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生贄を出すのが嫌で隣国を裏切ったら、世界が終わるまでのカウントダウンが始まった  作者: 凪塩 未来


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シーズン3・第5話:古文書の記す真実と、新たな選択

シーズン3・第5話をお読みいただき、ありがとうございます!


「最初の偽勇者」の記憶を越え、高台に残された古文書を手に入れたセレスティアとライル。

そこに記されていた、世界を繋ぐ驚愕の真実とは……?物語が大きく動き出す第5話をお楽しみください!

崩壊した高台の中央、青白く澄んだ光が収まったあとに残されていたのは、一冊の古びた古文書だった。

表紙はなく、上質な羊皮紙が何枚も重ねられただけの簡素なものだが、その表面には不思議な魔力の微光が宿っており、何百年もの時が流れているにもかかわらず、文字は驚くほど鮮明に保たれていた。


「お嬢、それ……さっきの青年が残していった代物か?」

ライルが警戒を怠らない姿勢のまま、セレスティアの手元を覗き込んだ。

「ええ……おそらくね」


セレスティアはゆっくりと古文書の表紙を開き、最初のページに記された文字を目で追った。そこには、かつてこの世界を救うために召喚されながらも、裏切りによって絶望の底に突き落とされた青年――最初の偽勇者の手による直筆の記録が綴られていた。


『――もし、この記録を読む者がいるならば、それはきっとかつての私と同じように、誰かのエゴによってすべてを奪われた者だろう』


静かな、しかし重みのある文字が、セレスティアの脳内に直接語りかけてくるようだった。


『人間は愚かだ。危機が訪れれば自らの保身を優先し、愛する者すら生贄として差し出す。私が味わった絶望も、そしてこの世界が幾度となく繰り返してきた破滅の歴史も、すべてはその救い難いエゴの連鎖から生まれた』


ページをめくるごとに、当時の凄まじい苦悩と、世界に対する底知れない呪詛の言葉が並んでいた。

しかし、中盤から後半にかけて、その筆跡は徐々に変化していき、どこか穏やかな、そして未来へ向けた切実な願いへと変わっていった。


『だが、私は気づいた。すべてを焼き尽くし、世界をゼロにリセットしただけでは、根本的な解決にはならない。人間が生き続ける限り、また同じ愚行が繰り返される。だからこそ、私は最後に一つの『楔(くさび)』を残す』


「楔……?」

ライルが低く呟いた。セレスティアもうなずきながら、さらにページをめくった。


『――それは、過去の絶望を乗り越え、他者の犠牲ではなく『分かち合い』によって世界を再構築する意志を持つ者への試練であり、ギフトだ。もし、その者が私の記憶を越え、この古文書にたどり着いたとき、世界を本当の意味で安定させるための真の選択肢が与えられる』


そこに記されていたのは、単なる呪いや破壊の術ではない。

人間の心の奥底にあるエゴの澱みを浄化し、二度と身勝手な生贄の儀式を生み出さないための、世界の理を書き換える「禁断の呪文」だった。

しかし、その呪文を発動するためには、一つの重大な代償が必要であることも記されていた。


『――この呪文を紡ぐ者は、かつて世界を巡ったすべての因果の重みを受け止め、自らの魂を世界の基盤として同化させなければならない』


――つまり、この世界の歪みを完全に正すためには、誰か一人が再び「世界の礎」とならなければならないということだった。


「なっ……なんだと……!?」

ライルが顔色を変え、ガッと声を荒げた。

「ふざけた話だ……! 結局、また誰かを犠牲にするってことじゃねえか! それじゃあ、あのとき私たちが選んだ決意や、あの村で築いてきた平和の意味はどうなるんだよ!」


ライルの言う通りだった。

誰かの犠牲によって世界を保つという構造を否定するために戦ってきたはずなのに、最後の最後にまた「誰かの自己犠牲」を要求される。それは、これまでの戦いの全否定であり、最も残酷な矛盾だった。


しかし、セレスティアは古文書の最後のページに目を落とした瞬間、ふっと小さく首を横に振った。

「ううん、違うわ、ライル」

「なにが違うんだ、お嬢!」

「よく読んで。ここには、『誰かを犠牲にする』とは書いていないわ」


セレスティアが指し示した行には、こう記されていた。


『――ただし、その代償は一人の人間が背負う必要はない。互いを信じ、支え合う無数の人々の『絆の力』が揃うならば、負荷は分散され、誰も犠牲にすることなく理を書き換えることが可能となる』


その言葉を見た瞬間、セレスティアの胸のつかえがスッと消え去った。

一人で背負う必要はない。オルテア村で共に汗を流れし、手を取り合ってきた仲間たちの絆があれば、誰も犠牲にすることなく、この世界の最後の歪みを乗り越えることができる。


「私たちは、もう一人じゃないわ」

セレスティアは顔を上げ、強い光を宿した瞳でライルを見つめた。

「あの村にいるみんなと、そしてここまで一緒に歩いてきたあなたがいれば、この試練を必ず乗り越えられる」


ライルはしばらく目を見開いていたが、やがてふっと力を抜き、いつもの頼もしい笑みを浮かべた。

「……まったく、どこまでもお人好しなお姫様だぜ。だがまあ、それがお前らしさってやつか」


古文書の光が眩しく輝き、二人の体温を温かく包み込む。

すべての真実を知ったセレスティアたちは、すべての因果に真の決着をつけるため、オルテア村への帰路、そして最後の決戦の地へと歩みを進めるのだった。

シーズン3・第5話をお読みいただき、ありがとうございます!


古文書に記された「真の選択肢」と、誰も犠牲にしないための可能性にたどり着いたセレスティアたちを描かせていただきました。

いよいよ物語は終幕へ向けて大きく動き出します!


それでは、第6話でお会いしましょう!

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