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生贄を出すのが嫌で隣国を裏切ったら、世界が終わるまでのカウントダウンが始まった  作者: 凪塩 未来


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第4話:聖なる教会の隠蔽と、歪んだ正義

第4話をお読みいただき、ありがとうございます!


ダマシテ王国の壊滅という衝撃的なニュースは、世界の理を司る「聖教会」にも届きます。

しかし、彼らが動いた理由は「世界の救済」ではなく、自らの権威と利益を守るための保身と隠蔽工作でした。

人間の腐敗がさらに加速していく中、偽勇者とセレスティアの旅の行方は――?


それでは、第4話をお楽しみください。

ダマシテ王国の王都が消滅したという悪夢のような報せは、数日をかけて大陸全土を統括する宗教的最高権威――『聖教会』の本部へと届いていた。


神聖なる大聖堂の奥深く、白亜の柱が立ち並ぶ重厚な執務室。

そこに集まったのは、神の言葉を代弁するとされる最高位の聖職者たち、数名の「枢機卿」であった。室内を満たしているのは、敬虔な祈りの空気ではなく、冷ややかな損得勘定と保身の臭気だった。


「――ダマシテ王国が、一晩にして壊滅だと? しかも、召喚されたはずの勇者が、かつて世界を滅ぼした『偽勇者』であったという情報は本当か……!」


中央の席に座る最高指導者、教皇レオンハルトは、皺の刻まれた顔を険しく歪め、目の前に置かれた報告書を握りつぶさんばかりの勢いで睨みつけていた。

その傍らで、側近の枢機卿が冷や汗を拭いながら声を震わせる。


「はい……。生存者たちの証言や、現地から上がってきた魔力の残留痕から見て、間違いありません。ダマシテ王国の王族、および高官たちは全員死亡。王都は呪いの瘴気に包まれ、現在では生者が近づけない死の土地と化しております」


「馬鹿な……!」

別の枢機卿が机を叩き、激昂した。

「あれほど『我が国こそが人類の守護者であり、神の意思を代行する中心地である』と諸国に布告しておきながら、よりによって自分たちが召喚した化け物に皆殺しにされるなど……! これでは教会の威信が丸潰れではないか!」


聖教会はこれまで、ダマシテ王国と密接に結びついていた。

「アンデッド軍団の侵略は、神の試練である。そして、それに立ち向かうダマシテ王国こそが正義の使徒である」という神話を作り上げ、世界中から莫大な寄付金や物資を集め、信仰をコントロールしてきたのだ。

もし、「ダマシテ王国が隣国を裏切って生贄を強要し、その因果応報で最悪の厄災に滅ぼされた」という真実が民衆に知れ渡れば、教会の権威は一瞬で失墜する。民衆は絶望し、信仰は瓦解し、教会組織そのものが崩壊するだろう。


「……真実を公表するわけにはいかん」


教皇レオンハルトは深く息を吐き出し、冷徹なまでのトーンで言い放った。

その老いた瞳に宿っているのは、神への信仰でも、民の救済でもなく、ただ自らが築き上げた権力構造を守るためのドス黒い執念だった。


「ダマシテ王国の壊滅は、あくまで『未曽有のアンデッド大軍団の奇襲による悲劇』とする。王族たちは最後まで勇敢に戦い、神託のために殉教したのだと記録を書き換えるのだ」

「しかし、教皇聖下。それでは『最初の偽勇者』の存在はどう処理なさいますか? あれほどの厄災が今もどこかを徘徊しているとなれば、いずれ世間に露見しますぞ」


「ふん、恐れることはない。あれは、ダマシテ王国が禁忌の邪法に手を出した結果、神の怒りに触れて一時的に現れた『悪霊の類い』に過ぎん。あるいは、生き残った愚かな異端者たちの妄言として処理すればよい」

レオンハルトは冷酷に微笑んだ。

「それよりも、今すぐ別の都市から新たな『特使』を立て、諸国への統率を強めなさい。恐怖に怯える民から、さらなる寄付と兵力を巻き上げるのだ。世界がどうなろうと、我々の地位が揺るがなければどうということはない」


神の教えを説くはずの聖教会の中枢で、人間の最も醜いエゴが平然と正当化されていた。

ダマシテ王国が滅びようとも、彼らは自分たちの利権を守るために、さらなる欺瞞と嘘を塗り重ねようとしていたのである。この世界には、救いを与えようとする者など最初から存在しなかった。


その頃、教会の思惑など知る由もなく、荒野の道を歩み続ける二つの影があった。

偽勇者と、ミステ王国の王女セレスティアである。


あれから数日間、二人は言葉を交わすこともなく、ただひたすらに歩き続けていた。

セレスティアの足の裏の水ぶくれは潰れ、痛みに耐えかねて幾度も足がもつれかけたが、彼女は弱音を一度も口にしなかった。瞳の奥には、かつての少女らしい幼さは消え失せ、冷徹なまでの虚無と、世界への冷ややかな観察眼だけが残っていた。


「……ねえ」


再び、セレスティアが足を止め、静かに口を開いた。

先を歩いていた偽勇者が、ゆっくりと振り返る。漆黒の呪いの奥から、無言の問いかけが返ってくる。


「人間って、本当に愚かね」

セレスティアは荒野の彼方を眺めながら、自嘲気味に呟いた。

「自分の国が滅び、あんなにも惨たらしい死に方をした者たちがいたというのに……きっと今頃、他の国や教会は『自分たちには関係ない』って、別の誰かを犠牲にする算段をしているわ。誰も反省なんてしない。ただ、保身と欲のために、また同じことを繰り返すだけ」


彼女の言葉は、三百年という途方もない時間を生き、人間の醜さのすべてを見てきた偽勇者の記憶と完全に一致していた。


――そうだ。いつの時代も、人間は変わらん

偽勇者の声が、脳内に低く響く。

――愛や正義を謳いながら、その裏で弱者を食い物にする。生贄を差し出し、自分だけが生き残ろうとする。だからこそ、この世界に明日など必要ないのだ


「ええ、本当にそうよ」

セレスティアは小さくうなずいた。その表情には、恐怖も悲しみもなく、奇妙なまでの安らぎさえ漂っていた。

「私からすべてを奪ったこの世界を、あなたのその手で、隅々まで壊してちょうだい。私も、その終わりの瞬間を最後まで見届けてあげる」


復讐の鬼と化した偽勇者と、すべてを諦め、世界の終焉を望む少女。

利己的なエゴにまみれた人類が作り上げた世界を裁くため、二人の足取りは、次の破壊の舞台へと確かな意志を持って進んでいくのだった。

第4話までお読みいただき、ありがとうございます!


ダマシテ王国の崩壊を知ってもなお、自らの利権と保身のために隠蔽工作を図る「聖教会」の腐敗を描かせていただきました。

どこまでいっても人間のエゴが絶えないこの世界で、偽勇者とセレスティアの絆(共犯関係)がより強固なものになっていきます。


それでは、第5話でお会いしましょう!

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