43.メルキア男爵領の情報
「キジバード団、全機集合」
屋敷の裏手。開けた草地に立ち、そう告げる。次の瞬間、空のあちこちから影が集まり始めた。ばさり、ばさり、と羽音が重なる。
木の上から、遠くの空から、次々とキジバードたちが飛来し、私の前に整然と並んでいく。その数、ざっと見ても数十。相変わらず統率が取れている。
「今回の任務は偵察。対象はメルキア男爵領」
全員の視線がこちらに向いたのを確認して、続ける。
「調べてほしいのは三つ。戦える兵士の数と質、装備の程度、それと、村人がどれくらい徴兵されそうか」
キジバードたちは静かに聞いている。騒ぐ個体は一羽もいない。
「無理はしなくていい。見つからないことを最優先。情報を持ち帰ることが仕事だからね」
最後にそう念を押すと、
「了解しました!」
一斉に短く鳴いた。
「それじゃ、行ってきて」
手を軽く振る。その瞬間――ばさあっ!!
大きく羽ばたき、キジバード団は一斉に空へと舞い上がった。隊列を崩さず、高度を上げ、そのまま一直線に遠方へと飛び去っていく。
……頼りになるな、本当に。その背中を見送りながら、小さく息を吐いた。
「さて、と」
あとは待つだけだ。
◇
それから一週間後。
「来たね」
窓の外を見て、ぽつりと呟く。遠くの空に、見覚えのある影。それが次第に数を増やし、やがてはっきりとした群れになる。
「キジバード団だ」
お父様の言葉に、家族全員が立ち上がる。私たちは揃って外へ出た。
庭に降り立つキジバードたち。長距離を飛んできたはずなのに、乱れはほとんどない。さすがだ。
「ご苦労様。中で話を聞こうか。と言いたいところだけど」
ちらりと周囲を見る。さすがにこの数を屋敷の中に入れるのは無理だ。
「ここでいいね」
家族も頷く。キジバード団はその場で整列したまま待機する。
「じゃあ、報告をお願い」
先頭にいた一羽が一歩前に出た。
「兵士という戦闘職は、およそ八十人です」
「八十……」
お父様が低く呟く。
「その内、ちゃんと訓練されてるのは半分くらいです。残りは経験はありますが、村人よりもちょっと強い程度です」
「装備は?」
「鉄の剣と革鎧が基本でした。一部は鉄鎧もいましたが、数は少ないです」
「で、問題の徴兵は?」
すると、他のキジバードが前に出る。
「最大で二百人以上はくらいは出てきそうです」
「……思ったより多いわね」
お母様が顔をしかめる。
「騎士爵家二つの四十人と合わせると、三百以下くらいか」
お父様が冷静に計算する。数だけ見れば、確かに多い。ウチは出せて、せいぜい百五十人程度だから、二倍近くの差はあるということだ。
「でも、質はそこまで高くないんじゃない?」
「はい。戦いを見てきましたが、近隣の弱い魔物を倒す程度の力しかありませんでした」
その程度の力ならば、こちらの狼の集団を出せば戦力にはなりそうだ。
「ほとんどが農民上がりで、統率もあんまり取れていない印象でした。武器もバラバラです」
なるほど。四十人の戦える兵士、四十人のそこそこ戦える兵士、そこに農民上がりの人が二百人ぐらいだ。
「まぁ、数は多いからまともに戦えば、こちらが負けるのは見えているね」
「では、何か他の策を講じなければな。どんな作戦がいいだろうか?」
「今から訓練したって、ちゃんとした技術は得られない。だから、簡単な事で相手をはめればいいんだよ」
「……罠か」
まともに戦えば負けるのは目に見えているし、策を実行するのがいい。
「簡単なのは穴罠だね。穴を作ってそこに落とせばいい。これで、相手に一部の戦力を無効化出来る」
「でも、どこかから来るか分からないのに、穴を設置する場所を予測で掘るの?」
「いや、直前で大丈夫。だって、私には異空間に収納できる力を使えるんだから。それで、土を収納すれば一瞬で穴が出来るってわけ」
「それはいいな! だが、シアも戦場に出るのか? 危険だと思うのだが……」
「いやいや、私が出ないでどうする。ミリアたんを貶した報いを受けさせるには、私が出るしかない」
それだけ、ミリアたんを貶した罪は重い。絶対にこの戦争で勝って、それぞれの領地から賠償金を根こそぎ奪ってやるんだ。
いや……お金よりも欲しいものがある。やっぱり、ミリアたんの信者は欲しい。お金はワインを売ったお金があるんだから、今必要なのは領地の人を増やすこと。
だったら、この戦争に勝ったら、領地の人間を根こそぎ奪ってやる。そうしたら、一気に信者が増える。
これは、絶対に負けられない!




