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生者失格~異世界転生したらもう死んでたんだが~  作者: ぐうたらするめ


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第8話「勇者と骸骨が酒場に入ったら」

その出会いは、偶然だった。


 善行マラソンの合間に立ち寄った酒場で、俺は勇者レオンと再会した。


「……ポジオ?」


「おう、レオン。奇遇だな」


 レオンはカウンター席に一人で座っていた。鎧を脱いでラフな格好をしている。勇者だって休みの日くらいある。そりゃそうだ。


「隣、いいか?」


「ああ、構わない」


 俺はレオンの隣に座った。酒場の店主が俺を見て固まったが、レオンが「知り合いだ」と言ったら大人しく引き下がった。勇者の信用力は異常だ。


「何か飲むか?」


「飲みたいけど、胃がない」


「……ああ、そうだったな」


 気まずい沈黙が流れた。レオンがエールを一口飲み、それからこちらを見た。


「お前、変わったな」


「進化した。肉がついたんだ」


「肉……確かに、前よりは……いや。正直に言っていいか?」


「言え」


「前の方がまだ清潔感があった」


「皆まで言うな」


 レオンは苦笑した。イケメンの苦笑は絵になる。アンデッドの苦笑はホラーになる。世界は不公平だ。


---


「レオン、ちょっと聞きたいことがあるんだが」


「何だ?」


「お前が召喚された時のこと、教えてくれないか。俺があの事故で巻き込まれたってのは聞いてるけど、詳しいことは知らない」


 レオンの表情が少し曇った。


「……俺が召喚されたのは、半年前だ。教会と王国が共同で行った勇者召喚儀式。成功して、俺はこの世界に来た。だが、儀式の最中に予定外の余波が出て……教会の記録によれば、その時に巻き込まれた魂が一つあった」


「それが俺か」


「ああ。正規の召喚対象ではなかった。偶然、儀式の範囲に触れてしまった魂。教会は『ノイズ』と呼んでいた」


「ノイズって……」


「すまない。俺がそう呼んでいるわけじゃない。教会の公式記録での分類だ」


「分類するのやめてほしいんだがな、あいつら」


 レオンが目を伏せた。


「お前がこうなったのは、間違いなく俺の召喚が原因だ。俺自身には過失はないと教会は言っているが、それでも……」


「やめろって、レオン。お前のせいじゃない。俺が勝手に巻き込まれただけだ」


「だが――」


「逆に考えろ。お前の召喚のおかげで俺は異世界に来れたんだ。感謝こそすれ、恨む理由がない」


「この状態で感謝するのか……」


「ああ。だってこの世界には美少女がいるからな。セレスとか、ネクロミアとか、リリアとか」


「……お前、その動機でここまで前向きになれるの、逆にすごいな」


「いや本当にすごいと思うけど、目標が最低だな」


「自覚はある」


 二人で笑った。レオンの笑いは爽やかで、俺の笑いはカタカタ鳴った。


---


「レオン。一つ頼みがある」


「言ってみろ」


「聖遺物って知ってるか? 蘇生儀式に必要な媒体なんだが」


「聖遺物……聞いたことはある。教会に蓄えられている聖なる遺物のことだろう? 勇者としての任務で、いくつかの所在は知っている」


「マジか! どこにある!?」


「落ち着け。聖遺物は教会の厳重な管理下にある。勝手に持ち出すわけにはいかない」


「でも情報だけでもくれよ。どこにあるかだけでも」


 レオンは少し考え、それから言った。


「一つだけ、教会の管理外にある聖遺物がある。北の遺跡に眠る『黎明の聖杯』だ。古い勇者が遺した聖遺物で、教会は回収を試みたが、遺跡の守護者が強すぎて手が出せなかった」


「遺跡の守護者……」


「俺も討伐の依頼を受けようかと思っていたところだ。興味があるなら、一緒に行くか?」


「え、いいのか?」


「お前を敵として討つか味方として並ぶか……俺はまだ判断しかねている。だが、お前の行動を近くで見れば、判断できるかもしれない」


「真面目だなぁ、お前」


「勇者だからな」


---


 酒場を出ると、外は夜だった。


 星が綺麗に見える。アンデッドのスキル【夜目】で、一つ一つの星がくっきり見える。前世ではこんなに星を見たことがなかった。


「なあレオン」


「ん?」


「お前さ、勇者として召喚されて、この世界をどう思う?」


「どう、とは?」


「楽しいか? 辛いか? ……幸せか?」


 レオンは少し黙った。


「楽しいかと聞かれれば、そうだな。やりがいはある。人に感謝される。強くなれる。仲間もいる」


「羨ましいな」


「だが、孤独だと感じることもある。俺は勇者だが、この世界の人間ではない。元の世界には帰れない。この世界で一生を終えるのだと、時々実感する」


「……」


「お前は?」


「俺? 俺は……死んでるけど楽しいぞ。毎日が新鮮だ。骨が折れても善行ポイントが貯まるし、美人とは会えるし、先輩は面白いし。あと仮面磨くのが地味に楽しい」


「……君、なぜそんな状態で前を向けるんだ……?」


「それしかできないからだよ」


 レオンが俺を見た。


「それしかできない、か」


「ああ。俺にはチートもないし、才能もないし、体はこのザマだ。でも前を向くことだけは、誰にも負けない」


「…………」


「まあ、向いてる方向がモテなのは、自分でもどうかと思うけど」


「台無しだ」


「だろ?」


 二人で笑いながら、夜道を歩いた。


 勇者と骸骨。


 転生ガチャSSRと転生ガチャN。


 不思議な組み合わせだが、悪くない夜だった。


---


 小屋に戻ると、リリアが不機嫌そうに待っていた。


「遅いです。どこに行ってたんですか」


「酒場でレオンと飲んでた。俺は飲めなかったけど」


「勇者と……?」


「ああ。聖遺物の情報も教えてもらった。北の遺跡に『黎明の聖杯』ってのがあるらしい。レオンと一緒に取りに行く話が出た」


 リリアの表情が変わった。


「北の遺跡……それは教会でも問題になっている場所です。守護者が強い上に、遺跡自体が古い結界で守られています」


「うん。だからレオンと組んで行こうって話になった」


「……勝手に話を進めないでもらえますか。あなたは監視下にある身です。遠征には私の許可が必要です」


「許可くれよ」


「……検討します」


 リリアはぷいっとそっぽを向いた。機嫌が悪い。レオンと仲良くしたのが気に食わないのだろうか。いや、監視対象が勝手に動くのが問題なんだろう。


 たぶん。


 おそらく。


 きっとそう。


「リリア」


「何ですか」


「遠征するなら、お前も一緒だぞ? 監視役だもんな」


「……当然です」


「じゃあ、パーティだな。レオンと俺とリリアの三人パーティ」


「パーティと呼ばないでください。護送です」


「護送でもいいから、一緒に行こう。お前がいないと不安なんだ」


「…………勝手なことを」


 リリアは部屋に戻っていった。ドアの閉め方がいつもより少し優しかった気がする。


 気のせいだろうか。


 気のせいだといいな。いや、気のせいじゃない方がいいな。


 残り50日。


 聖遺物の手がかりが見えてきた。


---


第8話「勇者と骸骨が酒場に入ったら」 ― 了


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