シーズン2・第3話:出発の決意と、託された想い
シーズン2・第3話をお読みいただき、ありがとうございます!
人々の心に芽生えた「我欲」という小さな澱みが、世界を再び蝕み始める中、セレスティアはいよいよ新たな旅立ちを決意します。
かつての過ちを繰り返さないため、彼女たちが選ぶ次の一歩を描いた第3話をお楽しみください。
「名前のない村」の夜は、いつもなら心地よい虫の音と、焚き火のパチパチとはぜる音に包まれていた。しかし、最近はその静けさがどこか重く、張り詰めたものに変わりつつあった。
南の空を覆う紫色の雲は、日々その濃度を増し、村の周辺にまでうっすらとした澱みの気配を漂わせ始めている。
村の中央広場に設けられた集会所では、遅い時間にもかかわらず、主要なメンバーが集まって険しい表情で議論を交わしていた。
「……間違いないわ」
テーブルの中央に広げられた大陸の地図を指差しながら、セレスティアは静かに、しかし力強い声で言った。
「あの紫色の雲の中心地は、かつてダマシテ王国があり、そして私たちがすべてを失ったあの『旧・王都』の地下に間違いないわ。古い世界が滅びたときの負の感情や、為政者たちの残骸が、今再び『澱みの王』として形を成そうとしている」
旅人崩れのライルは腕を組み、苦い顔をしながら頭をかいた。
「厄介だな……。モンスターの群れなら剣でぶった斬って終わりだが、今回の相手は『人間の心の闇』から滲み出た厄介代物だろ? 一体どうやって戦えばいいってんだ」
「戦うだけが全てじゃないわ、ライル」
セレスティアは首を横に振った。
「今回の異変の根本にあるのは、人々が『再び自分だけが得をしたい』『他者を蹴落としても生き残りたい』というエゴに囚われ始めていることよ。その心の隙間を突かれて、澱みが力を増している。だから、私たちがやるべきなのは、その元凶を断つことと……もう一度、人々に『あの滅びの記憶』を思い出させることよ」
その言葉に、部屋にいた全員が息を呑んだ。
古い世界がどのように滅び、どれほどの血と絶望の果てに現在の平和が訪れたのか。それを知る者たちは、あの地獄を二度と繰り返したくないと心から願っていた。だからこそ、今ここで芽生え始めた小さな我欲の芽を、自分たちの手で摘み取らなければならない。
「お姉ちゃん……」
部屋の隅の椅子に座っていたルリエルが、不安そうな表情でセレスティアを見つめた。
セレスティアはルリエルのもとへ歩み寄り、その小さな両手を優しく包み込んだ。
「ルリエル。お姉ちゃん、ちょっと村を離れて、古い王都の跡地へ行ってくるわ」
「……私も、一緒に行く!」
ルリエルは首を大きく横に振った。その瞳には、幼い頃のような怯えではなく、強い決意の色が宿っていた。
「お姉ちゃんを一人になんてしない。それに、私ももう子供じゃないもの。みんなと一緒に、この世界を守りたいの!」
ルリエルのまっすぐな目を見つめ、セレスティアは少しだけ驚いたあと、やがて愛おしそうにふわりと微笑んだ。
「……そうね。あなたはいつの間にか、すごく頼もしくなったわね」
セレスティアはルリエルをそっと抱きしめ、それから顔を上げて一同を見渡した。
「よし、決まりね。明日の朝、最小限の仲間を引き連れて、『名前のない村』を出発するわ。目的地は旧・王都の地下――すべての因果が始まった場所よ」
翌日の早朝。
村の出口には、旅支度を整えたセレスティア、ルリエル、そしてライルの姿があった。
見送りに集まった村の住民たちは、心配そうな顔をしながらも、それぞれに餞別や食料を手渡してくれた。
「セレスティアさん、無理はしないでくださいよ。みんな、あなたたちが戻ってくるのをここで待ってますから」
「ああ、あの忌々しい雲をっちょいと吹き飛ばして、また美味しい酒を飲み交そうぜ!」
住民たちの温かい声援を受け、セレスティアは深くうなずいた。
「ええ、必ず戻ってくるわ。私たちのこの大切な日常を、誰にも渡したりはしない」
馬車に乗り込み、手綱を握ったライルが前方を睨み据える。
「それじゃあ、出発するか。行き先は最悪の墓場だが、最高の景色に変えてやろうぜ」
ガタゴトと車輪が音を立て、馬車は名前のない村をあとにして、紫色の雲が渦巻く大陸の中央へ向けて走り出した。
かつての欺瞞とエゴがすべてを焼き尽くされたその場所で、今度は人間自身の心の闇を断ち切るための、新たな戦いの幕が上がろうとしていた。
シーズン2・第3話をお読みいただき、ありがとうございます!
セレスティアが村を出発し、かつての旧・王都の跡地へ向けて動き出す決意の第3話を描かせていただきました。
ルリエルも共に同行し、仲間たちとの絆を胸に新たな戦いへ挑む展開となります。
それでは、第4話でお会いしましょう!




