17.お兄様の力
それから、私たちは村を取り囲む森の中に入っていった。中は鬱蒼としていて、どこに魔物が潜んでいるか分からない状況だ。
「いつ、魔物に襲われるか分からないね。先にミリアたんの力を貰った方がいいかも」
『そうだね。その方が安心出来るよ』
「俺! 俺が祈る! そして、巨人になって、シアを守るんだ!」
「本当に出来るの?」
「出来る!」
自信満々に胸を張るお兄様。ここまでいうなら、信頼していこう。
「じゃあ、見せてみて」
「おう! じゃあ、ミリア様に祈るな!」
『うん。いつでも大丈夫だよ』
お兄様がミリアたんに向き合うと、手を合わせた。
「え、えっと……ミリア様!」
お兄様はぎこちなく手を合わせながら、ちらりとこちらを見てから、もう一度ミリアたんへ視線を戻した。
「ミリア様は、その……ちっちゃくて可愛くて、でもすっごくすごい神様で……!」
『ちっちゃいは余計じゃないかな!?』
「えっ、だって可愛いし……あ、いや、えっと!」
一瞬焦りながらも、こほんと咳払いして仕切り直す。
「優しくて、みんなを助けてくれて、ご飯もいっぱいくれて、すごくて……とにかくすごい神様です!」
『語彙力ぅ……』
「だから! 俺に力をください! シアを守れるくらい、めちゃくちゃ強くなれるやつ!」
ぎゅっと拳を握りしめて、ぐっと顔を上げる。
「ミリア様の力で、でっかくなって、悪い魔物なんかぶっ飛ばす! だから――」
一拍置いて、真っ直ぐに願う。
「どうか、俺に力を貸してください!」
お兄様渾身の祈り。すると、ミリアたんの体が光った。
『こ、これは……強い祈りの力だよ! いけるかもしれない……えい!』
戸惑うミリアたんはまとった光をお兄様に飛ばした。すると、お兄様の体が光る。
「わぁ、凄い! 力が溢れてくる! これだったら、巨人になれそう! むむむっ!」
お兄様が力むと、その体に変化が現れた。
ぐぐぐ、と骨が軋むような音がして、体がみるみるうちに大きくなっていく。細かった腕は一瞬で太くなり、服の上からでも分かるほど筋肉が盛り上がった。
「お、おぉ……っ!」
背もぐんぐん伸びていく。さっきまで私と同じくらいの目線だったのに、あっという間に見上げる高さになった。
さらに――ビリッ。
「あっ」
嫌な音がした。服が、耐えきれずに裂けたのだ。
「ちょ、ちょっとお兄様!? 服が!」
「い、今それどころじゃ……うおおおっ!?」
肩や腕、胸元が露わになり、そこには信じられないほど隆々とした筋肉があった。まるで鍛え上げられた戦士のような体つき。いや、それどころか、下手な大人よりもよほど逞しい。
なのに。
「……あれ?」
私は、ぽかんと口を開けた。その巨大な体の上に乗っている顔は――
「ど、どうだシア!? 俺、強くなってるか!?」
いつも通りの、六歳のお兄様の顔だった。
つぶらな瞳に、あどけない表情。少し得意げに笑うその顔だけが、まったく変わっていない。
違和感が、すごい。
「……うん、強そう。すごく強そうなんだけど……」
「おぉ、やった!」
「顔だけそのままなのが、すっごく変」
「えっ!?」
お兄様は慌てて自分の頬をぺたぺた触る。
「え、え!? 本当だ! 体はこんなにすごいのに、顔は俺のままだ! シアと同じだな!」
『どうやら、シアの変身がイメージとして残ってしまったみたいだね』
ミリアたんも困惑した声を上げる。
「まぁ……でも、いいんじゃない?」
「いいのか?」
「うん。ちゃんと強そうだし。むしろ――」
私は腕を組んで、じっとお兄様を見上げた。
「顔がそのままだから、ちょっと可愛い」
「か、可愛いって言うな! 強いって言って!」
どん、と地面を踏みしめると、それだけで土が軽く揺れた。……うん、力は本物だ。
『か、可愛い? いや、ちょっとそれは……おかしいというか……』
「うん、完璧!」
「だよな!」
顔は真剣そのもの。でも、その幼い顔とムキムキの体の組み合わせが完璧すぎる。新しい可愛いの誕生だ。
「よし! これで、魔物をどんどん倒していくぞ! シアはお兄様が守るからな!」
そして、意気揚々と歩き出すお兄様。森の奥に進んでいくと、周囲に気配がしてきた。
「何か来るよ!」
声を上げると、みんなで警戒した。すると、木々の隙間からゴブリンたちが飛び出してきた。
「ギギッ!」
「グギャーッ!」
「ギャギャッ!」
「来たな、魔物! 俺の力で粉砕してやる!」
飛び出してきたゴブリンにお兄様が立ち向かっていった。素早い動きで一気に距離を縮めると、特大の拳を振りかぶる。
ドンッ!
「グッ!」
ゴブリンの体はへしゃげて、勢いよく飛んでいき、木にぶつかった。そして、その衝撃で木がへし折れる。
『す、凄い力だね! これだったら、魔物と戦っても大丈夫かも!』
「よし、お兄様! 残りのゴブリンも殲滅しちゃって!」
「任せておけ!」
お兄様はすぐに他のゴブリンに立ち向かっていき、次々と殴り飛ばしていった。まさか、ここまで強くなるとは思いもしなかった。
こうなったら、お兄様を使って森の魔物たちを駆逐していこう!




