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生贄を出すのが嫌で隣国を裏切ったら、世界が終わるまでのカウントダウンが始まった  作者: 凪塩 未来


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シーズン3・第4話:残された記憶と、深淵の扉

シーズン3・第4話をお読みいただき、ありがとうございます!


「エゴの残滓」を退けたセレスティアたちの前に、さらなる深淵へと誘う新たな現象が立ちはだかります。

すべての因果の起点となった「最初の偽勇者」が残した本当の遺産とは何なのか、物語の核心に迫る第4話をお楽しみください!

セレスティアから放たれたまばゆい聖なる光が、廃墟の広場を埋め尽くしていた漆黒の霧を焼き尽くすように払っていった。

『――お前たちも、いつかは……』と囁いていた黒い影たちは、断末魔の悲鳴すら上げる間もなく、霧散するように消え去っていく。


「ふう……どうにか片付いたか」

ライルは愛用の剣を納め、荒い息を整えながら額の汗を拭った。周囲を覆っていた重苦しいプレッシャーも、嘘のように軽くなっている。

しかし、セレスティアは気を緩めることなく、杖を構えたまま広場の中央をじっと見据えていた。


「まだ終わっていないわ、ライル」

「なに……?」

「あれを見て」


セレスティアが指し示した先――かつて皇帝の玉座があったであろう崩壊した高台の空間が、ガラス細工が割れるようにバリバリと音を立てて亀裂を生じていた。

そこから漏れ出しているのは、黒い光でも、不気味な呪いの煙でもない。それは、どこか冷たく、そして切ないほどに澄んだ、青白く透き通るような光の奔流だった。


「これは……魔力じゃないな。まるで、誰かの『記憶』そのものが溢れ出しているみたいだ」

ライルが眉をひそめながら、慎重に一歩近づいた。


次の瞬間、空間の亀裂が一気に広がり、セレスティアとライルの周囲の景色が音を立てて変貌していった。

荒れ果てた廃墟の景色がスーッと薄れ、代わりに目の前に広がったのは、かつてこの世界がまだ「美しかった頃」の、見覚えのない壮麗な王城の一室だった。


「……ここは……?」

セレスティアが息を呑む。

そこには、一人の若い騎士が描かれていた。ボロボロの鎧ではなく、誇り高き純白の制服を身にまとった、若き日の青年の姿。

しかし、その青年の表情は絶望に歪んでいた。彼の目の前には、当時の為生者たち――自分たちの保身のために彼を「生贄の勇者」として祭壇へ突き落とそうと冷酷な笑みを浮かべる王族や貴族たちの姿があった。


『――世界を救うためだ。お前の命など、この国のために比べれば安いものだろう?』

『そうだ、お前は選ばれたのだから、となりに従っていればいい』


耳を塞ぎたくなるような身勝手な言葉の数々。

青年は誰にも助けられず、裏切られ、利用され、そして心のすべてを破壊された。その果てに彼は「最初の偽勇者」となり、すべてを呪う厄災へと変貌したのだ。


幻影の中の青年は、血を流しながら、しかしどこか諦観したような冷たい瞳でこう呟いた。

『――ならば、すべてを終わらせよう。誰もが誰かを踏み台にするこの世界など、最初から存在しない方がいい』


それが、あの日の真実だった。

彼は最初から怪物だったわけではない。人間たちの醜いエゴと裏切りが、彼を怪物へと仕立て上げたのだ。


「……これが、彼の……最初の偽勇者の記憶……」

セレスティアの胸が締め付けられるように痛んだ。彼女自身もまた、ダマシテ王国に裏切られ、生贄として祭壇に縛り付けられた経験があるからこそ、その絶望の痛みが痛いほどに理解できた。


幻影の青年は、ゆっくりとセレスティアの方を振り返った。

顔の表情までは見えない。だが、その瞳だけは、なぜか真っ直ぐにセレスティアを見据えていた。


『――お前は、どうする?』

幻影の声が、頭の中に直接響いてきた。

『お前もまた、いつかはこの世界に裏切られ、誰かを犠牲にしなければ生き残れない修羅の道を歩むことになる。それでもなお、その手を差し伸べ続けるというのか?』


それは、世界そのものがセレスティアに突きつけた、最後の問いかけだった。

人間の本質はエゴなのか。どれほど平和を築こうとも、危機が訪れれば人は再び他者を売り払い、身を守るのか。


セレスティアはわずかに息を止め、自分の両手をそっと見つめた。

かつて、その手は恐怖に震え、絶望に染まっていた。けれど今は、村の仲間たちと畑を耕し、ルリエルと温かいパンを分け合った確かな温もりが残っている。


「……迷わないわ」

セレスティアは顔を上げ、幻影の青年に対してはっきりと、力強く告げた。


「確かに、人間は弱くて、愚かで、ときには自分の保身のために誰かを傷つけてしまう生き物かもしれない。あのとき、私もあなたと同じようにすべてを憎み、世界なんて滅びればいいと思ったわ」


彼女の瞳には、一筋の迷いもなかった。


「でもね……私は知っているの。絶望の果てにすべてが壊れたあとに、ゼロからでも手を取り合い、もう一度優しさを紡ぎ直すことができるってことを。あの人がすべてを焼き尽くしてくれたからこそ、私たちは今の温かな日常を手に入れられた。だから……私は、二度と誰かを犠牲にする世界には戻さない」


セレスティアの強い言葉を聞いた瞬間、幻影の青年の姿がふわりと柔らかい光に包まれた。

その背中に纏われていたドス黒い呪いの鎖が音を立てて砕け散り、青年はどこか穏やかな、救われたような横顔を見せたかと思うと、温かい春風に溶けるように、スッと消えていった。


――ガチャン、と。


幻影が消え去った高台の中央に、一冊の古い古文書のようなものが音を立てて落ちた。

すべての試練を越えたセレスティアとライルは、その場に歩み寄り、静かにそれを拾い上げるのだった。

シーズン3・第4話をお読みいただき、ありがとうございます!


すべての因果の起点となった「最初の偽勇者」の切なすぎる過去の記憶と、セレスティアが下した強い決意を描かせていただきました。

高台に残された古文書には何が書かれているのか……物語はいよいよクライマックスの核心へと向かいます!


それでは、第5話でお会いしましょう!

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