第四十三話《家宝》
ハイルの家の中は無駄に広いと思ってしまった。玄関先には大階段があり、目を見張る迫力だが、どこか物寂しさを漂わせている。壁には使用人が並ぶように絵画が飾られていた。ここが埃で汚れていたのなら違う感想だったのかもしれない。しかし、どこを見ても手入れが施されている。
大階段の左右に分かれる分岐点の前の壁。額縁に飾られた剣が印象に残る位置で一際、雰囲気を放っていた。他の絵とは違う、<うぬす>には立体感による特別感だけだとは考えられなかった。
「あの剣って?」
眠そうに欠伸をするハイルに聞いてみた。
ハイルは大階段の剣を眺めると、少しだけ時間が止まったかの様に動かなくなる。
前に立っていたジョルドムも剣を眺めていた。
「あぁ、あの剣ね。僕とジョルドムにとっての家宝さ!」
「家宝……?」
「じいちゃんが最後に遺してくれて、父さんがこの家に残していった最後の物なんだ。
叫剣ユルグランディル。かっこいいだろ?」
不思議な特別感をなぜか見出してしまった理由を<うぬす>はわかった。屋敷はちゃんと掃除されている。その上で、ユルグランディルだけが何よりも美しく輝きを放てる様に保守されているんだろう。
「ジョルドム、二人に部屋を案内してくれ。僕は自室に戻っているから」
「もちろんですとも」
ハイルは一階の奥の方に向かった。
<うぬす>たちは大階段を登っていく。
立ち止まって<うぬす>はユルグランディルを近くから観察してみた。輝いていたのは金属ではなさそうだ、何かの鱗に見える。鱗の刃が関節みたく繋がれて剣の体を成していた。
ジョルドムが<うぬす>の様子に気づいたのか、ユルグランディルまで寄ってくる。
「この剣は巨獣の素材を用いて製作されたのです。伸縮自在に伸び、鎖の様に巻きつける事も出来る。その際、刃と刃の間から悲鳴が聞こえる。
それが剣の叫剣の由来なんですよ。ま、本当の悲鳴では無いですがね」
「そうなんですか! 面白い……」
伸び縮みし、それなりの硬度が担保され剣など武器に加工される巨獣素材。<うぬす>にはゲーマーとして検討がそれなりにつく。
おそらくは、「柔雷獣」。普段は森林の奥地に潜む、大樹のような苔むした外骨格の巨獣。発達した発電器官と特殊な筋肉繊維を持つ。電撃の流れる度合いによって筋肉の動きを制御する。筋肉は電流によって動かされる時、不思議な音が鳴る。
「柔雷獣ですか?」
「うぬす様は博識なのですね。その通りでございます。この剣は、先先代のラビァド様が町への巨獣侵攻を食い止め退けました。その時に削いだ素材で作られた物です」
少しばかり知識を持った二人。その会話にキリエは全くついていけずに困っていた。
「キリエにもわかりやすく!」
我慢に痺れを切らしたキリエが声を上げる。部屋に行くよりも楽しそうに話していた内容が気になるのか、どんどんと歩き詰めてくる。
両手で制止しながら<うぬす>は説明を始めた。
「バルーナの近くの森に住む巨獣の素材を使った剣がこれ。武器の話は浪漫があるからね、ついつい楽しくなっちゃった」
「教えてくれてありがと! ちなみにキリエの弓も何かの巨獣の骨が使われてるんだって、お父さんがすごく強かったから!」
「ほうほうほう! その巨獣の名前は!」
「わすれた! 小さい頃の話だし〜」
これ以上聞いても何の巨獣かは見当もつかなかった。第一、骨だけだと見た目なんて違いがほとんどない。それでもやっぱり武器の話は楽しい。
<うぬす>のゲーマー気質は遺憾無く発揮されてしまっていた。
「それでは部屋に案内を」
ジョルドムの声かけが無ければいつまで話していたか<うぬす>自身もわからない。
大階段の右側を登ってまっすぐに進んだ所。
「うぬす様の部屋はここです」
ジョルドムが部屋の扉を開けてくれた。キリエの部屋はもう少し先にある様で案内はここまで。
室内は良い方のビジネスホテルみたいで、小綺麗なベッドが視界に入る。ベッドの前の机には鏡と髭剃りが置いてあった。そして手紙も。
内容は、「ごほん、ハイルより。髭剃れ」。
確かに、この世界に来てからしっかりと自分の姿を見たことはなかった。「シニスト」で作ったキャラメイク通りなら、黒髪で身長は普通。体格も普通。つまらない差し色で目だけは金のはずだ。
「……見た目は確かにだけどなぁ」
鏡に映った<うぬす>はキャラメイクに忠実だった。その上で髭面。チクチクとした無精髭が色をまばらに生えている。そこは世界に忠実じゃなくても良いだろと思ってしまう。
とりあえず綺麗に剃っておいた。




