35.ブドウが実るまで(1)
三度目となるブドウの収穫を終えた。
だが、その出来は期待したものとは程遠い。味は悪くはないものの、どこにでもある普通の域を出ない。これでは貴族に出せる品質ではないと判断し、市井へ流すことにした。
幸い、王子の紹介で繋がった商会がある。三度目の収穫で得たブドウは、干しブドウとして加工され、その伝手を通じて市井向けに販売されることになった。
原因を探るために畑を調べた結果、すぐに答えは見つかった。土の栄養が落ちているのだ。
けれど、それは本来、ワイン用のブドウにとっては理想的な状態でもある。そのまま食べて美味しいブドウを育てるには向かない土へと変わり、時が来た。
私は、ブドウ作りを一度止める決断を下した。季節はすでに秋を越え、冬が間近に迫っている。畑を休ませるには、むしろ都合のいい時期だった。
ブドウの木は休眠に入らせる。ミリアたんの力も借りて、これ以上の結実はさせない。
だが、それで終わりではない。むしろ、ここからが本番だ。ワイン造りは、収穫してからが始まりなのだから。
◇
私はブドウの木と向き合い、枝を切る。
「みんな、ちゃんと見ててね。こうやって、剪定をするんだよ。無駄な枝を切り落として、来年つける実を制限する。このことで、美味しいブドウが出来るし、負荷が軽くなる」
そうして、ブドウの木の枝を切り落とすと、すっかりと枝の数が減ってしまった。
「ほ、本当にこんなに切ってもいいんですか?」
「実が少なくなる気が……」
「なんだか、勿体ないですね」
その様子を見て、村人たちが微妙な顔をする。まぁ、その気持ちは分からんでもない。この間までたくさんの実をつけていたから。
「美味しいワインを造るには必要な作業だよ。要領が分かったなら、みんな散らばって剪定を初めて。一万本以上あるから、早く終わらせないと大変になるよ」
村人の背を押しつつ、作業に向かわせた。すると、見ていた村人は畑に散って、作業を始めた。
◇
冬の間、ブドウの木の剪定を終わらせた。そして、時が過ぎて、春になった。
ブドウ畑を見に行くと、ちゃんと新芽が出てきた。この時期に気を付けなければいけないのは、気温低下によって新芽が凍り付いて壊死してしまうことだ。
そうなってしまうと、ブドウの花が咲かなくなってしまう。だから、夜の気温や朝の気温に気を付けなければいけない。
毎日、気温をチェックしていると――急激に気温が下がった時があった。
「シア、今夜は凄く気温が下がっているぞ。ブドウの芽が凍ってしまうんじゃないか?」
「うん、まずいと思う。だから、火を焚こう。焚火をして、温かくするしかない」
「分かったわ。村中の人を集めて、作業をしましょう」
「俺も眠いけど、手伝う!」
家族が一致団結して動き出す。村人を集め、事情を説明した。そして、各々の家から薪を持ってこさせて、ブドウ畑の地面で薪を燃やす。
暗がりのブドウ畑に無数の焚火の火が灯った。まるで、イルミネーションみたいだ。私たちも村人たちも一瞬手を止めて、その光景に目を奪われる。
「はっ、いけない。みんな、作業を続けて!」
我に返った私が声をかけると、村人たちは正気に戻り作業に戻った。そして、私たちは順番に一晩中外にいて、その焚火の様子を見守った。
そうして、ブドウの新芽は守られた。
◇
春を過ぎた頃、ブドウの木は急激に成長した。芽から新梢と呼ばれる、実をつける枝が伸びてきた。このまま成長すれば、花が咲き、実がなる。その為に、事前準備が必要だ。
新梢が問題なく成長するように位置を整えたり、また余分な芽や枝を切り落とす。
「じゃあ、みんな。私がやったように調整してね。ちゃんと、ブドウに日の光が当たるようにだよ」
手本を見せると、村人たちは強く頷いて畑に散っていった。そして、黙々と新梢の調整をしていく。また、地道な作業の始まりだ。
そうやって調整が終わる頃になると、とうとう花が咲き始めた。このまま順調にいけば、受粉して実が出来るはず。
だけど、油断は禁物。雨が多かったり、風が強かったり、低温が続くと、正しく受粉出来ない。だから、春になっても天候の変化に十分に気を付けた。
だから、些細な変化にもすぐに気づく。雲が厚くなり、風が強く吹き始めたのだ。このままでは、ブドウ畑が危ない。
「ミリアたん、お願い。力を貸して!」
『もちろん。私にできることなら何でもするよ!』
みんなで畑に向かい、ミリアたんに祈りを捧げる。そして、力を集めると、その力を私が受け取る。
「よし、大きな魔力の壁になれ!」
私が力を解放すると、ブドウ畑を包み込む魔力の壁が出来た。その壁で囲まれたブドウ畑は風の影響を受けない。
「これで、一時しのぎにはなったよ。だけど、風が止むまでこの魔力の壁は維持しないといけない。だから、みんなの力を貸して」
そういうと、家族も村人たちも強く頷いてくれた。それからの三日間、私たちは出来る限りの祈りと力を使い、この春の嵐を乗り切った。




