている!」
その瞬間、空気が変わった。不安が、確かな何かに塗り替えられていく。
「ミリア様の加護を信じよ。我らの正しさを信じよ!」
お父様は剣を掲げる。
「勝利は、我らのものだ!!」
「「「おおおおおっ!!」」」
村人たちが一斉に声を上げた。その響きは、さっきまでとはまるで違う。恐怖ではなく、覚悟の声。
「ミリア様万歳!!」
「勝つぞ!!」
「やってやる!!」
恐れは、もうほとんど残っていない。あるのは、信じる心と戦う意志。……これならいける。
私はお父様の方を見ると、軽く頷いた。お父様も同じように頷き返す。
「出陣だ」
その一言で、全てが動き出す。村人たちが武器を握りしめ、隊列を整える。私たちはその先頭に立ち――
「行こう、ミリアたん」
『大丈夫、私がついているから』
◇
森を抜けると、一気に視界が開けた。見渡す限りの平原。風が草を揺らし、ざわざわと低い音を立てている。
その中央付近に、私たちは陣を敷いた。
「ここで迎え撃つ」
お父様の指示に従い、村人たちが隊列を整えていく。木の盾を前に構え、ハンマーを握る手には力がこもっている。
やがて――
「……来た」
誰かが呟いた。遠くの地平線。その向こうから、黒い影がじわじわと広がってくる。
土煙。揺れる槍の穂先。そして、三百の兵。敵勢力だ。
向こうもこちらに気づいたのか、徐々に速度を落とし、やがて一定の距離を保って停止した。両軍が、真正面から向かい合う。
静寂。重たい空気が場を支配する。互いに睨み合い、動かない。その緊張を破るように――カッ、カッ、と蹄の音が響いた。
敵陣から、一騎の馬が前に出てくる。
「……あれは」
目を細める。見覚えのある顔。その後ろにも、同じように馬に乗った二人。
「メルキア男爵に、シルヴェールとラヴィエル……」
あの日、パーティーでミリアたんを侮辱した連中だ。やがて、その中の一人、中央にいた男が前に出た。豪奢な服に身を包み、ふてぶてしい笑みを浮かべている。
「ほう……逃げずに来たか、モンベルト騎士爵」
メルキア男爵だ。こちらを見下すような視線で、ゆっくりと口を開く。
「数の差は理解しているだろう? 明らかにこちらの方が数が多い。勝負にもならぬ」
くくっ、と喉を鳴らして笑う。
「今からでも遅くはないぞ。膝をつき、我らに従うと誓うなら、命だけは助けてやろう」
露骨な挑発。周囲の貴族たちも、にやにやと笑っている。けれど――
「……くだらん」
お父様が、静かに言い放った。その声には、怒りも焦りもない。ただの事実を述べるような響き。
「勝敗は、数では決まらぬ」
まっすぐに、メルキア男爵を見据える。
「貴様らこそ、理解しておくべきだ」
その一言に、男爵の眉がぴくりと動いた。だが、すぐに――
「はっ……強がりを。まあいい。どのみち結果は同じだ。この場で、貴様らは潰える」
そして、くるりと馬を返す。
「勝ったも同然だな」
不敵に笑いながら、そう言い残して。そのまま自陣へと戻っていく。
……言ってくれる。でも、その余裕、どこまで持つかな。内心で、にやりと笑う。
次の瞬間――
「構えええええっ!!」
敵陣から、怒号が響いた。それに応じるように、兵たちが一斉に武器を掲げる。
「「「おおおおおおおおっ!!!」」」
地鳴りのような雄たけび。空気が震える。そして――
「進めえええええっ!!」
開戦。三百の兵が、一斉にこちらへとなだれ込んできた。大地を踏み鳴らし、土煙を巻き上げながら迫る大軍。
その光景に、普通なら恐怖するだろう。だけど――
「……予定通り」
私はすぐにミリアたんの力を解放した。標的は地面。収納するのは地面。広範囲に指定をすると、力を解放する。
すると、兵の目の前に大きな穴が出現し――敵勢力が次々と落ちていく。
「な、な、な、何ーーっ!?」
目の前にいた三百の兵は一瞬に消え、残りは領主だけになった。後は好きにボコして良いってことだよね?
ニヤリと笑うと、私は指示を出した。
「敵は三人! みんな、かかれー!」
「「「うおおぉぉぉぉっ!」」」
丸裸にされた副将と大将に向かって、百五十の兵が向かっていく。




