19.安全確保完了
「どうだ! 参ったか!」
『私たちに従うか?』
『し、従いますー!』
お兄様と私で狼の群れをコテンパンに負かせると、全ての狼がひれ伏した。これで、潰した群れは十を超え、引き連れた狼は二百を超える。
『他に群れはある?』
『いえ、これで周辺にいる狼の群れは仲間に出来たと思います』
『よし。じゃあ、仲間作りはこれでおしまい!』
どうやら、これで終わりらしい。とりあえず、今のところはこれくらの数がいればいいだろう。
後ろを見れば、従えた狼たちの姿が見える。住民よりも多い数か……。もし、この狼たちがミリアたんを信仰すれば、多くの信仰が集まるんじゃない?
「ねぇ、ミリアたん。魔物も信仰者になれるの?」
『うん、なれるよ。でも、人間とは違うから難しいよ。まず、信仰というものを説かないといけないから』
「そっか、まず理解をさせることが必要なのか。でも、大丈夫。私ならミリアたんを信仰対象にすることが出来るよ」
『えっ? そうなの? でも、理解する知能がないと……』
「大丈夫。叩き込むから」
今は少しでも信仰者がいないと困る。すぐには住民は増やせないから、とりあえず魔物で補う形がいいと思う。
魔物すらも魅了するミリアたん……素晴らしい! 流石は私のミリアたん! 全知全能の神!
その素晴らしさを知ると、絶対に信仰したくなるに違いない。よし、狼たちは護衛兼信者だ!
『みんな、私の前に集合』
低く、けれどよく通る声でそう告げると、狼たちは一斉に動いた。ざわり、と草を踏む音が広がり、二百を超える群れが整然と並ぶ。
……いい子たち。ちゃんと命令を聞けるなんて、本当に優秀だ。
私は満足げに頷くと、一歩前に出る。そして、にこりと柔らかく笑った。
『ねぇ、あなたたち。さっきまで敵だった私たちに負けて、こうして従うことになったわけだけど……ちゃんと理解してる?』
その声は優しい。けれど、どこか逃げ場を塞ぐような響きを含んでいた。
狼たちは一斉に伏せ、低く鳴く。
『は、はい……我らは敗れました。強き者に従うのが掟……』
『うん、そう。それでいいの。でもね、それだけじゃ足りないの』
ぴたり、と空気が止まる。
『あなたたちはただ従うだけじゃなくて、正しく従う必要があるの。分かる?』
狼たちが戸惑うようにざわついた。ちゃんと、伝わっていない? だったら、分かるまで言うまでだ。
『大丈夫、難しいことじゃないよ。とっても簡単。あなたたちが従うべき存在は、私でも、お兄様でもない。ミリアたん』
その名前を口にした瞬間、狼たちが理解できないように首を傾げた。だから、分かるように伝える。
『この世界で一番尊くて、一番可愛くて、一番偉くて……全部の頂点にいる存在。優しくて、慈悲深くて……。全部含めて最高なの。存在しているだけで奇跡で、息をしているだけで尊いの』
再び視線を落とし、狼たちを見た。にこり、と笑う。
『そんなミリアたんを信仰しないなんて、あり得ないよね?』
ぞくり、と狼たちが震えた。
『し、信仰……とは……』
『簡単だよ』
私は狼を見渡し、その視線と目を合わせた。
『ミリアたんを一番に考えること。ミリアたんのために生きること。ミリアたんのために戦うこと。そして……ミリアたんを疑わないこと』
出来るだけ分かりやすく伝えると、困惑の色が消えた。
『大丈夫。ちゃんと教えてあげるから。すぐに理解できなくてもいいの。分からなくてもいいの。――分かるまで、叩き込むから』
ニコリと微笑むと、空気が重くなったのを感じた。
◇
村に戻ると、村人と一緒にお父様とお母様がいた。心配そうな顔をして辺りを見渡していた。きっと、私たちがいなくなっていたことに気づいたのだ。心配かけちゃったな。
そう思って、みんなの前に飛び込んでいった。
「ただいま!」
「その声はシア……って、大きな狼!?」
「う、後ろに大勢の狼!?」
声をかけると、みんなが驚愕した。そして、ガクガクと震えだす。
「やだなー、私だよ。シア。ミリアたんの力で変身しているだけだよ」
「そ、そうなのかい……?」
「そ、そんなっ……あんなに可愛いシアが、こんなに怖い狼になるなんてっ」
お父様は引きつった笑みを浮かべ、お母様は今にも泣きそうな顔をしている。そうそう、ちゃんと説明しないとね。
「周辺の狼たちを従えてたんだよ。これで、狼たちが周辺の魔物を狩ってくれると思う」
「そんなことをしていたのかい?」
「シア、元に戻りましょう? あの、可愛いシアに戻って。ね?」
事情を説明すると、お父様は困惑しながらも話を聞き、お母様は泣きそうになりながら懇願してきた。と、そこへ――。
「お父様、お母様! 俺を見てくれ! 凄いだろう!」
「うわっ!? セ、セント!?」
「い、イヤーーーッ!! セントが怪物にーーーッ!!」
お兄様があの姿のまま登場すると、お父様は驚き、お母様は涙を流して絶叫した。
「どうして、私の可愛い子が! こんな化け物の姿にーーっ! 神よ! 私が何をしたというのでしょうか!?」
「お、落ち着け……レイチェル!」
「それで、魔物は狼が倒してくれるから平気だよ」
「ほら、見てくれ! 凄い体だろう!?」
「いやーーーっ! 罪があるなら、償います! ですから、可愛い子を返してー!」
「み、みんな、落ち着いてくれー!」
お父様の絶叫が木霊するが、その場の混乱は収まらなかった。




