14.知識の伝授
「シア様、今度は何をなさるんですか?」
「今度はみんなに知識を与えようと思う」
「赤ちゃんのシア様が我々に知識を?」
「ど、どういうことだ?」
村の一角に集められた村人たちは、ざわざわと落ち着かない様子で私を見ていた。無理もない。赤子同然の見た目の私が「知識を与える」なんて言い出したのだから。
けれど、ここで引くわけにはいかない。
「不思議に思うよね。でもね、これはとっても大事なことなの。今までは、私やミリアたんが用意したものを受け取ってもらっていた。でも、それだけじゃ足りないんだよ」
「足りない……ですか?」
年配の男が戸惑いながら聞き返す。
「うん。だって、それで終わりでしょ?」
その言葉に、村人たちの表情が固まった。
「もし、畑がまたダメになったら? もし、誰も助けてくれなくなったら? その時、みんなはどうするの?」
「そ、それは……」
答えられない。当然だ。今までは、どうにもならなかったのだから。
「でもね、知識があれば違う」
ゆっくりと、はっきりと告げる。
「どうすれば土が良くなるのか。どうすれば作物がよく育つのか。どうすれば病気を防げるのか。どうすればもっと効率よく働けるのか。そういうことを知っていれば、みんな自身の手で生活を良くしていける」
ざわり、と空気が変わった。
「自分たちで……?」
「そう。誰かに与えられるのを待つんじゃない。自分で掴み取るの」
村人たちは顔を見合わせた。戸惑い、迷い、そして少しずつ、理解が灯っていく。
「……そんなことが、本当に出来るんですか?」
震える声で、若い女性が尋ねた。
「出来るよ。だって、私が知ってるもん」
小さな体で胸を張る。
「そして、その知識をみんなに分けてあげることも出来る。これはね、ただの施しじゃない。みんなが自分の力で未来を変えるための一歩なの」
言葉を重ねるごとに、村人たちの目が変わっていく。
「もし、この知識を手に入れたら、今よりもっと楽に生きられる。今よりもっと、お腹いっぱい食べられる。今よりもっと、安心して暮らせる」
ごくり、と誰かが息を呑んだ。
「そしてそれは、誰かのおかげじゃない。自分たちの力だって言えるようになる。みんなは自分の力で豊かな暮らしを手に入れたくない?」
「手に入れたいです!」
「そんなことが可能なら、ぜひ!」
「今よりももっと良い暮らしがしたいです!」
「よろしい、では伝授しよう。でも、忘れないでね。ミリアたんの力があるから、知識を伝授出来るということを。全てはミリアたんのお陰」
釘を刺すようにいうと、村人たちはミリアたんを拝み始めた。うんうん、ちゃんと感謝をしているね。
「それじゃあ、伝授していくよ! ミリアたん、準備はいい?」
『いつでも大丈夫だよ!』
私はミリアたんを拝み、いつものようにミリアたんの素晴らしさを讃えた。すると、ミリアたんが光り、その光りが私に放たれた。
この力に私の知識を詰め込む。と言っても、適材適所になるようにだ。均等に知識を与えるんじゃなくて、個々に役割を持たせる。
畑仕事をする人には畑の知識を。道具を作り出す職人の知識を。家を建築したり修繕したりする知識を。そう言った、職人の知識を個々に付与する。
「じゃあ、いっけぇっ!」
十分に知識を詰め込むと、光りを村人に振りかけた。その光りは村人の頭の中に入っていき、みんながビックリした顔になる。
「こ、この知識はっ!」
「凄い……。知らないことが分かっていく!」
「この知識、凄いぞ!」
頭の中に入ってきた知識に村人は歓声を上げた。何も知識がなかった人が急に知識をつけると、頭が可笑しくなるんじゃないかと思ったが、どうやら平気なようだ。
そうして、知識の伝授を済ませた。その場はざわめき、それぞれが得た知識に喜んでいるようだ。
「どう? 何をするのか見えてきた?」
「はい! この知識があれば、色んな物を生み出せます!」
「今まで以上に収穫に期待が出来ます!」
「生活が豊かになる気配がします!」
どうやら、喜んでもらえたようだ。だけど、知識を得ただけでは終わらない。
「それぞれに一つの知識を伝授したけれど、知識を得ただけじゃダメ。それをどう活用するかが重要だよ」
「例えば、どのように活用すればいいのでしょうか?」
もっともな疑問だ。知識は持っているだけでは意味がない。どう使うかで、その価値は天と地ほど変わる。
私は一度頷いてから、ゆっくりと言葉を選んだ。
「知識はね、自分のためだけに使うと、すぐに限界が来るの」
「限界……?」
「得意なことを生かして、人の為に動くと豊かになっていく。その数が多ければ多いほど、人は幸せになる。これが、支え合うってこと」
村人たちは息を呑み、私の言葉に聞き入っている。
「知識はね、一人で抱え込むものじゃない。繋げるものなんだよ」
「繋げる……」
「そう。あなたが持っている知識は、誰かの役に立つ。そして、誰かの知識は、あなたを助ける」
私は胸に手を当てた。
「そうやって、お互いに補い合うからこそ、本当の意味で豊かになれるの」
しばらくの沈黙。やがて、一人の男がぽつりと呟いた。
「……じゃあ、俺たちは一人で頑張るんじゃなくて……」
「みんなで良くしていく、ってことだよ」
その言葉に、何人もがハッとした顔になる。
「今までみたいに、自分だけ生き残ればいいじゃない。みんなで生きていくの」
その一言は、確実に届いた。村人たちの目が、また変わる。今度は、決意だ。
「……やります」
若い男が拳を握る。
「俺、この知識を使って、もっといい畑を作ります。そして、それをみんなの役に立ちます」
「私も……家の修繕を誰かのために役立てます」
「道具も改良してみる……! みんなが使いやすいように!」
次々と声が上がる。もう、さっきまでの受け身な姿はどこにもなかった。自分で考え、自分で動こうとしている。
知識があるだけで、人はこんなにも前向きになれる。ようやく、普通の村への第一歩が踏み出された。




