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推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする  作者: 鳥助


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41/45

41.敵

 そして、今日もまた。私たちは他領の領主に招かれ、盛大な夜会の場に足を運んでいた。


 高い天井に煌めくシャンデリア。磨き上げられた床に映る光。行き交う人々の衣装も一段と華やかで、この場がそれなりに格式ある集まりであることがよく分かる。


「本当に、どこへ行っても人が多いね」


「それだけ注目されている、ということだな」


 お父様の言葉に軽く頷く。


 今日も例に漏れず、到着して間もなく様々な人たちに囲まれた。ワインの話、商談の話、そして、ミリアたんの話。ひと通りの挨拶と会話を終え、ようやく一息ついた、その時だった。


「……ほう。これが例のモンベルト騎士爵家か」


 不意に、鼻にかかったような声が割り込んできた。振り向けば、三人の男がこちらへ歩いてくる。


 中央にいるのは、いかにも尊大そうな男。装飾の多い服装からして、おそらく男爵家。左右には、それに付き従うように二人の騎士爵家の男が控えている。


 取り巻き、という言葉がぴったりだった。


「噂だけはよく聞くが……ずいぶんとまぁ、成り上がったものだな」


 口元に薄い笑みを浮かべながら、露骨な視線を向けてくる。


 ……ああ、来たか。内心で、ため息をつく。


 ここまで目立てば、こういう手合いが出てくるのは当然だ。むしろ、今までいなかった方が不思議なくらい。


「お会いできで光栄です」


 お父様が礼儀正しく応じる。だが、相手はそれをまともに受け取る気などないらしい。


「ふん。ワインが少し売れた程度で、随分と顔が広くなったようだ」


「運が良かっただけでしょうな」


「全く、その通り」


 取り巻きの二人が、くすくすと笑う。あからさまな嫌味。けれど、その程度ならまだ可愛いものだ。私は何も言わず、穏やかな表情のまま聞き流す。


 こういう相手に感情的に反応しても、得るものは何もない。むしろ、相手の思う壺だ。


 ――そう、思っていたのに。


「それにしても……」


 男爵が、わざとらしく肩をすくめた。


「最近は妙な噂まで広めているそうじゃないか」


 嫌な予感が、胸の奥を掠める。


「ミリア様、だったか? 聞いたこともない名だ」


 ……ああ。


「訳の分からない邪神を崇めるとは、落ちぶれたものですな」


 ――プツン。


 すぐに切れた。思考が一瞬で静まり返る。さっきまでの冷静さが、音もなく消えた。代わりに、底の方からじわりと熱が込み上げてくる。


「……今、なんて言った?」


 気づけば、声が出ていた。自分でも驚くくらい低く、冷たい声だった。男爵が一瞬だけ目を細める。


「聞こえなかったのか? 邪神だと言ったのだ」


 周囲の空気が、ぴんと張り詰める。お父様が何か言おうとした気配がした。でも、それよりも先に、私は一歩前に出ていた。


「訂正してもらえる?」


 にこり、と笑う。でも、たぶん全然笑えていない。


「ミリア様は、邪神なんかじゃない」


 声は穏やか。でも、その奥にあるものは隠していない。男爵が鼻で笑う。


「では何だ? 聞いたこともない神を崇めて、たまたま上手くいったからと調子に乗っているだけだろう」


「……へぇ」


 さらに一歩、距離を詰める。


「聞いたことがないから、邪神? ずいぶんと浅い判断だね」


 周囲がざわつくのが分かる。でも、もう止める気はなかった。


「少なくとも、あなたよりはずっと、まともで、優しい神様だよ」


「なっ……!」


 男爵の顔が歪む。取り巻きの二人も、露骨に不快そうな表情を浮かべた。


「小娘が……!」


「事実を言っただけだけど?」


 首を傾げる。


「それとも何? あなたの言うまともな神様って、信じてる人を馬鹿にしてもいいって教えてるの?」


「貴様……!」


 空気が、一気に険悪になる。でも、構わない。


 ワインのことを言われても、家のことを言われても、笑って流せる。


 でも、ミリアたんを馬鹿にするのだけは、絶対に許さない。


「謝って。今の発言、撤回して」


 場の空気が凍りつく。誰もが、次の言葉を待っていた。


 数瞬の沈黙の後、男爵はふっと口元を歪めた。


「……いいだろう」


 だが、その声音に謝意は欠片もない。


「身の程を思い知らせてやる」


 低く、吐き捨てるように言うと、鋭い視線で私を睨みつけた。その目には、露骨な敵意とわずかな侮り。


「その減らず口、後悔することになるぞ」


 くるりと踵を返す。取り巻きの二人も、勝ち誇ったような顔でこちらを一瞥し、その後に続いた。


 コツ、コツ、と靴音が遠ざかっていく。その背中が完全に人混みに紛れるまで私は、視線を外さなかった。じっと、睨み続ける。


 胸の奥で、まだ熱が燻っている。何をしてくるか分からないが、その時は全力で叩き潰す!

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