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生贄を出すのが嫌で隣国を裏切ったら、世界が終わるまでのカウントダウンが始まった  作者: 凪塩 未来


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シーズン2・第4話:朽ち果てた遺跡と、歴史の残滓

シーズン2・第4話をお読みいただき、ありがとうございます!


旧・王都の跡地へ向かう道中、セレスティア一行は古い時代の名残をとどめる朽ち果てた遺跡に足を踏み入れます。

そこで明かされる「澱みの王」の不気味な正体と、人間が抱え続ける業の深さを描いた第4話をお楽しみください。

名前のない村を出発したセレスティアたちの馬車は、荒野を抜け、かつてダマシテ王国の領土であった地域へと差し掛かっていた。

空を覆う紫色の雲は日に日に濃さを増し、周囲の気温もどこか肌寒く感じられるほどに下がっている。大気の澱みは、人々の足元からじわじわと体温を奪っていくようだった。


「おい、見てくれよ。この辺りの景色、すっかり様変わりしちまったな」

御者台から周囲を見回しながら、ライルが苦い顔で呟いた。

かつては広大な農地が広がり、人々の往来が絶えなかった街道は、今や雑草に覆われ、崩れた石碑や打ち捨てられた魔導具の残骸が転がるだけの寂れた廃墟と化していた。古の王国が滅び去った爪痕は、大地に深く刻まれたまま残っている。


馬車の中では、ルリエルが窓の外をじっと見つめていた。

「……ねえ、お姉ちゃん。なんだか、空気がすごく重たいよ。胸のあたりがキュッて締め付けられるみたい」


セレスティアはルリエルの隣に座り、その小さな背中を優しくさすった。

「そうね。この先の地下には、かつて人間が自分たちの保身のために犯した罪の数々や、捨て去られた負の感情が眠っているわ。その澱みが、今また目を覚まそうとしているから……敏感な子なら、気配を感じ取ってしまうのね」


その時、馬車のスピードがガクンと落ちた。

「おおい、みんな、ちょっと止まるぞ」

ライルが手綱を引いて馬車を止め、前方を指差した。

「道の真ん中に、でかい石の建造物が塞いでやがる。……おい、これって確か……」


馬車の前方にそびえていたのは、かつてダマシテ王国が王族の秘密の記録や禁忌の魔術を保管していたという、地下へ続く古い石造りの神殿跡だった。長い年月と先の崩壊によって入り口付近は半ば崩れていたが、そこからは紛れもなく、あの不気味な紫色の澱みがドロドロと漏れ出していた。


「ここ……」

セレスティアは馬車から降り、崩れた石の階段を見据えた。

「旧・王都へ行く前に、一度この中に立ち寄るべきだわ。澱みの王が完全に力を取り戻す前に、何が起きているのかを知る必要がある」


松明の微かな光を頼りに、セレスティア、ルリエル、そしてライルの三人は、ひんやりとした地下神殿の奥へと足を踏み入れた。

壁面には、かつての王族や為政者たちがどれほど自分たちの権力を誇示し、他国をあざむいて生き延びようとしたかを描いた古いレリーフがいくつも刻まれている。しかし、そのどれもが時の流れと先の厄災によってひび割れ、煤けていた。


「相変わらず、ろくでもない歴史のオンパレードだな」

ライルが壁の文字をチラリと一瞥し、吐き捨てるように言った。

「自分たちが生き残るためなら、隣国を売り飛ばすことも、無実の者をいけすに放り込むことも何とも思わない。……人間ってのは、何度痛い目を見ても懲りない生き物なのかね」


「そうかもしれないわね」

セレスティアは足を止め、地下神殿の最奥にある巨大な円形の広間にたどり着いた。

その中央には、黒く濁った水が溜まった巨大な祭壇があり、そこからボコボコと泡を立てるように紫色の魔力が噴き出していた。


その魔力の中心から、低い、耳障りな声が響いてきた。


――ククク……よくぞ来た、ミステの小娘よ……


「っ……!」

ルリエルが思わずセレスティアの背後に隠れ、小さく身を震わせた。

水たまりの澱みの中から、ぼんやりとした黒い影がむくりと起き上がり、人間の姿を模した歪な形へと変わっていく。それは特定の誰かではない、かつてこの世界で散っていった為政者たちの「エゴの集合体」――『澱みの王』そのものだった。


――お前がすべてをリセットしたおかげで、一時は消えかけた。だが、人間が生きている限り、我々の欲望が完全に枯れ果てることはない。楽をしたい、他者を踏み台にしてでも自分が得をしたい……その小さな油断こそが、我々を再び蘇らせる最高の栄養なのだ……!


澱みの王の言葉に、セレスティアは少しも動じなかった。

彼女は静かに冷たい目を向け、毅然とした声で言い放った。


「確かに、人間の心から欲望や弱さが完全に消えることはないかもしれないわ。でもね」

セレスティアは一歩前に進み、愛用の杖をしっかりと地面に突き立てた。

「だからこそ、私たちはあのとき学んだのよ。自分たちのエゴに目がくらんだとき、どんなに恐ろしいしっぺ返しが来るのかをね」


ライルがニヤリと笑い、剣を抜いた。

「そういうことだ、化け物さんよ。お前たちが何度蘇ろうと、俺たちが何度でも叩き潰してやるさ!」


崩れかけた地下神殿のなか、すべての澱みを断ち切るための激突が、いま始まろうとしていた。

シーズン2・第4話をお読みいただき、ありがとうございます!


旧・王都へ向かう道中で古の地下神殿に立ち寄り、「澱みの王」の正体と対峙する緊迫の展開を描かせていただきました。

人間の心の闇から生まれる業に、セレスティアたちがどう立ち向かうのか――。


それでは、第5話でお会いしましょう!

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