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第13話 踏み出す前線

「ブルルルルッ……ブルンッ!」




 




浩平がクラッチを繋いだ瞬間、車体が咳き込むように震え、


次の瞬間――「バリバリッ!」と甲高い排気音を響かせて動き出した。




 




『おぉーー!』




 




遠巻きに見ていた避難民たちからも、小さく歓声が上がる。


敷地内を低速で走らせると、息継ぎを繰り返し、吹け上がりも悪く、今にもエンストしそうだった。




 




『吹けが悪いな……』




 




走る様子を見ていた傑たち整備チームが、口々に次の整備を議論しはじめる。




 




『いやー、全然吹けてないっすね。やっぱりガソリン腐ってたかー』




 




浩平が傑たちの側に車を停め、窓を開けて話す。




 




『ガソリン、あとどれくらい残ってます?』


傑が尋ねた。




 




『軽トラの納屋にあった携行缶を全部入れて、Eエンプティギリギリっすね』


浩平が燃料計を覗き込みながら話す。




 




『マジか……さっきの公用車の軽バンから、ガソリン抜けないですかね?』




 




『やってみないと分かんないですけど……最近の車だと構造的に給油口からホースで全部抜くのは難しいです。


下に潜って燃料ホースが見つかればそこから抜くこともできますが、それでも全部は無理ですね』




 




浩平が腕を組みながら難色を示した。




 




『車を解体して、直接タンクから抜くとかは?』


彰宏がさらに質問する。




 




『流石に人力じゃ無理ですよ。工具も足りませんし……それに、もし引火したらガチでヤバいです。


空気も乾燥してるから、気化したガソリンに静電気がバチってなったらアウトなんですよ』




 




『……そうですか』




 




浩平の冷静な意見に、整備チームの空気は一段と重くなった。




 




『一か八か、今あるガソリンで一番近いガソスタまで行ってみます?』




 




傑が半ば冗談混じりに提案する。




 




『むりむりむり! 絶対途中でエンストします!


しかも一番近いガソスタってバイパス沿いのJASSですよね?


あっちのルートは建物も多いし森からも近くて、動物が潜んでるかもしれないって話じゃないですか!』




 




浩平は笑っているが、否定の裏に現実的な危険がにじむ。




 




『……片道分のガソリンがあればいいってことですよね?


動物が出ても軽トラぶっ飛ばして逃げたらいいんですよ!


折角軽トラが復活したのに使わないのは勿体ないです!』




 




彰宏はさらに食い下がった。




 




『いや……それはそうかもしれませんが……もし羆にでも出くわしたら……』




 




『そんなのここにいたって同じですよ!


いつ動物に襲われるかも分からないじゃないですか?


今まではたまたま無事なだけかもしれません!』




 




『……確かに、それはそうだな』




 




整備チームの面々は困惑した表情でお互いの顔を見合わせる。


彰宏の意見は無謀にも思えるが、話の筋は通っていた。




 




『取り敢えず安全な方法でガソリン集めましょうよ!


公用車だけじゃなく避難所の皆さんの車からも貰えるように頼んできますから!』




 




彰宏はそう言うと、チームの返事を待たずに校舎の方へ駆け出した。




 




『ちょっ……彰宏さん!? どうしたんだ…?』




 




『……もしかして』




 




『どうかしました?』




 




『あ、いや……なんでもないです』




傑は何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。




 




『俺たちも許可取りに行きませんか?


今できることはこれしかない。それに、新しいルートが使えれば、今までより効率的に色んな物資が手に入るかもしれません』




 




傑は校舎の中へ消えていく彰宏の背中を見届けると、整備チームに向き直った。




 




『これ以上悩んでても仕方ないか……』




 




他のメンバーも次々にうなずく。


全員が顔を見合わせると、それ以上何も言わず、彰宏の後を追うように校舎の中へと消えていった。




 




──




 




ボボボッ──




ガラガラガラガラ────




 




トラクターの音を響かせながら、市街地郊外への物資調達を終えた集団が避難所へと戻ってきた。


荷台は溢れんばかりの荷物で山積みになっており、こぼれ落ちないようにブルーシートとロープで固定されている。




 




『おかえりー! お疲れ様!』




『ういー! ただいまー!』




『どうでしたー?』




 




エンジン音を聞きつけ、出迎えの者たちが外に出て声を掛ける。




 




『子どものオムツはありましたか? サニタリーとかも!』




『残念だけどなかったわ』




『わー! 缶詰がこんなに沢山! それからパスタに料理の素も!』




『医薬品はなかったですかー?』




 




玄関前はたちまち人で溢れ、運び込まれる物資を目にして悲喜交々な声が漏れる。


民家を回るだけでは限界が見えてきていた。


布団や衣類、防寒具はまだしも、衛生用品や薬、肥料など――市街地へ行かなければ手に入らない物が多い。




 




『……このままでは衛生環境が崩れるのも時間の問題だ…』




浄化槽の管理を担う職員が、眉をひそめて訴える。


医療班も薬の底を気にしていた。


それを前に、誰も反論できなかった。




 




物資調達の集団から少し遅れて、裕太が率いる護衛係とハンター志望の避難民たちが到着した。




帰り道で仕留めたエゾユキウサギを木材に吊るし、肩に担いで歩く姿はまさしくハンターそのものだ。


調理係や若い避難民たちに解体の仕方を教えたあと、裕太は玄関そばのコンクリ縁石に腰を下ろし、タバコに火を付けた。




 




『ん?……あれは……』




 




敷地内のバリケードの向こうで、浩平たち整備チームが不動車の周りに集まっている。


何やら作業している様子だ。




 




『おーい、何してんだ? 車上荒らしなら幸さんに通報するぞー?』




 




『ん? あぁお疲れ……っておい! 火気厳禁だから近付くな!』




 




裕太の声に気づいた浩平が振り返り、タバコを見つけると、手で“シッシッ”と追い払う。




 




『おかえりなさい! 今、ガソリンを回収してたんですよ』




 




彰宏が傍に置いてある携行缶やポリタンクを指差した。




 




『あーなるほど。……てことは、あの軽トラ動くようになったんですか?』




 




『はい! ただ、拾ってきたガソリンが腐ってた上に量も少なくて。


これじゃガソスタまで保たないって事になって、避難民の方たちからガソリンを分けてもらってたんですよ』




 




『ガソリンが腐る?』




 




『長く置きすぎて成分が変わっちまってるってこと。


食べ物で言えば“賞味期限切れ”みたいなもんで、エンジンには良くないんだよ』




 




浩平がポンプを押しながら説明する。




 




『へぇー、さすが昔ガソスタでバイトしてただけのことはあるな』




 




『だろー? ほら、乙四持ってる俺が言ってんだから、もう少し離れてろって』




 




『はいはい……』




 




いつになく真面目な浩平の言葉に、裕太は素直に従い、その場を離れようとした。




 




『……ん? 今、ガソスタまで行くって言いました?』




 




数歩歩いたところで裕太が立ち止まり、振り返る。




 




『ギクッ……!』




 




浩平の反応に、裕太の目が鋭くなる。




 




『もしかして……バイパスの方に行く気じゃないだろうな、浩平?』




 




『い…いやー? なんのことだろうな……』




 




『とぼけんなよ! あっちはまだ安全確認できてないから行くなって、会議で決まったろ?』




 




裕太が詰め寄る。


口調は穏やかだが、目は真剣そのもの。




 




『いやー……でもさ、ここから一番近いガソスタってバイパス沿いのJASSだろ?


折角軽トラが復活したんだから有効活用して冬に備えないとダメじゃん?』




 




『それはそうだけど……何もあっちまで行くことはないだろ?


こうやって今みたいに、みんなの車からガソリンもらえばいいじゃん』




 




『……それが、そうもいかないんですよ。


車の構造的に給油口からホースでガソリンが抜けにくくなってて。


この車で15台目くらいなんですが、全然足りなくて……』




 




傑が2人の間に入って説明した。




 




『えっ……そうなんですか? 今でどれくらい集まったんです?』




 




『ようやく10リットルってところですね。俺たちも、もう少し取れると思ってたんですが……』




 




『たったの10リットル!? じゃあ避難所の全車からかき集めても……』




 




『このままのペースで集めても、ガソリン満タン1回分になればいい方だな』




 




浩平が軽トラを見つめながら言う。




 




『この軽トラで燃費どれくらいでしたっけ……?』




 




彰宏が恐る恐る尋ねる。




 




『結構古い上に状態も良くない。その上、荷物や人を載せて走るとなると……


せいぜい良くてリッター8くらいだな』




 




傑が車屋時代の知識から答えると、浩平も他のメンバーも同意するように頷いた。




 




『リッター8キロ!?』


彰宏は想像より悪い燃費に目を丸くする。




 




『そもそもトラックって燃費クソなんですよ』




 




浩平が半笑いでぼやく。




 




『知らなかった……じゃあこの10リットルで、せいぜい80キロってことか……』




 




彰宏はうつむき、肩を落とした。




 




『……折角軽トラを整備してくれたところ悪いですけど、俺としては現状ハイリスク・ハイリターンすぎると思います。


この軽トラは何かあった時に計画的に使うとして、しばらくはトラクターで安全に行ける範囲で調達を続けるのが一番いいと思いますよ』




 




裕太がそう言い残し、立ち去ろうとしたその時、




 




『………って、なんですか……』




 




彰宏が下を向いたまま、震える声で裕太の背中を呼び止めた。


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