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生贄を出すのが嫌で隣国を裏切ったら、世界が終わるまでのカウントダウンが始まった  作者: 凪塩 未来


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シーズン2外伝・第1話:終わった世界の片隅で、小さな芽が息吹く

外伝・第1話をお読みいただき、ありがとうございます!


「澱みの王」との決戦が終わり、新たな世界が歩み出し始めた頃。

本編では語られなかった裏側で、それぞれの場所で新しい一歩を踏み出そうとする人々の姿を描く外伝シリーズのスタートです。

本編とはひと味違う、穏やかな再生の物語をお楽しみください。

すべての因果の連鎖が断ち切れ、旧・王都の空を覆っていたドス黒い澱みが消え去ってから、いくつかの季節が巡った。

かつてアンデッド軍団の脅威に怯え、身勝手なエゴで他国を売り払い、あるいは自らも生贄の恐怖に震えていた世界は、驚くほど静かで穏やかな朝を迎えていた。


かつてダマシテ王国の領土であった荒涼とした大地には、少しずつ緑が戻り始めていた。

荒れ果てた街道の脇に立つ小さな村『オルテア』。そこは、かつて王都の権力者たちに見捨てられ、細々と暮らすしかなかった名もなき村だったが、今では遠方から移り住んできた人々の活気が少しずつ戻りつつあった。


「おーい、こっちの荷ほどきを手伝ってくれ!」

「はい、今行きます!」


村の広場では、新しく建てられた木造の家屋の周りで、村人たちが汗を流しながら作業をしている。その中心でひときわ元気な声を上げていたのは、かつて過酷な運命に翻弄されていた少女――ルリエルだった。

以前の彼女の瞳には、怯えと絶望しかなかった。しかし今の彼女の顔には、太陽のような明るい笑みが浮かび、軽やかな足取りで村の人々へ水やりの樽を配って回っている。


少し離れた木陰のベンチから、その様子を温かい目で見守っている人物がいた。

セレスティア・ミステだった。

銀の髪を風になびかせ、落ち着いた旅装束に身を包んだ彼女の傍らには、愛用の杖が静かに立てかけられている。あの激しい決戦からしばらく経ち、彼女たちはこのオルテア村に身を寄せ、村の再建や子どもたちの手ほどきをする手伝いをしていた。


「おい、お嬢。相変わらず子どもたちの人気者だな、あいつは」

コツコツと足音を響かせながら近づいてきたのは、肩に大きな木材を担いだライルだった。彼は豪快に汗を拭うと、セレスティアの隣にどっかりと腰を下ろした。

「俺たちがここに腰を据えてから、もう何度目の朝だっけか。すっかりのどかになりすぎて、たまに剣の握り方を忘れそうになるぜ」


「忘れているくらいがちょうどいいわ、ライル」

セレスティアは柔らかな笑みを浮かべ、ライルに冷えた水の入った木製のカップを差し出した。

「私たちはもう、誰かを守るために血を流したり、誰かの犠牲の上に生き延びたりする必要はないのだから」


「まったくだな」

ライルはカップを受け取り、一気に喉へ流し込むと、心地よさそうに息を吐いた。

「昔の王族や貴族どもが見たらひっくり返るだろうよ。『他人の犠牲なしに生き残る世界なんて成り立たない』とか何とか言って、自分たちだけ安全圏に逃げ回ってた連中にな。……まあ、その結果があのざまっだったわけだが」


ライルの言葉に、セレスティアは小さく頷いた。

人間の歴史は、いつだって「誰かを犠牲にするエゴ」の繰り返しだった。ダマシテ王国がミステ王国を裏切り、帝国が小国から生贄を奪い、そして最後にはそのすべての澱みが「澱みの王」という怪物となって世界を滅ぼそうとした。

あのとき、もし自分たちが妥協し、誰かを犠牲にする道を選んでいたら――今、この穏やかな朝を迎えることは絶対にできなかっただろう。


「私たちは、あのとき正しい選択をしたのよ」

セレスティアは遠くでルリエルが村の子どもたちと笑い合う姿に視線を戻し、静かに呟いた。

「誰かの犠牲の上に成り立つ平和なんて、本当の平和じゃない。たとえ不器用で、時間がかかったとしても、自分たちの足で歩み、手を取り合うこと――それだけが、あの終わりの世界から私たちが得た唯一の答えだわ」


その時、村の入口の方から、パカパカと軽快な馬のひづめの音が聞こえてきた。

視線を向けると、遠くの街道から一頭の旅慣れた馬車がゆっくりとこちらに向かって近づいてきている。その御者台に座っているのは、この近くの街へと物資の買い出しに行っていた村の青年だった。


「おーい! 街からの届け物だよ!」

青年が遠くから手を振りながら声を上げる。

それに気づいたルリエルが「わあ、届いたんだ!」と満面の笑みで飛び跳ね、駆け寄っていく。


セレスティアは立ち上がり、杖を手に取った。

「さあ、ライル。買い出しの荷物、手伝いに行きましょうか。今日の夕暮れは、村のみんなで新しい畑の収穫祭をする約束なんだから」


「おう、任せな!」

ライルはニカッと笑い、立ち上がるとセレスティアの背後に続いた。


かつて終わりの淵に立たされた世界は今、誰に強いられることもなく、自分たちの力で新しい明日に向かって歩み出している。

それはかつての偽勇者が残していった絶望の果てに、ようやく芽吹いた、かけがえのない再生の物語だった。

外伝・第1話をお読みいただき、ありがとうございます!


本編の戦いが終わり、セレスティアたちがオルテア村で穏やかな日常を取り戻しつつある姿を描かせていただきました。

誰も犠牲にしない世界で、人々がどう生きていくのかを全5話の外伝として丁寧に綴っていきます。


それでは、外伝・第2話でお会いしましょう!

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