第6話:連鎖する崩壊と、怯える王国たち
第6話をお読みいただき、ありがとうございます!
商業都市ラヴェンナが偽勇者によって一瞬で灰と帰したという報せは、瞬く間に人類の主要な防衛拠点へと駆け巡りました。
自分たちの安全圏が崩れ去っていく恐怖に震える者たちと、相変わらず他者を疑い、責任を押し付け合う為政者たち。
止まらない破滅の連鎖の中で、セレスティアの心境にも新たな変化が訪れます。
それでは、第6話をお楽しみください。
巨大商業都市ラヴェンナの消滅は、ダマシテ王国の崩壊を上回る衝撃を全世界に走らせた。
都市の周囲に群がっていた難民たちも、富を誇っていた商人たちも、その日のうちにすべてが漆黒の炎に飲み込まれ、地図の上から文字通り「存在しなかったこと」になったのだ。
大陸の中央に位置する大国『アルカディア帝国』の皇帝宮殿。
その豪華絢爛な玉座の間で、皇帝グラハムは顔面を青ざめさせ、震える手で報告書の紙切れを握りつぶしていた。
「――ラヴェンナが、消えただと……!? あの堅固な城壁と、数万の兵が駐屯していた商業都市が、わずか半日のうちに丸ごと消滅したというのか……っ!」
「はっ……間違いございません」
帝国軍の最高司令官が、脂汗を滴らせながら絞り出すように答えた。
「現地の生存者からの証言によれば……ダマシテ王国を滅ぼしたあの『最初の偽勇者』が単身で現れ、都市を一撃で焼き払ったとのことです。もはや、通常の軍事力で対抗できる相手ではありません……」
玉座の間に立ち込めていたのは、かつての威厳ある空気ではなく、鉛のように重い絶望と恐怖だった。
ダマシテ王国が滅び、商業都市ラヴェンナが消え去った今、アンデッド軍団の侵攻を食い止める防衛網は完全に崩壊し、帝国の首都へと続く道はガラ空きとなっていた。さらに、その背後からは「世界を終わらせる厄災」が確実にこちらへ歩みを進めているのだ。
「なぜだ……! なぜ我々がこのような目に遭わねばならんのだ!」
グラハム皇帝は玉座の肘掛けを激しく叩き、血走った目で喚き散らした。
「我が帝国は何も悪くない! ダマシテが勝手にミステ王国を裏切り、生贄を強要したのがすべての元凶ではないか! なぜあの愚か者たちの尻拭いを、我々がせねばならんのだ……っ!」
その言葉を聞きながら、側近の宰相は冷や汗を拭い、しかし内心では冷徹な計算を働かせていた。
皇帝の言う通り、発端はダマシテ王国の身勝手な裏切りだった。しかし、帝国とて他国を笑える立場ではない。これまでアンデッドの侵攻から目を背け、物資や兵力を出し惜しみし、自国の安泰ばかりを優先してきたのは帝国も同じなのだから。
「皇帝陛下……もはや、こうなっては手段を選んではいられません」
宰相は慎重に言葉を選びながら、進言した。
「……再び、儀式を行うのです」
「……なに?」
「ダマシテ王国が犯した過ちは、生贄の選び方を誤り、中途半端なやり方をしたからに過ぎません。真の『正統なる勇者』を召喚すれば、あの偽勇者をも討ち滅ぼし、アンデッド軍団を一掃できるはずです」
グラハム皇帝は息を呑んだ。
「しかし……勇者召喚には『王族の生贄』が必要不可欠だぞ。我が帝国に、そんな犠牲を差し出す血族など……」
「我が国でなければよいのです」
宰相の口元に、冷酷で薄汚い笑みが浮かんだ。
「周辺の小国に命じ、今度こそ純血の王族を生贄として差し出させましょう。逆らうのであれば、帝国軍をもって強制的に連行すればよいのです」
自分たちが生き残るためであれば、何度でも他者を踏み台にし、無辜の血を流させる。
世界がどれほど崩壊の危機に瀕していようとも、為政者たちのエゴは少しも変わっていなかった。いや、恐怖に追い詰められた分だけ、その醜悪さはより一層際立っていた。
その頃、炎に包まれたラヴェンナの廃墟を遠くに見下ろす丘の上で、偽勇者とセレスティアは静かに佇んでいた。
夜風が、燃え残りを含んだ黒い灰を運んでくる。
セレスティアは自身の服についた煤を軽く払い、どこか穏やかな表情で眼下の光景を眺めていた。
「また、同じことを繰り返そうとしているわね」
少女の澄んだ声が、夜の静寂に響く。
偽勇者が静かに首を傾げると、セレスティアは冷ややかに微笑みながら続けた。
「さっき、帝国の使者が慌てて逃げ出すのを見たわ。彼らは自分たちの失態を棚に上げ、また別の国から生贄を集めて、新たな勇者を召喚しようと企んでいる……。あんなに街が焼け、人々が死んでいったというのに、あの人たちは何も学ばないのね」
――人間の業とはそういうものだ
偽勇者の低い声が、脳内に響く。
――生き残るためならば、どれほど多くの者を犠牲にしようとも躊躇わない。だからこそ、その醜い連鎖を断ち切るには、根絶やしにするしかないのだ
「ええ、本当にその通りだわ」
セレスティアは、かつて自分の故郷を奪い、自分をも生贄にしようとした者たちの顔を思い出していた。ダマシテ王国だけではない。この世界に巣食うすべての為政者、すべての人間が、その本質においては同じなのだ。
「ねえ……次は、どこへ行くの?」
セレスティアは偽勇者を見上げ、問いかけた。その瞳には、もはや恐怖や迷いは一切なく、終焉を望む強い意志だけが宿っていた。
――帝国の首都だ。奴らが再び『生贄の儀式』を始めるその中心地へ赴き、すべての欺瞞を根元から断ち切る
偽勇者はその巨体を翻し、静かに歩き出した。
その後を追うセレスティアの足取りは、最初とは比べ物にならないほど軽やかだった。
人間の尽きることのないエゴと、それを裁く終わりの厄災。二人の旅は、すべての元凶が巣食う帝国の中心部へと、着実に歩みを進めていくのだった。
第6話までお読みいただき、ありがとうございます!
商業都市の消滅を知ってもなお、懲りずに「別の国から生贄を奪って新たな勇者を召喚しよう」と企む帝国の腐敗を描かせていただきました。
どこまでも救いのない人間のエゴと、それに寄り添うセレスティアの境地が物語をさらにダークに盛り上げていきます。
それでは、第7話でお会いしましょう!




