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龍とたてがみとギャラクシア  作者: 雨野グッピー


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第44話 騎士と兵士

「そう言うそちらも騎士道を学びながらその道を踏み外した裏切り者だろう? 顔を隠していてもその剣筋ですぐ分かったぞ。異大陸で我が国の兵を三十人も斬った大罪人よ」


 鋭い眼光とともに、大柄な騎士の持つ剣の切っ先がまっすぐウィンフレッドを向く。

 兵士はただ、構え直した剣の柄を握りながら、静かに彼の言葉を聞いていた。


「ヴィクトル殿が未だにお前を気にしている理由が分かった。処刑を逃れて姿を隠したと聞いたが、まさかこれほど近くに、それも街頭警備兵に紛れて我々の側にいたとはな」


 目の前にいる擦り傷だらけの甲冑を着た、しかし剣術にかけては精強な男の正体を剥がす愉悦に高揚するように、大柄な騎士は揚々と言い放つ。


 その先に立つ兵士はただ兜の隙間から見える目をわずかに伏せて。

 しかし向けられる剣先にも視線にも、変わらずその場を動くことはなかった。


 ただ睨み合う二人の真ん中に立つブロンドの白銀騎士だけが、同僚と兵士の間で忙しく首を巡らせている。


「まさか……異大陸に駐留中に、一人で一部隊相手に立ち回ったとかいう反逆者か? 確か元黒銀騎士団所属の……」


 震える唇から漏れ出た彼の言葉を、ウィンフレッドはその場で静かに呟き返した。


「……反逆者か」


 ようやく口を開いた兵士に向けて、大柄な白銀騎士が鋭い眼差しを向ける。


 その視線に、反逆者と呼ばれた男は一つ息を吐いて。

 そしてとうとう、己の兜の面頬を上げた。

 ブロンドの騎士が驚愕に目を見張りながらそれを見守る。


 霧の中に顔をさらした兵士は、まっすぐ大柄な騎士の方に視線を向けた。


「大当たりだ。あんたらを助けたのは異大陸で味方を斬りまくった、超の付く極悪人だよ」

 

 自らの正体をその口から明かした男の姿に、大柄な騎士はかすかな嘲笑を浮かべる。


「黒銀騎士団にいた頃は、その腕前から『訓練場の英雄』などともてはやされていたが、そんな男が落ちたものだな。騎士の鎧を捨て、街頭警備の兵士を真似てネズミのようにコソコソ這いずり回って」

「残念だな。俺は騎士じゃなくて従者止まりだった。だから騎士様の鎧には縁がなかったよ。……それにあんたの言うとおり大罪を犯した身だ。従者としての名前も記録も、黒銀騎士団から抹消されてるだろうぜ」


 淡々とした告白に、しかしその場の空気は一気に凍りついた。

 ブロンドの騎士はもう、巡らせていた首さえ止めてウィンフレッドの方を凝視している。


 ウィンフレッドはその視線を払うように、改めて大柄な騎士に視線を向けた。


「しかし俺が異大陸で味方を三十人斬って、そのうえ極刑からも逃げた大罪人だと割れたところで、あんたがそこの色男を今まさに殺そうとしてたって事実は消えないぜ」


 その言葉に、それまで愕然とした表情でことを見守っていたブロンドの騎士も、かすかに頷きウィンフレッドに同意を示した。


「そうだ。彼はこの森で、二度も私の命を救ってくれた。だが貴殿は……」

「二度も貴殿の命を失わせようとした」

「……」


 大柄な騎士の無慈悲な言葉は、それでも肯定された現実として霧の中に溶けていく。

 飲み込みがたいものを飲み込むようにごくりと喉を鳴らすと、ブロンドの騎士はその場で顔をこわばらせた。


 代わりにウィンフレッドが、大柄な騎士に事実を質す。


「やっぱり最初に森の中で会ったとき、その色男を見捨てようとしてたよな。仲間が異形に斬られかけてるのに、先に逃げてるあんたはそれを振り返って視界に入れながら、立ち止まろうともしなかった」

「……」


 兵士の言葉を受ける大男は、口元に歪んだうすら笑みを刻んで。そしてどこか憔悴を映す瞳とぎこちない微笑が同居する、複雑な表情を浮かべた。

 観念した、というのが最も合っている表情だろう。


「その通りだ……」


 裏切りの男は微笑むのを諦めるように口角を元に戻すと、仲間の裏切りに打たれて固まるブロンドの騎士に向けて、どこか許しを請うようにこう口にした。


「……個人的な恨みはないんだ。信じてくれ」


 そして淡白な表情に戻ると、今度は自らの裏切りを見破ったウィンフレッドに尋ねる。


「最初から気付いていたのか?」

「そんなに勘はよくねえよ。ただ白状なやつだとは思ってた。後ろを付いてきてる仲間を見殺しにしようとしてたんだからな。まるで振り切るみたいに」

「……」

「自分の手を汚したくないから、追いかけてきた化け物に仲間を始末させようとしたのか?」


 大柄な騎士はその言葉に黙したまま。

 兵士の後ろで未だに真実を受け入れられない様子のブロンドの騎士の目を見て、苦々しげに唇を噛んだ。


 裏切り者と裏切られた者の真ん中で、ウィンフレッドもまた剣を握りながら逡巡していた。


 ……最初に会ったときも川辺で同僚を斬ろうとしたときも、目の前にいる『裏切り者』は驚くほど悲痛な顔をしていたから。


 そうだ。あれはどうしようもない運命を何とか飲み込んで、仲間を殺す顔だった。

 まるで自分以外のものにその運命を決定づけられたかのように、剣先が震えていた。


 恐らくウィンフレッドからしか見えなかったその表情は、彼が苦渋の選択の末にその刃を同僚に向けて振り下ろしたことを物語っていて……。


 しかし兵士がその場で考え事を続けていられたのはそこまでだった。


 がちゃりと一歩踏み出す鉄靴の音。それを聞いたブロンドの騎士が叫ぶ。


「おい! やめろ! 剣を退いて、まずは話を……!」

「すまない。途中で止めるわけにはいかないんだ……」


 同僚の制止に構わず、大柄な騎士はウィンフレッドとブロンドの騎士めがけて剣を振りかざし迫ってくる。

 その剣筋は迷いに満ちたものだったが、彼は自らの言葉通り決して攻撃を止めようとはしなかった。


「やめてくれ! なあ、話し合おう! ついさっきまで白銀騎士として助け合ってきた仲だったじゃないか……」


 諭すような言葉を掛けつつも、いまだ動揺の中にいるブロンドの騎士に代わって、ウィンフレッドが大柄な騎士の剣を受ける。


 ここに至って腰のものさえ抜けない彼を責めるつもりはない。動揺して当然だ。

 『ついさっきまで白銀騎士として助け合ってきた』はずの大柄な同僚は、どこか申し訳なさそうにしながらもこちらの説得には応じず、容赦なく斬りかかってくるのだから。

 絆が深かった分、混乱して手も足も出せないだろう。


 反対に、相手の一太刀を受けるごとに、ウィンフレッドの冷静さは増していった。

 そして未だ迷いの剣撃を繰り出してくる男の抱える事情に思い至ってこう呟く。


「自分の命か他人の命か……」


 ウィンフレッドのかすかな呟きに、剣を突き出す格好のまま、大柄な騎士は大きく目を見張った。

 心の乱れが体に現れるように、彼はそのまま握る剣の柄を震わせる。


 それを眺めながら何かに納得したらしい様子のウィンフレッドに、ブロンドの騎士はすがるような視線を向けた。


 震えとともに放たれた大柄な男の次の突きを避けながら、兵士は冷静な面持ちで口を開く。


「裏切り者には、裏切り者にしか分からない事情がある。その肩に何を背負わされたのか、申し訳ないと思うなら同僚に話してやったらどうだ?」


 その言葉に、ブロンドの騎士もようやく大柄な騎士の様子に得心がいったようだった。

 裏切りを知ったときより幾分悲痛な視線で、剣を繰り出してくる同僚の姿を射貫いた。


「まさか、誰かに弱みを握られて……。脅されてこんなことを……?」


 大柄な騎士は一瞬何か言おうと口を開きかけて、そしてすぐに自分から出る言葉をせき止めるように頭をうつむかせた。


 代わりにウィンフレッドが、彼の言わんとした言葉を予測する。


「さっき口走った、『ヴィクトル』だろ? あんたに同僚を殺すよう命じたのは」

「……!」

「脅しはあいつがよくやる手だ。毎年わざわざ底無し沼に近付いて死ぬ騎士がいるのを不思議に思ってたが、多分黒銀騎士か、もしくはその息のかかった白銀騎士に殺されてるんだろう。……あいつが単純な『狩り』のために懇親の場なんてもうけるわけがないからな」


 兵士の言葉を受ける大柄な騎士の沈黙が、まさにその言葉を肯定していた。


 ウィンフレッドの言葉を聞いていたブロンドの騎士は、ようやく混乱をおさめて哀惜の視線を同僚に向ける。


「私に黒銀騎士やイクリプス公のことを警戒しろと言ってくれたじゃないか。……彼らに脅されているなら力になる。剣を置いて、こっちへ戻ってこい」

「イクリプス公はこの国で絶対の力……誰も彼の為そうとすることからは逃れられない。そんなイクリプス公の腹心が催した狩りに参じているのに、いかにも能天気に構える貴殿に警告を与えたかったのさ。――そんなことでは後ろから味方に斬られるぞ、と。何も知らず無抵抗のまま死なれるのが寝覚め悪かっただけだ」

「……」


 差し出された手を、裏切りの男は輝きのない瞳で拒絶する。


 最早どんな言葉も同僚には届かないと悟ったのか、ブロンドの騎士は苦渋の表情で口を閉ざした。

 そのとなりで、ウィンフレッドはさらに真実へと切り込む。 


「どうせあの無気味な魔導機構の暴走も襲撃も、黒銀騎士団が仕組んだことなんだろう? 混乱に乗じれば暗殺もやりやすくなるからな。だとしたらネバードが陰謀に巻き込まれて死ぬのもあんたは知ってたはずだ」


 大柄な騎士はまたもその問いに口を引き結んだまま。しかし兵士の言葉を否定することもなかった。


 変わり果てた同僚の姿と、容赦なく迫る事実を前に、ブロンドの騎士はしばらく己の顔を手で覆って空を仰いでいた。

 しかしすべてを知った上で果たさなければならない自分の職分に気付いたのか、一度大きく頭を振るとかつての仲間へと向き直る。

 その目は今までにない覚悟に満ちていた。


 湖畔の森に流れ込んだ小川のふちに立つ三人の甲冑の男の間を、湖の上を渡ってきたぬるい風が吹き抜けていく。


 それぞれの運命は定まってしまった。

 黒銀騎士の陰謀を皆まで知ったウィンフレッド達を、もう消す以外の選択肢が裏切り者にはない。

 仲間を殺すか、失敗して自分が消されるか。

 最早彼が立ち止まれないことを、大柄な騎士の目の前にいる二人もよく理解している。


 ざっと、男達はそれぞれ自分の立つ位置を鉄靴で踏んで確かめる。

 剣の柄を握り直し、大柄な騎士は改めて向き合う二人に狙いをつけた。

 ブロンドの騎士もとうとう腰の剣に手をかける。

 そのまま最後の警告を元同僚に与えた。


「二対一だ。貴殿に分はないぞ。……裏切りを完遂しても、失敗して君が死んでも、王都に待つ婚約者はきっと悲しむだろう」


 その言葉に、獲物に斬りかかろうとしていた大柄な男の顔から赤みが失せていく。今までで一番、剣を持つ手が震えた。

 その震えを眺め、今度はウィンフレッドに代弁される前に、ブロンドの騎士は何かに気付いたようだった。


「まさか、握られた弱みというのは……婚約者のエルミラ殿を人質に……」


 ブロンドの騎士の言葉に、大柄な騎士は唇を噛みながら押し黙る。またもその沈黙が、彼の背負った事情を肯定していた。


 それでも捨てられない者のためか、意地でも剣を下ろさぬその男の姿を眺め、ウィンフレッドはふうと一つ息を吐く。


「……さっき白状って言ったのは撤回するよ」


 兵士の言葉の終わりと同時に、かっと目を見開いた大柄な騎士が地面を踏み込む。


 彼はそのままブロンドの騎士に斬りかかろうとして。しかしその直前で突進の軌道を変えると、ブロンドの騎士の横に立つウィンフレッドへと急襲の刃を伸ばす。


 兵士はその場を跳びのいて剣をかわした。

 勢いをつけていた相手は、ウィンフレッドが立っていた場所で大きく体勢を崩す。

 兵士はただ、攻撃を外した相手の鉄靴が、ゆるい泥の地面を深くえぐるのを見ていた。


 大柄な男が体勢を立て直して自分の方を睨むのに合わせて、煽るように口を開く。


「迷うのは分かるが半端は良くないぜ。どんな過酷な戦場からもひょっこり帰ってくる不死身のネバード卿が死ぬような陰謀に加担したんだ。最後までやりきったらどうだ?」


 ウィンフレッドが口にしたその名に、裏切りの騎士はまたも大きく目を見開く。己のしたことを噛みしめるように、その目を剣を持つ自分の手に向けた。

 悔しげに唇をひきつれさせ、今にも嗚咽を漏らしそうなほどその顔を歪めながら。


 そして男は雄叫びを上げながら、もう一度ウィンフレッドに踊りかかってくる。

 迷いが振りきれないながら、それまで以上に鬼気迫る勢いがあった。

 大きな体を利用して、体格で劣る兵士に剣を叩きつけるように迫ってくる。


 ウィンフレッドはそれをすべて躱すものの、己の剣を使って反撃しようとはしなかった。ただヒラヒラと、膂力とともに物凄い勢いで繰り出される剣を後ろに舞うように避け続けていく。

 二人のとなりを流れる小川のふちを、湖岸を背にして河口の方へと。


 さすがに小馬鹿にされていると思ったのか、まだ騎士の矜持を残しているらしい大柄な男は、ウィンフレッドに鋭い眼光を向けた。


「自分の方が腕で勝ると思って私をおちょくっているのか? 逃げずに戦え!」


 そして再び剣を繰り出しながらも、彼の顔は次第に隠しようもない焦燥にとらわれていった。

 突きの速度を速めた大柄な騎士の剣は一度たりとも、逃げるウィンフレッドの甲冑にかすりさえしなかったからだ。


 そして、


「……!?」


 ふいに、大柄な男の剣を避けるために足を一歩後ろに下げた兵士が、そのままそこで静止する。

 男は怪訝そうにその様を眺めていたが、すぐに動きを止めた獲物へと斬りかかった。


 ウィンフレッドはその剣を間一髪のところで横に跳びのいて躱す。

 そしてそれ以上大柄な男の攻撃を躱す必要がなくなった。


「……!」


 兵士の立っていた位置まで思い切り踏み込んだ男の鉄靴が、ズボッと地面を踏み抜く。 

 苔の浮いた水溜まりのように見えていた地面は、瞬く間に大柄な男のすねまでを飲み込んだ。そのまま彼の両足は深い泥の中に絡めとられていく。


「終わりだな。あんたの体重なら踏み抜くと思った」

「……くそ!」


 ウィンフレッドを追うことに夢中になっていた大柄な騎士は、いつの間にか自分がその場所に誘き出されていたことに気付いていなかったのだ。


 逃げていた兵士と追う騎士は、森に流れ込んだ小川の河口、湖岸の葦の茂みの手前まで出てきていた。

 底無しの泥沼が散在し、それが苔や水草に隠された危険な岸辺へと。


 自身の泥だらけの脛当を剣先でカツンカツンつつきながら兵士は言う。


「さっき川を跳んだときにあんたが教えてくれたが、この森で甲冑の人間をどうにかするのに剣なんて要らねえもんな。頭に血が上ってたのかもしれないが、同じ手に引っ掛かってくれて良かったぜ」


 飄々としたその姿を睨みながら、しかし大柄な男の体は少しずつ泥の中へと沈んでいく。

 ぬかるみに足がとられるどころではない。彼が甲冑を着た手足を動かすごとに、その体はより深く泥沼へと引きずりこまれていった。

 やがてその胴は腰元近くまで泥に飲み込まれ、大柄な騎士は完全にその場から動けなくなった。


 ウィンフレッドがかちんと、己の鉄剣を鞘に戻す。ブロンドの騎士もまた、兵士の後ろで構えていた剣を下ろした。


 ……勝負あった。

 最早裏切り者の目的達成の可能性は完全に潰えたのだ。


「待ってろ。今助けてやる」


 沼に沈んでいく元同僚に向けて、ブロンドの騎士が己の剣の鞘を差し出す。

 しかし沈んでいく者は、その鞘の先端にさえ触れようとはしなかった。


 ブロンドの騎士から視線を外しながら、大柄な男は弱く首を振る。


「このまま捨て置け。どうせ裏切りを命じられた時点で私に長らえる道はなかった。ヴィクトル殿はどこまでも用意周到だ。裏切りの代償は、抹殺という形で必ず払わされただろう。それはこのまま生還しても同じだ。彼の手の者は、必ず私を消しにくる」


 男の言葉に、ウィンフレッドもブロンドの騎士も何も言い返すことができずにいた。

 暗殺に成功するも失敗するも、決して表沙汰にできない陰謀の一端を背負わされた捨て駒には同じ結末しか待っていない。

 権力者同士の政争の世界で生きる者には染み付いた常識だった。


 彼は任された仕事の成否を問わず、いずれ消される運命にあったのだ。


 しかしその事実に言葉を飲む兵士と騎士の前で、それでも大柄な男はここへ来て初めて安らかに微笑んだ。


「『訓練場の英雄』よ。出来ることならお前とは正々堂々と決闘という形で戦いたかった。あの頃は一対多数で挑んでも負かされてばかりで悔しい思いをしたからな。……今まで苦労をともにした我が同胞よ。貴殿にもすまないことをした。だがこれで彼女は……エルミラは私がもたらした暗い因果から解放される。そのためなら私は、」


 その言葉の続きを、ウィンフレッドとブロンドの白銀騎士が聞くことはなかった。


 ゴオッと一度、二人の頭の上で雷鳴が轟く。

 そして湿地に空から一直線に雷が降り注いだ。ちょうど大柄な騎士がとらわれていた沼を撃ち抜くように、暗い森に一本の閃光が落ちて。


 そして視神経を焼くような強烈な光が走った跡。

 目の前に残された凄惨な光景を、驚く兵士と騎士は何も出来ずに眺めていた。


 泥沼に浸かっていた男の体から、一瞬のうちに力が抜けていく。

 白銀の鎧は焼け焦げ、その兜ががくりとうつむいた。そしてうつむいた大きな体から、しゅうしゅうと細く黒い煙が上がる。


 目の前に落ちた閃光のビリビリとした残滓に包まれながら、兵士と騎士は言葉もなくその様を見ていた。


 大柄な男の身に何が起きたか、二人が知ったのはその声の主が暗い森から姿を現したときだった。


「役立たずが……! 騎士一人まともに暗殺できないのか!」


 霧に包まれる木々の隙間から現れたローブの男。その手に握る杖からは、バチバチと稲妻の残滓が散っている。

 汗を流し脂ぎった目元にかかるモノクルが、最早指先も動かさず泥沼に沈んでいく男の方を睨んで白く光っていた。

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