第四十話《相棒》
銃はやっぱり重たい。黒を基調とした深い色味と流線的なデザイン。一目見て強そうだと思わせる無骨さはない。しかし、それが武器に対して素人の<うぬす>にも洗練された物を感じさせている。
黒い銃の滑らかなボディに見惚れている<うぬす>にメリルが声をかけた。
「最初にそれを取るとは良い目をしてるねぇ。ルツカの黒銃って言う武器さ。
正直言って値段を考えないなら一番のおすすめだな。ちなみにルツカっていうのは〜」
「はーい。メリルさんストップストップ。武器職人の名前じゃなくて、武器について話してな」
ハイルの制止がなければまた試し撃ちが出来ない所だった。本当にナイスすぎる。それにしても美しい銃だと<うぬす>は感嘆した。
制止したハイルと説明したいメリルの睨み合いを裂くようにキリエが割って入る。
「このお店にある弓を見ててもいい?」
「……ん、あぁ! もちろん。何か買いたくなったらジッドを呼びな」
キリエはテンポよく跳ねながら弓が展示されている場所に向かっていった。……ジッドに会計? 吹っ飛ばされていたような。<うぬす>は少しだけ空を見つめた。
その間にメリルからの説明が始まる。
「ルツカの黒銃は弾倉に六発まで込められる。弾丸の軌道は正確かつ故障も少なく高耐久。欠点を挙げるなら値段と、修理できる店の数ぐらいだな」
「……優秀すぎません? 本体に欠陥はないって事じゃないですか!」
「まぁな。ちなみに、この店では修理できないから丁寧に扱ってくれよ。ルツカとその弟子が経営する店でしか直せないからな」
<うぬす>は無言で銃をそっと元の場所に置いた。ハイルに耳打ちされた値段に怖気付いてしまっている。ルツカの黒銃-ゴルド金貨21枚。
手元には金貨1枚と少しだけ。
「安い銃ってなんゴルドぐらいですか?」
「一番安いのか? あんまりおすすめしないがゴルド銀貨3枚ぐらいだな」
認識を変えなければいけないらしい。<うぬす>は前まで金銭感覚をこのように理解していた。
銅貨1枚=約10円・銀貨1枚=約1000円・金貨1枚=約1万円。概ねここは合っているだろうが、問題は別にある。
「シニスト」の世界で武器は一般的な物。現実世界で銃器を買うなら最低でも数十万はする。しかし、ここでは最低3000円程度。
……難しい物価だ。
「兄ちゃんの所持金はどのぐらいなんだ?」
メリルが問う。<うぬす>は布の袋から硬貨をしっかりと数え直した。金貨1枚、銀貨4枚、銅貨23枚。どの程度の金額なのか、<うぬす>にとってあやふやだった。
「それなら……雷鉄なんて武器はどうだ? 値段は1金貨と2銀貨。発射機構は火薬ではなく蓄雷鉱だから軽量だな!」
蓄雷鉱。「シニスト」における特殊な鉱石の一つだ。読んで字のままに雷を蓄える石。特殊な衝撃を与えると、与えた衝撃に比例して放電する。
他にも特殊な鉱石を挙げるなら、煌炎鉱、爆火鉱、吸熱鉱などがある。
武器生成に関する基本的な知識においてのみ<うぬす>は完璧。ゲーム攻略に必要な知識だったから。
「ライテツはどんな武器なんですか?」
「珍しい武器で北の方の国から来た商人から買い取ったんだ。雷の反発力?を使って弾丸を発射するらしい。一発しか撃てない癖物だが、精度は良好」
「ちなみに整備とかは……?」
「本体の機構は普通だな。特殊なのは弾丸と蓄雷鉱だけだ。細身の鉄の杭みたいなのが弾で市販されていない。蓄雷鉱は年に2回入れ替えてくれと。
ま! どっちもうちの店に任せてくれればどうにかなるから安心しな!」
わずかに安心した様子で<うぬす>が雷鉄を持ち上げた。マスケット銃のような細長い銃。なんと言っても重い。持ち上げられるが、姿勢のキープは難しい。スナイパーライフルみたいに撃てばいいのか?
悩みふけている<うぬす>にメリルが提案する。
「一回アタシが実演するか?」
<うぬす>は目を輝かせて頷いた。メリルは腰を下ろし、ゆっくりと的に照準を合わせる。的までの距離は数十メートル。
メリルがトリガーに指をかけ、押し込む。雷鉄の銃身が閃光を放ちながら落雷みたいな音を奏でた。飛び出した杭は空気を切り裂きながら直進する。
そして的の中央を貫き尚も止まらない。奥の分厚い鉄板に刺さってようやく勢いを失った。
「ま! こんな所かな。この手の銃にしては軽量だし、慣れれば動きながら撃てる。アタシは慣れてないけどな! ほれ、次は兄ちゃんが撃つ番だ」
「ありがとうございます」
片手で軽々とメリルが渡してきた雷鉄を<うぬす>は両手で持ち上げる。ハイルはニヤニヤしながら部屋の片隅で自身の剣を磨いていた。
雷鉄は銃口から弾薬を込める。
一度本体を地面に置き、銃口から手を突っ込んで杭を入れ、銃身に取り付けられた突起を持ち手側に押し込む事で杭が奥の方に固定される。これでリロードが完了した。
「よし! ぅおっとっと!」
勢いよく立ち上がると<うぬす>の体幹のなさが如実にわかる。銃の重さで重心がブレまくっていた。
体制を立て直し、ゆっくりと地面に膝をつく。
「メリルさん! 机を持ってきてくれませんか?」
そう言った直後には用意されていた。早すぎるぜ! <うぬす>は手際の良さにも感動する。
「机なんてどーすんだ?」
雷鉄の銃身を机の上に置く。そして<うぬす>の肩に銃床を付け。トリガーを引いた。銃身が光出す。
雷の音はうるさいが、耳に残らない程度。
そして発射された杭は的の端っこを掠めていた。そして雷の反発力を使う機構が理由なのか、自身が受ける反動が少ない。
体を痛めずに使えるかもしれない!
「これ……これ買います!」
「毎度あり!!」
この世界にきて、初めて<うぬす>が自分で選んで買った武器は雷鉄になった。高い貫通力と一発の浪漫。ゲーマーの<うぬす>には魅力的すぎた。その上で扱えそうだと感じたら買うしかなかったのである。




