第四十二話《お泊まり会》
豪邸、すなわちハイルの家。庭は低木が綺麗に手入れをされていて整った印象を受ける。ハイルは肩の力を抜きながら家に向かう。
門前でただ一人呆然と立ちすくんでいるキリエに声をかけた。
「おーい! キリエー!」
<うぬす>が声をかけた。キリエは自分の脇腹に右手の腹を当てて、少ししてから歩き出す。その姿は名残惜しそうに星空を眺めていた。
満点の星空だ、<うぬす>も何か願い事をしたい気分になる。
「見惚れちゃうよなー、こんなに星が綺麗に見えるとさ」
「うん。でも、キリエの村ではもっと沢山見えるんだ!」
「いつか見てみたいな」
ハイルはすでに玄関前に立っている。そして、まだ門の近くでゆったりとしていた二人に手を振っていた。ハイルの呼びかけに気づいた二人は小走りで玄関にいく。
「おせーよ。ま、扉開けてもらうまで暇なんだけどな」
「開けてもらう……?」
<うぬす>が首を傾げたその時だった。突然目の前の扉が勢いよく開く。中から執事服を纏った白い髭の男が飛び出す様に出てくる。ハイルに抱きつきながら何かを騒いでいた。
「離れろ! 離れろって」
「……失礼。ハイル様の帰宅はいつも嬉しい物でして。おや、こちらの方々は?」
白髭の男が<うぬす>たちに目線を固定する。ハイルは服をはたきながら二人に向かって手の向けた。
「安心して友達だよ。
こっちの髭ズラは執事のジョルドム」
「ご紹介に与りました執事長のジョルドムです。長と言っても執事は一人しかいませんがね」
ジョルドムは深々と頭を下げながら、丁寧な挨拶をした。<うぬす>とキリエに顔を向き直すと穏やかに笑った。頭髪はなく、髭の毛だけが目立っている。なぜか少しの威圧感をどことなく感じてしまう。
「二人は今日泊まっていく。部屋の用意を頼めるか?」
「承りました。用意ができるまではどうしてましょうか?」
「外にいるよ。気温もちょうど良いし、星が綺麗だからね」
ジョルドムは洗練された早歩きで優雅に去って行った。ハイルは夜空を眺めたまま。この状況に自然に溶け込んでいる。
<うぬす>は信じられない。あの可笑しいテンションのハイルが豪邸に住み、執事を雇っていると見える。両親が金持ちなのか?
なんか違和感。キリエは信じられていないのか、口が開けっぱなしになっている。
「ハイル……ドッキリとかか?」
「どっきり? なんだそれ。まだ疑ってるのか?」
「キリエも疑ってる! だってあのハイルがでしょ〜」
バカ騒ぎも騒ぎ騒ぎ。広大な敷地のおかげで騒いでも問題がなさそうだった。ハイルの声の大きさの原因の一端を担っていそうだ。
キャンプファイヤーなんてしたら最高の場所なのは間違いない。
ハイルが玄関近くの地面をまさぐって、棒状の物を取り出した。
「二人とも。ほれっ」
<うぬす>とキリエに向かって投げ込まれたのは短い木製の剣。キリエは難なくそれを受け取る。
「あっとっっと!」
よろつきながら<うぬす>は剣を両手で抱えて何とか落とさずに済む。男として仕方のない本能が疼き出す。脊髄からの命令なのか、剣を握り構えを取ってしまった。
不恰好で形にもなっていない姿。
「うぬすには訓練が必要。キリエも強制参加だからな! まずはうぬすから。どこからでも来い!」
ハイルの実力は<うぬす>も知っての通り。これは訓練だ、とにかくやってみるしかない。背負っていた雷鉄をキリエに手渡す。
<うぬす>が振り下ろした剣は、軸がブレながら落ちていく。足腰と腕が連動していない為、全く力が感じられない。
ハイルは一歩たりとも動かなかった。
「うん、だめだめだこりゃ。1週間ここで面倒見てやるから訓練してきな」
ハイルの動き一つ捉えられない。気づいた時には自分の持っていた木の剣をハイルが手にしていた。
<うぬす>はキリエから雷鉄を返してもらう。
次はキリエの番だ。
「弓使いでも、近接も出来て損はないよな。かかってこいキリエ!」
結果は食事をみんなでしたあの日と変わらない。ハイルの圧勝だった。しかし、<うぬす>にとってキリエの戦いを見れたのは意味がある。
素人でもなく、ちゃんと動きを追える。学ばせてくれる事が多かった。
やはり軸という物が重要なのか? 走っている時も剣もブレていない。どう身につけるべきかな。
<うぬす>は考えた。
玄関からジョルドムの声が聞こえる。
「皆さーん。準備が整いましたよ」
ハイルが少しだけ力んだ。キリエの手からも木の剣が奪われている。
「中に入るぞ。急な来客だったのにありがとなジョルドム」
「お気になさらず。褒章として抱き付かせていただきます」
「はーなーれーろー!!」
騒がしい夜が再び始まってしまった。<うぬす>は痺れる手を見つめた。




