第七話 レベルアップ!
第二章、開始です!
「もう誰も信じない……っ。どうせみんな、わぁしのことをばぁばにイヤなことをするための道具としか思っていないんぢゃっっ!!」
「シグレッ、違うわよ! …………え? 世界樹が、大きく……っ!?」
「――もういい。……全部、ぜんぶぶっこわしてやるんじゃ……。うそ、を、つく人間ばかりじゃ……どうせ、女神だって、みんな――――だから。
ぜんぶぜんぶ、こわれちゃえ」
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夜、アンナに服を届けてくれたティカに全部バレた。
具体的にはアンナの正体と僕の今後のことだ。
アンナのことはともかく、僕のことは伝えないわけにはいかないので、明日には言うつもりだったけどね。
「魔王軍幹部と仲良く里帰りしたわけね……へー、ほー?」
「そ、そうだね……そうなるよね……」
ティカの前で正座をし、上からなじられることを受け入れる。
今更だけど、アンナの気分次第ではリアビスの町が襲われることもあったのだ。
アンナはそんなことしない、と言えるのは僕だけだ。
ティカにとってアンナの人間性はまだ不透明だ。警戒するのも当然だろう。
魔王軍のひとりと知った今、町に入れることも躊躇うはず。
「気持ちは分かるよ? でも、アンナは大丈夫……僕を信じて」
「……あんたのことは信じるけどさ……でも、あいつは……」
ティカのドレスみたいな青い私服を着たアンナは、ティカが持ってきてくれたお弁当にがっついていた。
フォークもスプーンも使わず、ガツガツと手で口に運んでいる。
ぼとぼと、とこぼしながら、アンナは満足そうな顔で笑って、
「――これ、クソ不味いな!」
「じゃあ食べんな!」
「ごくん。ちがう、アタシは味で食べてるわけじゃない。生きるため、腹を満たすためだ。おまえの作る飯はクソ不味いが、アタシは好きだ。不味いけど美味いんだ」
と、独特の感性でティカのお弁当を褒めるアンナだった。
アンナに同感だ。周りの人たちは美味しくないと言うけれど、僕もティカの料理は言うほど不味いとは感じないのだ。
少し独特な味ではあるけど、食べてお腹を壊したことはないし、食べられないなら吐き出すはずだ。
それがないということは、味に問題があるだけで品質は安全となる。
「……あんまり食べるなよ……食べないでよね。あたしの『センス』であんたのレベルが上がるかもしれないからな――からね」
「メシ食うだけでレベルアップ? それ、いいセンスじゃん、なんで使わない?」
「いいわけあるかよ……ダメでしょ」
ティカがちらっと僕を見た。気を遣っているのがすぐに分かった。
いいって。もう気にしてない。そもそもティカのせいじゃないんだから。
あの時、ティカは自分のセンスに気づいていなかった。
ティカの料理を食べてレベルアップしたひとりの冒険者が、実力に見合わない難易度の依頼に挑戦して死んだことを、誰が予測できるものか。
「レベルアップするためには、今の自分には絶対に越えられない壁を越えなければならない。そこまでして初めて、レベルアップができる……のよ。でしょ? じゃないと世界中の人間がレベルアップし放題よ。数字だけ上がって実力がない冒険者が増えても自己満足で終わるだけ。塵が積もれば山となると言うけどね、単体で見れば塵でしかないわけ。今の自分じゃ越えられない壁を乗り越えてこそほんとの実力がつく。その結果が、レベルアップという形になった――」
ティカの言う通り。だから人類全体を見ても高いレベルの冒険者がいない。
最高が確か、二桁にいっていないんじゃなかったっけ……?
まだ生きているなら、レベル9が最大だったはず。かなり年上の世代だ。
五十年以上の期間があってこそ乗り越えられた壁の数だろう。そうぽんぽんと壁を乗り越えられるわけもなく、そもそも壁が多く出てくるわけもない。
過酷な旅を繰り返しているならまだしも……、だから勇者は、レベルアップのチャンスには恵まれている方だ。なんだけど……、弊害もある。
勇者は女神様にセンスを解放してもらっている。勇者だけの特権だ。
そのせいで(本来ならおかげなんだけど)、勇者は人類の中では最強と言われている。
レベルの差に意味がないほどには。勇者は人類が持てるはずのない三つのセンスで戦うことができるのだ。魔王以外は敵ではないと言ってもいい。
そう、センスという『魔力を必要としない特別な能力』によって、勇者は易々と壁を越えることができてしまう。
自分の実力以上の壁と言えば、魔王くらいしかいないだろう。
恵まれた環境に見えて、最もレベルアップから遠い存在になるのだ。
だから、勇者は万年レベル1、もしくは2だ。
数字が証明しない強さを持っているとは言っても、人間としての力が育ちにくいというのは細かいところで影響を出してきそうだった。
「あたしのセンスは、使い道がないものなのよ」
「へー」
「聞いてない……ッ! 料理そのものを楽しんでるだけね……っ!」
口の周りに食べカスをつけながら。
……アンナを見ているとよりお腹が空いてくる。
表情だけで美味しそうに食べるんだもんなあ。
「あの、ティカ……。僕も食べていい? ティカの料理、久しぶりに食べたくなったし……早くしないとアンナに全部食べられちゃうよ」
「食べたいならまた作るけど。今回のこと反省してる? したなら食べていいけどね?」
反省……、アンナを町に連れてきたことかな?
でも、それはアンナが可哀そうだ。
そりゃ、町を壊そうとしているアンナを連れてきたら僕が悪いけど、そういうわけではなかった。
アンナは旅気分で僕の故郷に寄ってくれただけなのだ。
魔王軍幹部というだけで町に入れさせないのは、ティカの気持ちも分かるけど、アンナがあんまりじゃないか……。
敵味方はいま関係ない。僕は友達を連れてきただけだ。反省は、ない!
「違うから」「え?」
僕の表情を読んだティカが、強めの指弾きで僕の額をこつんと打つ。
「あんた、ひょっとしたらなにも言わず町を出ていくつもりだったんじゃないの? そんなことない? そうかもね。だけど挨拶だけして旅立つ時期をずらし、あたしを同行させないような小細工はしそうよね? ――違うか?」
「う、」
ティカの同行。
もちろん考えたし、誘えばきっときてくれるだろうけど、ティカには町に残る理由がある。
それに、僕が言うのもなんだけど、向かう先は危険なのだ。
僕よりティカの方が強いし、頑丈だしで、言えば言うほど僕がいくべきではない理由にはなってしまうのだけど……、これは僕のわがままだ。
ティカに、死んでほしくなかった。
だから勇者でさえ危険と判断する場所へ向かうことを反対する気持ちだった。
ティカは町に置いていく――それをティカが納得するとは思わなかったし、僕に納得させる話術はないしで……その結果。
黙って先に旅に出る、くらいしか思い浮かばなかった。
まるで未来を見たように言い当てられているので、ティカの同行を止めることはどうせできなかったのだろうけど。
「あたしもいくぞ」
「ティカ……」
「今度こそ、あたしも約束を果たしたい――ダメなの?」
幼馴染の約束。小さい頃の……だけど、熱量は当時以上だった。
叶えたい気持ちは、僕が一番、よく分かる。
「……ダメじゃないよ」
「じゃあ一緒にいこう――いきましょうね、ロック?」
同時に、「もー腹いっぱいだっ」という声が聞こえた。
ティカのお弁当は、綺麗に残さず食べられていた。




