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生贄を出すのが嫌で隣国を裏切ったら、世界が終わるまでのカウントダウンが始まった  作者: 凪塩 未来


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シーズン2・第2話:蘇る澱み、芽生える我欲

シーズン2・第2話をお読みいただき、ありがとうございます!


南の空に現れた不気味な紫色の雲、そして「澱みの王」の復活の予兆。

平和に慣れ始めた新世界の人々の心に、再び小さな「我欲」の影が忍び寄り始める第2話をお楽しみください。

南の空を覆い始めた不気味な紫色の雲は、数日のうちに大陸全体へとじわじわと広がりを見せていた。

それはかつてのアンデッド軍団のように目に見えて押し寄せる軍勢ではなく、空気そのものをじっとりと湿らせ、人々の思考の隅に「自分さえよければいい」という黒い感情を忍び込ませるような、おぞましい気配をまとっていた。


「名前のない村」から馬で半日ほど離れた場所に、新しく作られた『オアシス都市・ニューエデン』があった。

そこは、旧世界の崩壊後に生き残った商工業者たちが集まり、「二度と国や権力に縛られない、完全な自由貿易の街」として急速に発展を遂げていた場所だった。白亜の壁と美しい噴水広場を持つその街は、かつての平和の象徴のようにも見えた。


しかし、その華やかな街の裏側で、すでに小さな「歪み」が音を立てて始まっていた。


「おい、待てよ! この小麦の買い取り価格、昨日はもっと高かったはずだぞ!」

市場の一角で、地方からやってきた初老の農夫が、若い商人につかみかからんばかりの勢いで声を荒げていた。

商人は冷ややかな笑みを浮かべ、手元の帳簿をパタンと閉じた。


「おじいさん、世間知らずも大概にしてくれよ。昨日は昨日、今日は今日だ。最近、北の方から怪しい雲が流れてきて流通が不安定になってるんだ。これでも高く買ってやってる方だぜ?」

「そんな……これじゃあ次の種も買えないじゃないか! 約束が違う!」

「文句があるなら他を当たれよ。お前の作った小麦なんて、いくらでもあるんだからさ」


周囲の野次馬たちは、その様子を冷たい目で眺めるだけで、誰も助けに入ろうとはしなかった。

「自分さえ損をしなければいい」「他人の不幸より、自分の利益が大事だ」。かつての世界が滅び、あんなにも「助け合うことの尊さ」を分かち合ったはずの人々の心に、いつの間にか「我欲」という名の澱みが染み込んでいたのだ。


そして、その人間の心の隙間こそが、『澱みの王』がもっとも好む養分だった。


その頃、「名前のない村」の広場では、セレスティアが村の住民たちを集めて緊急の話し合いを開いていた。


テーブルの上には、旅人たちが持ち帰ってきた「最近の不穏な噂」をまとめたメモが置かれている。

「……というわけで、東のニューエデンや、その周辺の新しい集落でも、最近になって人々がギクシャクし始めているそうなの」

セレスティアの落ち着いた、しかし真剣な声が、集まった人々の顔を順番に捉えた。


旅人崩れのライルが腕を組み、険しい顔でうなずいた。

「ああ。俺も昨日、隣町の市場まで行って様子を見てきたんだが……空気がどこかギスギスしてた。みんな、昔の嫌な部分――『自分だけが得をしたい』って目をし始めてやがったよ。まるで、かつてのダマシテ王国や帝国が持っていた醜いエゴが、またこの世界に蔓延し始めているみたいにな」


その言葉に、周囲の住民たちも不安そうなざわめきを上げた。

ルリエルはセレスティアの服の裾をギュッと握りしめ、怯えたような目を向けた。

「お姉ちゃん……。せっかくみんなで仲良く暮らせるようになったのに、また昔の怖い世界に戻っちゃうの……?」


セレスティアはしゃがみ込み、ルリエルの小さな手を優しく包み込んで微笑んだ。

「大丈夫よ、ルリエル。私たちはもう、あの頃みたいにただ怯えているだけの子供じゃないわ」


立ち上がったセレスティアの瞳には、かつての王女としての気高さと、すべての過酷な運命をくぐり抜けてきた強い意志が宿っていた。

「人間が生きている限り、欲望や弱さが完全に消えることはないのかもしれない。でも、だからといって、あのとき私たちが壊したはずの『犠牲と欺瞞の世界』に、もう一度戻るわけにはいかないのよ」


ライルがニヤリと不敵な笑みを浮かべ、腰に差した剣の柄に手をかけた。

「言うじゃねえか、セレスティア。で、どうするんだ? またあの時みたいに、元凶を叩きのめしに行くのか?」


「ええ」

セレスティアははっきりと頷いた。

「紫色の雲が広がり、人々の心が澱み始めている中心地――おそらく、大陸の中央にある『旧・王都の跡地』に、すべての原因があるわ。そこへ行って、新しい世界の芽を摘もうとしている者たちの企みを断ち切るのよ」


かつての古い世界は「偽勇者」の圧倒的な暴力によってリセットされた。

だが、今度新しく生まれた世界に迫っているのは、怪物の襲撃ではなく「人間自身の心の闇」から染み出す澱みだった。それをどう防ぎ、どう向き合うのか。セレスティアたちの新しい戦いが、静かに、しかし確かな足取りで始まろうとしていた。

シーズン2・第2話をお読みいただき、ありがとうございます!


新世界のあちこちで芽生え始める人々の我欲と、それを養分にする「澱みの王」の気配を描かせていただきました。

怪物の脅威ではなく、人間の心の闇という厄介な敵にセレスティアたちがどう立ち向かうのか、ここから物語は本格的に動き出します!


それでは、第3話でお会いしましょう!

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