第12話「教会が俺を消したがっている」
教会の上級神官会議から、通達が届いた。
リリアがそれを持ってきた時の顔は、今までで一番険しかった。
「ポジオ。今から話す内容は、正式な通達です」
「……聞くよ」
リリアは紙を広げた。教会の紋章が押された、重い書面。
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> 教会監査局 通達第307号
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> 未登録存在「ポジオ」に関する暫定保留措置について、以下の通り決定する。
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> 1. 当該存在が「生死境界の特異点」であることを確認した
> 2. 特異点の存続は周辺地域の死者氾濫リスクを増大させる
> 3. よって、当局は蘇生と浄化の両案を並行審議することとする
> 4. 最終決定までの期間、当該存在の行動範囲をさらに制限する
> 5. 最終決定は残り30日以内に下す
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「並行審議……蘇生と浄化、両方検討するってことか」
「はい。つまり、浄化が正式な選択肢に入りました」
「…………」
「ポジオ。私は報告書において蘇生を推奨しましたが、上層部は保守派が多い。特異点を残すリスクと、浄化で確実に脅威を排除するのと、どちらが合理的か――冷静に計算する人間が多いんです」
「合理的にいけば、俺は消される側か」
「……否定はできません」
リリアの声が、わずかに震えた。気づかないふりをした。
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「行動制限って、具体的には?」
「町の外への遠征禁止。冒険者ギルドの依頼受注禁止。外出は私の同伴が必須。違反すれば即時浄化」
「善行マラソンも依頼もできないってことか……」
「はい」
「それじゃ蘇生の条件が揃えられないだろ! 善行値も功績も、これ以上積めないじゃないか!」
「……わかっています」
リリアは唇を噛んだ。
「教会の一部は、そうなることを狙っているのかもしれません。条件を揃えさせないまま期限を迎えれば、浄化が自動的に決定する」
「姑息だな……」
「教会を悪く言わないでください。……言いたい気持ちはわかりますが」
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ネクロミアに相談した。
「行動制限? それは困るわね。霊核の安定化には、もう少し善行と功績の蓄積が必要なのに」
「どうにかならないか?」
「教会の決定を覆すのは、外部からは難しいわ。でも一つ、方法がある」
「何だ」
「教会の内部で、あなたの蘇生を支持する声を増やすこと。上層部の決定は多数決よ。蘇生派が浄化派を上回れば、蘇生が承認される」
「教会内部の政治か。俺の得意分野じゃないな」
「でも、あなたにはすでに味方がいるでしょう?」
ネクロミアが意味ありげに微笑んだ。
「リリア。セレス。勇者レオン。そしてあなた自身の功績の記録。それらを使えば、上層部を動かせる可能性はある」
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セレスを訪ねた。
セレスは旅の途中でこの町に滞在し続けている。理由を聞いたことはなかったが、今日、彼女は自分から話してくれた。
「実は私、ここに留まっているのは……あなたのためなんです」
「え?」
「ポジオさんが蘇生を目指していると聞いて。私の呪いは浄化の力を持っていますが、実は蘇生にも応用できるかもしれないんです」
「セレスの呪いが、蘇生に?」
「はい。私の呪いは『死を祓う力』です。それを蘇生儀式と組み合わせれば、魂の定着を安定させる触媒になれる――と、ネクロミアさんに言われました」
「ネクロミアがそんなことを……」
「だから私、ここにいるんです。ポジオさんの蘇生に、私の力が役立てるなら。それが、私の存在意義になるから」
セレスの目は真っ直ぐだった。慈善でもない。使命感だけでもない。もっと個人的な何か。
「セレス。俺のために自分を犠牲にとか、変なこと考えるなよ」
「犠牲……?」
「お前の呪いを使って、お前自身が危険になるなら――」
「大丈夫です。ネクロミアさんが安全な方法を研究してくれていますから」
「……本当か?」
「はい。信じてください」
信じたい。信じたいが、嫌な予感がする。
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レオンにも会いに行った。
「教会のことは聞いている。並行審議になったと」
「ああ。俺、消されるかもしれない」
「……俺は勇者として、教会に意見を述べることができる。蘇生を推奨する意見書を出そう」
「いいのか? お前は教会側の人間だろ」
「勇者は教会の犬じゃない。正しいことを言うのが勇者の仕事だ」
「…………レオン」
「ただし」
レオンの顔が厳しくなった。
「もしお前が死者の側に傾いたら。境界を壊す存在になったら。その時は、俺がお前を止める」
「止めるって……?」
「討つ。勇者として」
「…………」
「だからお前は、俺にそれをさせるな。生者の側に来い。俺がお前の蘇生を保証する」
交渉条件としては最もシビアな内容だった。だが、レオンの目に嘘はない。
「……わかった。約束だ」
「ああ。約束だ」
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その夜、墓地の小屋で一人、天井を見上げた。
教会は俺を消すかもしれない。だが、味方もいる。
リリアは報告書で俺を守ってくれた。ネクロミアは分析で味方してくれた。セレスは呪いの力を使おうとしてくれている。レオンは意見書を出してくれる。ボーン先輩は冥境の情報を探ってくれている。
「一人じゃないな」
骸骨だった頃は、誰もいなかった。墓場で一人、月を見上げて「モテたい」と叫んだだけだった。
今は違う。
モテてはいないが、仲間はいる。
「……棚ぼたにも程があるな」
自嘲して、笑った。
残り35日。
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第12話「教会が俺を消したがっている」 ― 了




