28.開拓
「じゃあ、私はブドウの木の買い付けに行ってくるよ」
「うん! たくさん買えなかったら、一番良い木を買ってきて! それで、なんとかなるから!」
「分かった。一番良い木を買ってくるよ。楽しみに待っていてくれ」
そう言って、お父様は馬車に乗り込んだ。ゆっくりと進む馬車を見送った後、私たちはすぐに行動する。
「あら? シアはどうするの?」
「今のうちにブドウ畑を用意しようと思って」
「そんなに大変な事、一人で出来るの? お母様が手伝いましょうか?」
「ううん、大丈夫! だって、ミリアたんがいるから!」
そう! 私にはミリアたんが付いている! だけど、その意味が分からないのかお母様は首を傾げる。
「ミリア様で畑の用意? そんなことが本当に出来るの?」
「うん、大丈夫! だから、しばらくはブドウ畑にかかりきりになるから、村のことをお願いしてもいい?」
「もちろん大丈夫よ。ケイズがいないあいだ、私がこの村を守らないといけないからね。任せておきなさい」
うん、家族がいるのって心強い。好きないように行動出来るから、助けてくれる家族には頭が上がらない。
「じゃあ、俺も手伝う! 俺は筋肉ムキムキマッチョになって、周りの魔物を狩ってくるよ!」
「やっ、止めて、セント! あの姿だけは止めて! 可愛い子があんなむさ苦しくなるのは嫌よ!」
「えっ、もう無理! ミリア様に祈った! うおぉぉっ!」
絶望顔をするお母様の前で、セントが力を解放し筋肉ムキムキマッチョマンに変身した。
「いやーーっ! 私の天使が、私の天使が!」
「やっぱ、この姿はカッコいいな! じゃあ、村の平和を守ってくるよ!」
「どうして、その姿なのー!? もっと、カッコいい姿があるでしょうに! どうして、そうなるのー!?」
意気揚々とお兄様は出かけ、お母様は頭を抱えながら絶叫した。……うん、今日も家族が元気で幸せだな!
◇
領地を移動すると、木がいっぱい生い茂っている場所にたどり着いた。
「よし、ここをブドウ畑にする!」
『こ、ここを? でも、木が生い茂っているよ?』
「もちろん、ここから開拓を始めるんだよ」
モンベルト騎士爵の領地はほとんどが木で覆われている。流石、底辺の貴族。こんな大変な土地しか与えられなかったのだろう。
だけど、広さはそこそこあるので、開拓すればどんなことでも出来るってことだ。それに、木は資源にもなるから、今のうちに抜いた方がいい。あたらに畑を作るには打ってつけってことだ。
「じゃあ、まずは木を抜かないとね。ミリアたん、祈ってもいいかな?」
『もちろん、いいよ。私だっていつまでもポンコツじゃないから、強く祈ってもいいよ』
「そんな、無理はさせられないよ。だから、ほんのちょっとだけ強くするね」
ミリアたんには負荷をかけさせたくないから、控えめに……。
「全てを見通し万物を慈しむ至高にして無比の存在たる我が愛しき神よ、その御力は大地を潤し命を芽吹かせる奇跡そのもの、どうかその尊き御手でこの地に祝福を与え、私の願いを叶えててください。だってあなたは誰よりも偉大で、誰よりも優しくて、そして何より私だけが知っている一番素敵な神様なんだから」
『お、重っ……』
控えめに祈ると、ミリアたんの苦しく声が聞こえる。
「だ、大丈夫!?」
『だ、大丈夫! 少しは受け止められるようになったから! この力、シアさんに返すよ!』
心配して祈りを止めると、ミリアたんは態勢を整えて、祈りの力を返してくれた。その力が私の体に宿ると、なんでも出来そうな気がする。
「じゃあ、この力を転移の力に変えて――えい!」
木を触ると、一瞬で根こそぎ消えた。
『なるほど、転移の力を使ったんだね。簡単に木が抜けて、これならこの辺りを更地に出来そう! シアさん、流石!』
「いやいや。ミリアたんの力あってこそだよ。このまま木を資材置き場に転移させていけば、土地も出来るし、資材も増える。さぁ、どんどん抜いていくよ!」
やっぱり、ミリアたん凄いわ! 流石、最強最高の神様!
私はそのまま次々と木に触っていき、転移を続けていった。その作業を続けて数時間――辺り一面が更地になった。
『わぁ……こんなにすぐに更地が出来るなんて。よく頑張ったね、シアさん』
辺りを見渡して、こちらを向いて褒めてくれた。褒め、褒めて……くれた!
「ミリアたんに褒められるなんて、今日は一体どんな奇跡が重なった最上級どころか神話級の一日なの!? もう暦を書き換えて褒められ記念日として未来永劫語り継ぐべきでしょこれ! 石碑を建ててもいいし祝日にしてもいい、いやむしろ毎年盛大に祝うべきだよね!? だってあのミリアたんだよ、尊くて可愛くて偉大で最強で最高で、そんな推し中の推しに頑張ったねなんて言われちゃったんだよ!? こんなのもう実質世界を救ったのと同じ――」
『お、落ち着いて! 大丈夫、もう気持ちは伝わっているから大丈夫だよ!』
……ふー、ミリアたんへの愛が溢れてしまった。ミリアたんに引かれる前に止めなければ。
『作業はこれで終わり?』
「ブドウ畑にするには、段々となっていたほうがいいから、土壌の方にも手を加えなくちゃね」
『だったら、まだする?』
「今日はもうおしまい。だって、ミリアたんが疲れるからね。はい、お家に帰ろうね」
『もう……私は平気なのに……』
不貞腐れているミリアたんも可愛い。だけど、ミリアたんに負荷はかけられないから、今日はこの辺で。
ミリアたんを抱きかかえると、私たちは屋敷へと帰っていた。




