表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生者失格~異世界転生したらもう死んでたんだが~  作者: ぐうたらするめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/20

第10話「北の遺跡と黎明の聖杯」

遠征の朝は、曇り空だった。


 北の遺跡まで徒歩で二日。メンバーは、俺、リリア、そしてレオン。ネクロミアは「遺跡の分析データが欲しいから」という理由で後日合流することになった。

 セレスは「私もお手伝いしたいです」と申し出てくれたが、浄化能力持ちの聖女とアンデッドの俺が長時間一緒にいると、

 俺の体がじわじわ削れるらしいので丁重にお断りした。


「セレスさん、気持ちだけ受け取ります」


「でも……」


「大丈夫です。俺を慈善で見守るのはここからでもできますから」


「はい! ポジオさんの無事を、毎日お祈りしています!」


「異性としてではなく?」


「尊い存在として!」


「…………ありがとうございます」


 尊い存在。人ですらない。


---


 道中、レオンとリリアの間に微妙な空気が流れていた。


「リリア殿。教会の神官が遠征に同行するのは珍しいのでは?」


「監視業務の延長です。監視対象が遠征するなら、監視者も同行するのが当然です」


「真面目だな」


「真面目なのではなく、規定通りです」


 二人の会話が堅い。レオンはリリアに敬語を使い、リリアはレオンに事務的に対応する。まるで上司と部下のような距離感。


「なあレオン、リリアのこと口説いたりすんなよ」


「は? 何を言っている」


「いや、お前イケメンだからさ。美少女と遠征なんて、フラグ立ちまくりだろ普通」


「俺はそんなつもりは――」


「私もそんなつもりはありません」


 リリアの声が冷たい。氷点下だ。聖水より冷たい。


「口説く以前に、監視対象が余計なことを言わないでもらえますか」


「はい……」


---


 二日目の昼過ぎ、遺跡が見えてきた。


 北の遺跡は、小高い丘の上に建っていた。古い石造りの建造物で、入口には巨大な円形のアーチが構えている。苔と蔦に覆われ、何百年も放置されていたことがわかる。


「ここか」


「ああ。黎明の聖杯は、この遺跡の最深部に安置されているはずだ」


 レオンが聖剣を抜いた。白銀の刃が曇り空の下でも光を放つ。勇者の聖剣。チートの塊。


「守護者は?」


「遺跡に入れば出てくるだろう。教会の記録では、古代のゴーレムが複数体配置されているとある」


「ゴーレム……石の巨人か」


「ああ。普通の冒険者では太刀打ちできない相手だ。だが……」


 レオンが俺を見た。


「お前がいれば、やりようはある」


「俺? Fランク冒険者の俺に何ができるんだ」


「ゴーレムには意思がない。魔力で動く自動人形だ。だが、お前の怨念――あの微量な霊力は、ゴーレムの魔力回路を撹乱できるかもしれない」


「怨念(微量)が役に立つ日が来るとは……」


「微量だからこそ、ノイズとして機能する。大きな力ではなく、精密な妨害。それがお前の戦い方だ」


 レオンは意外と俺のスキルを理解していた。さすが勇者。分析力が高い。


---


 遺跡の内部は、予想以上に広かった。


 石造りの廊下が何層にも分かれ、所々に古代文字が刻まれている。リリアがそれを読み解きながら進んだ。


「この文字は古代聖語ですね。『生と死を分かつ者、この杯を以て均衡を保つべし』……蘇生に関する記述です」


「やっぱり聖杯は蘇生に使えるんだな」


「使えるというより、本来はそのために作られた遺物のようです」


 最初のゴーレムに遭遇したのは、三層目だった。


 高さ三メートルの石の巨人。目に当たる部分が青く光り、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


「来たな」


 レオンが前に出た。聖剣を構え、一息で踏み込む。白銀の刃がゴーレムの腕を切り裂き、石の破片が飛び散った。


 速い。強い。圧倒的だ。これが勇者の力。


 だがゴーレムは再生した。切り裂かれた腕が、石の破片を吸い寄せて元に戻る。


「再生するのか!」


「魔力核が無事なら再生し続ける。核を壊す必要がある」


「核はどこだ!」


「胸の奥――だが、外殻が硬くて聖剣でも一撃では届かない」


「……リリア! 聖水は効くか!?」


「ゴーレムは生物ではないので聖水は無効です!」


「じゃあ俺の出番か!」


 俺はゴーレムに向かって走った。レオンが斬りつけた跡から、ゴーレムの内部が一瞬見える。再生する前に――


 スキル【怨念(微量)】を全力で放出した。


 微量の霊力が、ゴーレムの内部に流れ込む。魔力回路にノイズが走り、ゴーレムの動きが一瞬止まった。


「今だ、レオン!」


「――もらった!」


 レオンの聖剣が、ゴーレムの胸を貫いた。青い魔力核が砕け散り、ゴーレムは完全に停止して崩れ落ちた。


「やった!」


「見事だ、ポジオ。お前のスキル、使えるじゃないか」


「微量だからこそ精密に効いたんだな。……でもこれ、俺一人じゃ何もできないぞ」


「だから一人で戦う必要はない。パーティとはそういうものだ」


 パーティ。レオンがパーティって言ってくれた。護送じゃなくて。


「聞いたかリリア。パーティだとよ」


「聞いてました。ですが私は依然として護送です」


 素直じゃない。


---


 四層、五層とゴーレムを倒しながら進んだ。


 俺がノイズで動きを止め、レオンが核を破壊する。リリアは後方で結界を張り、ゴーレムの攻撃から俺たちを守った。息が合ってきている。


 そして、最下層。


 巨大な扉の向こうに、小さな部屋があった。


 部屋の中央に、台座がある。その上に――


「あれが……」


 金色に輝く杯。手のひらに収まるほどの小さな杯だが、そこから溢れる光は圧倒的だった。聖なるオーラ。命の輝き。


 黎明の聖杯。


「綺麗だ……」


「これが蘇生儀式の媒体になる聖遺物か」


 俺は一歩、前に出た。


 その瞬間、台座が光った。


---


 部屋全体が振動し、天井から砂が落ちてくる。台座を中心に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「罠か!?」


「いえ、これは……試練です。聖杯の資格審査」


 リリアが古代文字を読み上げた。


「『この杯を手にする者、生と死の間に立つ者のみ。汝の意志を問う。汝は何のために生を望むか』」


 意志を問う。


 聖杯が、俺に問いかけている。


「何のために生を望むか、だと……」


 正直に答えるべきか。


 「世界を救うため」と言えば、格好はつく。「境界を修復するため」と言えば、論理的だ。


 だが。


「…………モテたいからだよ」


 レオンが目を見開いた。リリアが額を押さえた。


「生き返って、人間に戻って、ちゃんと笑って、ちゃんとフラれて、それでもまた誰かを好きになって――そういう、くだらなくて面倒くさい普通の人生を送りたいんだ」


 魔法陣が揺れた。


「世界を救うとか大層なことは、正直、自信がない。でも俺は、生きたい。生きてモテたい。誰かの隣に立ちたい。それだけだ」


 沈黙が続いた。


 五秒。十秒。三十秒。


 そして――聖杯が光った。


 柔らかな金色の光が俺を包み、台座の上の杯がふわりと浮き上がった。


「……通ったのか?」


「通ったらしいわね」


「嘘だろ。あの答えで?」


 レオンが呟いた。聖杯がゆっくりと俺の手のひらに降りてきた。温かい。聖なる遺物のはずなのに、アンデッドの体にダメージがない。むしろ、体の芯が温かくなる。


「聖杯は、答えの『正しさ』ではなく、意志の『本気さ』を見たのかもしれません」


 リリアが静かに言った。


「あなたの動機は最低ですが、その動機に嘘がないことだけは……確かです」


「リリア……それ、褒めてるのか?」


「褒めていません。事実を述べているだけです」


 レオンが苦笑した。


「生への動機がモテで、聖杯の試練を突破した男。お前、歴史に残るぞ。最悪の形で」


「そこは最高って言ってくれ」


---


 遺跡を出ると、空が晴れていた。


 聖杯を手に入れた。蘇生条件の一つが揃った。


---


蘇生条件 進捗

・善行値:+31 → まだ足りないが増加中

・功績:中規模依頼完了 × 多数 → 順調

・霊核安定:やや改善 → まだ足りない

・聖遺物:黎明の聖杯 ☑ 入手済

・許可証:監視段階 → まだ遠い


残り期限:45日


---


「聖遺物は手に入った。次は霊核の安定と、許可証だ」


「許可証は教会の最終承認です。善行値と功績が十分に蓄積され、霊核が安定した段階で、私が申請書を提出します」


「お前が提出してくれるのか」


「蘇生許可証には現場証言者の署名が必要です。あなたの監視を担当していた私が署名しない限り、許可は通りません」


「……リリア。お前がいなきゃ、俺は蘇生できないんだな」


「はい。ですから……」


 リリアは一拍置いて、


「私が見届けます。あなたの蘇生を」


「……ありがとう」


「感謝は不要です。業務です」


 業務で結構。


 お前が味方でいてくれるなら、俺はどこまでも前に進める。


---


第10話「北の遺跡と黎明の聖杯」 ― 了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ