第9話:断罪の宮殿と、崩れゆく王権
第9話をお読みいただき、ありがとうございます!
帝国皇帝や高官たちが繰り広げる往生際の悪い見苦しさと、偽勇者の圧倒的な力による容赦なき断罪。
そして、すべてが崩壊していく中で、セレスティアと解放された少女ルリエルの間に交わされる言葉を描きます。
それでは、第9話をお楽しみください。
帝国の宮殿地下、禁忌の祭壇の間は、一瞬にして修羅場へと変わっていた。
最高魔導士たちが築き上げた魔法陣は、偽勇者が放った圧倒的な呪いの魔力によって逆流し、眩い光の代わりにドス黒い亀裂が床一面に走り始めていた。
「ひっ……あ、あぁ……っ!」
帝国皇帝グラハムは、純金の冠を剥ぎ取られ、泥と血にまみれた床の上を這いずり回っていた。
先ほどまで「人類を守るための犠牲だ」と高慢な言葉を吐いていた男の面影は微塵もなく、残っているのは死への恐怖に狂った醜い老人の姿だけだった。彼の周囲には、帝国軍の誇る近衛騎士たちが次々と無残に切り伏せられ、鉄の鎧ごと肉塊と化して転がっている。
漆黒の呪いの鎖を纏った偽勇者は、一歩、また一歩とグラハムへと歩み寄る。
その足音は、皇帝にとって死刑台の鐘の音よりも重く、逃れられない絶望として響いていた。
――自分の命可愛さに他者を贄に差し出し、安全圏から笑う。その愚劣さは、三百年前から何一つ変わっていない
偽勇者の声が、冷徹に脳内を突き刺す。
「ま、待て……! 殺さないでくれ……! 私には帝国を統べる義務が……世界をまとめる責任が……っ!」
「義務だと?」
低く掠れた声に混じり、冷ややかな笑い声が響いた。それは偽勇者ではなく、その傍らに立つ少女――セレスティア・ミステのものだった。
セレスティアは、救い出したばかりの少女ルリエルを背後に庇いながら、冷酷な瞳でグラハムを見下ろしていた。
「よくそんな口が叩けるわね。あなたたちは、私たちの国を勝手に踏みにじり、子供たちを生贄の道具としてしか見ていなかったくせに。いざ自分に牙が向いたら、どこまでも情けないこと……!」
「ひっ……! お、お前はミステ王国の……!」
「ええ、そうよ。あなたたちが踏み潰そうとした、数え切れない犠牲者の一人よ」
セレスティアの言葉が終わると同時、偽勇者の手から放たれた漆黒の刃が閃いた。
グラハムの叫び声は途中で途切れ、帝国の最高権力者の首は虚しく宙を舞い、床へと転がり落ちた。
大国アルカディア帝国を牛耳り、自らのエゴのために無数の命を踏みにじってきた王権は、こうして音を立てて完全に崩壊したのだった。
宮殿の上層部では、皇帝の死を知った高官や貴族たちが、財宝を抱えて我先にと逃げ出そうとパニックに陥っていた。
しかし、地下から湧き上がった呪いの瘴気は瞬く間に宮殿全体を飲み込み、逃げ場などどこにも残されていなかった。富も、権力も、名誉も、すべては一瞬の塵となって消え去っていく。
崩れゆく宮殿の中庭。
燃え盛る炎を背にしながら、セレスティアは手を引く少女ルリエルに優しく語りかけた。
「怖かったわね。もう大丈夫よ」
「うん……お姉ちゃん、ありがとう……。でも、これから私たちはどうなるの?」
ルリエルは不安そうに、燃え落ちる帝都の空を見上げながら尋ねた。
セレスティアは少しだけ目を細め、静かに微笑んだ。
その表情には、子供を庇う優しさと、すべてを見届ける者特有の静かな覚悟が同居していた。
「私たちはね、この世界がどうやって終わるのかを最後まで見届けるの。……もう、誰も私たちを傷つけたり、犠牲にしたりできない世界にするためにね」
ルリエルは完全に理解したわけではなかったが、セレスティアの温かい手にしっかりと手を握り返し、小さくうなずいた。
その傍らで、偽勇者は静かに佇み、崩壊する帝都の向こう側に広がる世界を見据えていた。
ダマシテ王国が滅び、商業都市が消え、今や大国である帝国すらもその姿を消した。しかし、世界の脅威である「アンデッド軍団」は、人間たちの内輪揉めとエゴの果てに、なおも地平線を埋め尽くすように迫りつつある。
人間が作り上げた欺瞞と裏切りの構造を根元から断ち切るため、終焉の旅はいよいよ最終局面へと突入していくのだった。
第9話までお読みいただき、ありがとうございます!
帝国皇帝グラハムが因果応報の末に断罪され、帝都の宮殿が崩壊していく過程を描かせていただきました。
救い出された少女ルリエルとセレスティアの絆、そしてすべての元凶を焼き尽くした後の静寂が、物語をよりシリアスに盛り上げます。
それでは、第10話でお会いしましょう!




