42.敵対
あれから一週間後、それは突然やってきた。
屋敷の中でミリアたんにお祈りを捧げている時、外から馬の嘶きと大声で話す人の声が聞こえた。
「なんだ?」
「……いってみましょうか」
お父様とお母様が腰を上げ、屋敷の玄関へと向かっていく。その後を、私とお兄様で追っていく。
家族で外に出ると、そこには三頭の馬と畏まった服装をした男性が乗馬していた。
「モンベルト騎士爵は誰か?」
「私だが……」
「私はメルキア男爵家の使い!」
「私はシルヴェール騎士爵家の使い!」
「私はラヴィエル騎士爵家の使い!」
お父様が名乗ると、その男性たちも名乗った。その家名には聞き覚えがある。あの日、パーティーでミリアたんを侮辱してきた一団だ。
「……して、その使いが三家揃って、何の用だ?」
お父様が落ち着いた声で問いかける。
すると、中央にいたメルキア男爵家の使いが一歩前に出た。手には巻かれた羊皮紙。いかにもそれらしいものだ。
「これより、正式な通達を行う」
芝居がかった声音で言い放ち、羊皮紙を広げる。
「モンベルト騎士爵家は、近頃、自らの製法にて作り出したワインを独占し、その利益を周囲に分け与えぬ非道を働いている」
……は? 思わず眉がぴくりと動く。
「さらに、聞き慣れぬミリアなる存在を神と称し、各地に広めようとしている。これは既存の信仰秩序を乱す異教の布教であり、看過できぬ重大な問題である」
横のシルヴェールとラヴィエルの使いも、うんうんと大仰に頷いている。
「よって我ら三家は、これを重大な脅威と判断し、異教徒たるモンベルト騎士爵家を討ち滅ぼすため、ここに宣戦を布告する!」
高らかに告げられる言葉。あまりにも一方的で、あまりにも身勝手。
「……」
お父様も、お母様も、お兄様も、何も言わない。ただ静かに、その言葉を受け止めている。
そして――。
「なお、これは正式な決闘・戦闘の申し入れである!」
さらに続ける。
「モンベルト騎士爵家は、この宣戦を受ける意思をここで示せ! 拒む場合は、臆したものと見なし、相応の処置を取る!」
……相応の処置、ね。ほとんど脅しじゃない。
でも、こういう形にしておけば名目は立つ。貴族社会って、本当に面倒くさい。
ふう、と小さく息を吐く。その時だった。
「シア」
お父様が、こちらを見た。判断を委ねる視線。ほんの一瞬、間が空く。でも、迷いなんて最初からない。
――にやり。自然と、口元が吊り上がった。
「受けて」
短く、はっきりと告げる。むしろ、望むところだ。ミリアたんを侮辱して、好き勝手言って、挙句の果てに討伐だなんて――そのままにしておく理由がない。
「……分かった」
お父様が頷き、前へ出る。そして、使いたちを真っ直ぐに見据えた。
「その宣戦布告、確かに受け取った」
静かに、しかし力強く。
「モンベルト騎士爵家は、それを受ける」
はっきりと宣言する。一瞬、使いたちの表情が固まった。まさかここまであっさり受けるとは思っていなかったのかもしれない。
「……よろしい!」
すぐに取り繕うように声を張る。
「では、確かに伝えた! 後悔するなよ!」
「覚悟しておけ!」
「我ら三家の力、思い知るがいい!」
好き勝手に言い捨てると、三人はほとんど逃げるように馬へと飛び乗った。バタバタと手綱を操り、そのまま勢いよく駆け去っていく。土煙が舞い、蹄の音が遠ざかる。
やがて静寂が戻った。
「……慌ただしいことだな」
お父様が呆れたように呟く。
「本当にね」
お母様も肩をすくめる。でも――。
「ちょうどいいよ」
ぽつりと呟く。向こうから仕掛けてくれた。なら、遠慮する必要はない。
「ミリアたんを馬鹿にした分、ちゃんとお返ししないとね」
静かに笑う。宣戦布告をしたことを、悔やんで悔やんで仕方ないってくらいに、思い知らせないと。
◇
「三家から宣戦布告を受けて、本当に大丈夫なの?」
今後の対策を考えるために、家族で居間に移動をした。すると、お母様が率直な疑問をぶつけてくる。
「騎士爵家の二家には戦力らしい戦力はないだろう。戦争を仕掛けてきても、兵は武器を持った村人だ。問題は男爵家の方だな」
「男爵家には兵士がいるの?」
「それなりにいると思う。何人かは分からないが、戦闘に長けた人間が戦争に参加すると思う」
なるほど。脅威になりそうなのは、男爵家の兵士たちってことか。
「でも、村人に武器を持たせただけって言っても、数は向こうの方が多いわ。だって、三家まとめてでしょ?」
「普通の騎士爵家には百人程度の村人だろう。出しても、二十人程度だ」
「じゃあ、騎士爵家の二家からは四十人程度が出てくるってわけね」
それぐらいが限界だろう。問題は男爵家の方だ。
「男爵家の方はどうなの?」
「これは、その領地で人数が違うから分からない。数百人規模から千人程度になるだろうから、それ以下としか答えられないな」
まずは、メルキア男爵領の事を知らないといけないということか。だったら、良い手段がある。
「じゃあ、先にメルキア男爵領に偵察を出そう。人口は何人で、どれくらいの村人が戦争に出てくるのか。それと、戦闘に長けた兵士がどれだけいるのか」
「それは簡単ではないぞ?」
「大丈夫。私にはキジバード団がいる。彼らに任せれば、メルキア男爵領の情報は手に入る」
まさに、偵察に打ってつけの存在だ。私の言葉にお父様はなるほど、と納得したように頷く。
「じゃあ、まずは偵察。その後に対策を立てるってことで」
相手のことを丸裸にして、戦争で圧倒的な有利な状態にしてやる!




