第四十一話《邸宅》
雷鉄を扱えるようになりたい。ゲームの数値とは違う、ありありとした期待を感じさせられる。すでに<うぬす>の視線は雷鉄だけが独占していた。
剣を磨き終わったハイルが近づいてくる。
「中々良い武器じゃねーか。でも、取り回しには練度がいるだろうね。メリルさんからも伝えてあげなよ」
「それもそーだな! 兄ちゃん、魔獣でも巨獣でもな戦うにしたら一発じゃダメだろ?
一人で下手こいたら生き残れない武器。その上、普通の店だと雷鉄に関する備品も売ってない。ま、性能の割に安いのには理由があるわけだ」
至って真面目にメリルが告げる。馬鹿騒ぎの雰囲気とは一転して、<うぬす>をまっすぐ見つめていた。
メリルは商売人気質ではない、職人気質だと思う。わざわざ売れそうな時に商人がダメな点を話すだろうか? 多分しない。<うぬす>はなぜハイルがこの店が一番と言ったのかわかった。
「俺は弱いですし、戦いも下手です。だけどライテツには言葉で伝えられない何かを感じた!」
「……わかった。なら返品はもう受け付けないよ。存分に雷鉄との旅を謳歌しな!」
「はい!!」
<うぬす>の財布である布の中身はほとんど空になってしまった。しかし、良い買い物だったと思う。上機嫌で雷鉄を背負う。
店の武器売り場の方ではキリエが弓を吟味していた。カウンターにはジッドが足を組み退屈そうにしている。生命力……すごすぎだな。
「キリエも何か買うのか?」
「弓は買わないよ。でも、解毒剤とか小道具を少しだけ」
キリエと<うぬす>さカウンターに向かう。絆創膏まみれで本調子とは行かなそうなジッドだが、恐ろしいほどに元気そうだ。何やら手癖の様に小さな物をいじっている。メリルが触っていた物と同じ物に見えた。
キリエが会計を進めている。
「手に持っているそれ、なんですか?」
ついつい癖で<うぬす>が疑問を質問に変えてしまう。ジッドは慣れた手つきでお釣りを渡し、会計が終わる所で質問に答える。
「ただの金属球。触れて感じて見る。素材を扱うには知らないとな」
机上には数種類の金属球が置いてあった。
あのジッドから考えられないほど冷静な回答に<うぬす>は目が飛び出してしまいそうになる。それはキリエも同じなのか、口を押さえて驚いてた。
ハイルとメリルだけはこんな性格の一面を知っていたのか、至って普通にしている。
「そんな驚く事じゃねーだろ! お客だとしてもよぉ〜」
「ジッド! 仕事中に軽口叩くんじゃない!」
「けっ……」
メリルは奥の片付けを完了し、<うぬす>の方に大きな足音を鳴らしながら歩いてくる。その手には丸められた紙が握られている。
少しだけ<うぬす>は身構えた。
「何もしないから。安心しな!
雷鉄を商人から買った時に手渡された紙があってな、買い手が付いたら一緒に渡せとよ。ま、変な文字が書かれているだけ」
<うぬす>は受け取った紙を開いた。
すでに驚くほど不可思議ではないが、それは読める文字で書かれている。
「雷鉄……漢字の筆記体だな」
「この紙には武器の名前が書いてあったのか。
買う時は商人の連れの男に武器名を聞いたから気にした事もないな」
「メリルさん、北の方からの商人が売っていたのですね?」
「合ってるぞ。国までは知らないけどな」
黎明国繋がりだろう。本当に謎ばかりが増していく。この世界を「シニスト」に似ていると向こうは考えているのか? もしかしたら自分と同様にプレイヤーだったのかも。
<うぬす>の考察は再び進む。その考え込んでしまう肩をハイルが小突いた。
「店出るぞ〜」
「あっ、うん。わかった」
メリルとジッドに頭を下げ、お礼を言いながら店の扉を開き外に出る。見上げた夜空には星がかかっている。
宿……借りてない! 今から野宿になるのか。星空から視線を落としながら落胆する。
ハイルが適当に先導しながらくるりと一回転して、<うぬす>とキリエに目線を合わせた。
「遅くなっちまったし二人とも僕の家に来るか?
ここから歩いて数分だし、泊まってけよ」
「いいのか!!」
「キリエも行ってみたーい!」
ハイルは楽しそうにしながら、再び前方に振り返る。大きく深呼吸をして一言。
「着いてこい!」
◇◇◇
まっすぐ走っている。ハイルは3つ先の角を右折していった。<うぬす>の呼吸を微妙に早くなり、心拍数が確かに上がっている。
右折した頃には、視野が狭くなっていて地面ばかりに目線が合っていた。キリエの唖然とした声が耳に流れる。そして<うぬす>も顔を上げた。
「はぁはぁはぁ……………
デカ!!!!!」
目の前に聳え立つ荘厳な白を基調とした豪邸。木製の凝ったデザインに身を包んだ門を、ハイルが潜っていく。
「ようこそ、僕の家へ!」
楽しそうに騒ぎ、本当にあのハイルの家かとふざけて疑う<うぬす>。呼応する様に肩を組みながらハイルも騒ぐ。二人は門の先に進む。
キリエは今走ってきた道を振り返る。どこか近くに大切な人が居るみたいに。サヤが居なくなった隣を夜風が撫でていた。




