12.午餐
「食事会、ですか?」
夏も盛りを過ぎる頃、レディ・アメリアに話があると呼び出されたユスラはある招待を受けた。
ホストはここロスタンの領主であるウォルトン・イェイツだった。
「私も呼ばれているし、他にも参加者がいるの。まぁ、あの人のいつもの思いつきというか、お披露目に付き合わされるだけね。あなたが心配するようなことはないし、気負う必要もないわ。服は、私の若い頃のものでよければ用意しましょう。」
「良いのですか?」
「ええ。若い人には地味なデイドレスだけれど、落ち着いているあなたなら着こなせるはずよ。」
「それは大変ありがたいお話なのですが、なぜ私なのでしょうか。」
「行ってみれば分かるわ。とにかくあなたが来ないと困るのよ。仕事の一環として参加してくれればいいから、当日はいつも通りうちに出勤してちょうだいね。」
仕事、ということはアメリアと何か取引があるのだろうか。とにかくそう言われてしまえばユスラは従うしかない。
帰宅してからセリにも相談してみたが「行った方がいいと思うよ。」と答えるだけだった。
ウォルトンと親ししくしている様子なので、何か知っているのかもしれない。聞いても教えてくれないのだろうなと、ユスラは深く追求することを諦めて、貸本屋でテーブルマナーと社交に関する指南書を借りてくると熱心に読み込んだ。
*
食事会当日、ユスラは言われた通りマシューズ邸に出向き、用意されたデイドレスに袖を通した。
光沢のあるベージュのハイウエスト・ドレスでデコルテが大きくあいているが、繊細なレースで覆われているためかえって品よく見える。
シンプルなだけに着る人を選ぶ、レディ・アメリアらしいドレスだった。アクセサリーは真珠の首飾りを借り、ヘアセットはメイドのエミルがやると名乗りでた。
「うん、私ってば天才!ユスラが良家のお嬢様に見えるよ。」
後頭部にぴったり沿うように、複雑な編み込みをいくつも作りすっきりまとめた髪に、オーガンジーの生地でつくられた花の髪飾りをさして、エミルは満足げだ。
「こんなに綺麗に編んでいただいて、ありがとうございます。」
「素材がいいからね。これならあの彼もさらにユスラに夢中になっちゃうね。」
「見せたいのはやまやまなのですが、ここでドレスをお返しして帰るので、それは難しそうですね。」
もっとも、ドレス姿を見せたところでいつもと変わらないとは思う、とはひとり盛り上がっているエミルには言えないユスラだった。
「そうなの?残念。」
「ええ。でも髪はそのままで帰れますから。」
「そっか。まあとにかく、楽しんできてね!お土産話、楽しみにしてるから。」
エミルに見送られて、ユスラはレディ・アメリアとともに迎えの馬車に乗り込んだ。
思えばウォルトンと領主館で会うのは初めてだった。
マシューズ邸よりもさらに大きなお屋敷でユスラたちを出迎えたウォルトンは細身のモーニングコートを着こなしており、やはりこの人は領主なのだと改めて思い知る。
「ようこイェイツ家へ。奥様、こちらまでご足労いただきありがとうございます。ユスラちゃんも来てくれてありがとう。そのドレス、良く似合ってるよ。」
パチン、と茶目っ気たっぷりに片目を閉じて笑う姿は、いつものウォルトンだった。
「こちらこそ、本日はお招きいただきありがとうございます。」
型どおりの挨拶をすませて案内された応接間には、長テーブルには昼食の用意が整っていた。
用意された席はひとつ。あと一人、ここに呼ばれた者がいるらしい。
誰がくるのだろうと、背筋を伸ばしてまっていると、やがてドアがノックされた。
「どうぞ。」
ウォルトンの声はやけに気安い。
親しい人なのだろうかとドアを見れば、そこにいたのは黒いラウンジスーツに身を包み、髪をセットした非常に美しい青年だった。
ユスラはここでようやく、自分が呼ばれた意味を理解した。
そして、おそらくは正しい舞台に引き上げられたであろうその人の晴れ姿に、感極まって泣きそうになるのをぐっと我慢した。
「本日集まっていただいたのは、こちらのセリを領主補佐官に任命したく、私の後見人であり、レガーロのオーナーでもあるアメリア様をご招待させていただきました。」
ウォルトンの後ろに立って優雅に頭をさげるセリは、どこかの貴族のようだった。レガーロの制服を着ている時も思ったが、セリはきちんとした格好をすると身分がいくつも上に見える。
「いいかな、ユスラちゃん?」
「セリがそれでいいのなら、私が口を挟むことはなにひとつありません。」
背筋を伸ばし、迷うことなくそう答えたユスラに、ウォルトンはセリをみて笑った。
「だってさ。」
「予想していた答えです。」
セリが笑い返して、4人は席についた。和やかな午餐が始まろうとしていた。




