第5話:商業都市の喧騒と、終わりの足音
第5話をお読みいただき、ありがとうございます!
旅を続ける偽勇者とセレスティアがたどり着いたのは、アンデッドの脅威から逃れた人々で賑わう巨大な商業都市。
しかし、そこでも人々は危機感を共有するどころか、他者を出し抜いて私腹を肥やすことしか考えていませんでした。
人間の救いようのないエゴが浮き彫りになる中、ついに終わりのカウントダウンが動き出します。
それでは、第5話をお楽しみください。
荒野を抜け、二人がたどり着いたのは、大陸有数の規模を誇る巨大な商業都市『ラヴェンナ』だった。
城壁の外部には、ダマシテ王国の崩壊やアンデッド軍団の侵攻に怯えて逃げてきた難民たちのテントが溢れ返っている。しかし、都市の門の内側は、外の惨状が嘘のように豪奢な活気に満ちあふれていた。
大理石造りの通りには露店が並び、高価な香辛料や魔導具、さらには「安全な土地への移住権」と称した偽りの通行手形を高額で売りつける商人たちの声が飛び交っている。
「――さあさあ、見ろ! これぞ聖教会お墨付きの聖印だ! これさえ持っていれば、いかにアンデッドの群れが迫ろうとも、神の御加護で一歩も近づくことはできん! お値段は金貨五十枚、残りわずかだぞ!」
胡散臭い商人の周囲には、恐怖に駆られた裕福な市民たちが群がり、我先にと金貨を投げ出していた。
その様子を、大通りの隅から冷ややかな目で眺めている少女がいた。セレスティア・ミステである。
「……ひどいものね」
セレスティアは、呆れを含んだ乾いた笑みを漏らした。
「外では人々の故郷が奪われ、命が踏みにじられているというのに……この街の人間たちは、他人の不幸を商売の具にして、自分だけが生き残ることしか考えていない。ダマシテ王国が滅びようが、世界がどうなろうが、何も学んでいないわ」
その隣で、全身に呪いの鎖を纏った漆黒の偽勇者は、微動だにせず都市の中心部を見据えていた。
その脳裏には、三百年前の記憶がフラッシュバックしていた。かつて彼が命を賭して守ろうとした都市も、まさにこのような場所だった。人々は目の前の私利私欲に溺れ、自分たちが生きるために平然と他者を犠牲にし、裏切りを重ねた。そして、いよいよ危機が迫ると「なぜ助けてくれないのか」と絶叫し、すべてを他人のせいにした。
――変わらん。何度生まれ変わっても、この下劣な本質は微塵も変わらん
偽勇者の低い声が、セレスティアの脳内に直接響く。
その言葉に、セレスティアは深くうなずいた。彼女もまた、自らの国を信じ、手を取り合っていると信じ込んでいたダマシテ王国に裏切られ、すべてを奪われた。人間の善意や絆などというものが、いかに薄っぺらな幻想であるかを身をもって知っている。
「ええ、そうよ。だからこそ、もう終わりにしなくちゃいけないのよ」
セレスティアの瞳に、冷たい光が宿った。
「こんな醜い者たちで満ちた世界が、これ以上延命する意味なんてどこにもないわ。ねえ、あなたのその力で、この街のすべてを……綺麗に洗い流してちょうだい」
少女の言葉は、世界に対する完全な断罪であり、崩壊を望む乾いた祈りだった。
偽勇者はゆっくりと右手を掲げた。
その瞬間、都市の上空を覆っていた穏やかな青空が、一瞬にしてどす黒い漆黒の雲に飲み込まれた。
空気中の魔力が沸騰し、大地が大きく揺れ始める。楽しげな買い物の声を上げていた商人たちや、高価な聖印を買い漁っていた市民たちの足がぴたりと止まった。
「な、なんだ……!? 空が急に……!」
「おい、魔力が異常だぞ! 一体何が起きている……ッ!?」
人々の間に、じわじわと冷たい恐怖が広がり始める。
しかし、彼らが恐怖したのは「自分たちが犯してきた罪」に対してではない。ただ突然降りかかった災厄に対して、我が身の危険を恐れているだけだった。その醜いパニックのざわめきこそが、偽勇者にとってこの世界を滅ぼす理由のすべてだった。
――終わりの時だ
偽勇者が握り締めた拳から、全てを焼き尽くす呪いの炎が放たれた。
大地が裂け、漆黒の業火が商業都市ラヴェンナの城壁を飲み込む。逃げ惑う人々の悲鳴と、富と欲にまみれた街並みが、一瞬の閃光の中に消え去っていく。
エゴと欺瞞に満ちた世界を終わらせるためのカウントダウンは、今、確実に次の段階へと進み始めたのだった。
第5話までお読みいただき、ありがとうございます!
商業都市での人々の醜い姿を通じて、改めて人間の変わらぬエゴを描かせていただきました。
そして、ついに偽勇者とセレスティアによる本格的な都市の断罪が幕を開けます。
ここから物語は第2部「強行される儀式・崩壊の連鎖」のクライマックスへと突入していきます!
それでは、第6話でお会いしましょう!




