外伝第5話(最終話):幾星霜の果てに、穏やかな風は吹く
外伝第5話(最終話)をお読みいただき、ありがとうございます!
名前のない小さな村で、それぞれの明日を歩み始めた人々。
セレスティアとルリエル、そしてかつて世界を滅ぼした「偽勇者」の記憶が、新しい世界の中でどう息づいていくのか。
物語の本当のエンディングとなる最終話をお楽しみください。
あれから、どれくらいの季節が流れただろうか。
かつて荒れ果てていた土地はすっかり豊かな緑に覆われ、セレスティアたちの暮らす名前のない村は、大小さまざまな木製の家々が並ぶ活気ある場所へと成長していた。
もはや「国」という枠組みも、「王族」という特権階級も存在しない。
人々は皆ひとりの人間として肩を並べ、畑を耕し、パンを焼き、子供たちの笑い声を響かせながら日々を暮らしている。誰かが誰かを欺き、生贄を差し出してまで自分だけが生き残ろうとする醜いエゴは、この世界のどこにも見当たらなかった。
その日の午後、セレスティアは村の外れにある小高い丘の上に立っていた。
緩やかな風が、彼女の銀の長髪と、少し大人びた少女の衣服を優しく揺らしている。
「お姉ちゃん、そろそろ夕方だよ。みんなが広場で待ち構えてるよ!」
少し離れたところから、弾んだ声が飛んできた。
振り返ると、そこにはすっかり頼もしく成長したルリエルが、満面の笑みで手を振っていた。彼女の後ろには、ライルをはじめとする村の面々が、大皿いっぱいの料理を持って楽しそうに集まっている。
今日は、この村ができてからちょうど節目の年にあたる日だった。
誰が言い出すでもなく、「みんなで美味しいご飯を持ち寄って、お祝いをしよう」と自然に決まったお祭りだった。
「ええ、今行くわ」
セレスティアは柔らかく微笑み、もう一度だけ、遠くの地平線へと視線を走らせた。
空はどこまでも高く、どこまでも青い。
かつて、この世界を絶望の淵に突き落とし、そしてすべての偽りと腐敗を焼き尽くしていった漆黒の影――最初の偽勇者の姿は、もうどこにもない。
彼はすべてを終わらせたあと、まるで最初から存在しなかったかのように、風のように消えていった。
あのとき、彼の選んだ手段はあまりにも残酷で、多くのものを無に帰すものだった。
ダマシテ王国の身勝手な裏切りも、帝国の傲慢も、聖教会の欺瞞も、すべてが容赦なく踏み潰され、灰燼に帰した。
けれど――もしあの厄災が訪れなければ、この世界は永遠に「誰かを犠牲にする痛み」の連鎖から抜け出すことができなかっただろう。
為政者たちはエゴを隠して弱者を搾取し続け、人々は怯えながら生きるしかなかった。その腐り切った根元を断ち切ってくれたからこそ、今のこのまっさらな世界と、温かな日常が存在している。
「ねえ、何を見ているの?」
ルリエルがトコトコと駆け寄ってきて、セレスティアの手をぎゅっと握った。その瞳は、曇りのない希望の光に満ちていた。
「ううん、少しね……この空が、とても綺麗だなって思って」
「うん! すっごく綺麗だよ! さあ、みんなのところに行こ、お腹ペコペコだよ!」
ルリエルに手を引かれ、セレスティアはゆっくりと丘を降り始めた。
村の広場に足を踏み入れると、一斉に歓声と拍手が沸き起こった。
「やあ、セレスティア! 主役が遅いぞ!」
「さあ、焼き立てのパンと、みんなで作ったシチューが冷めちまう前に座ってくれ!」
ライルが豪快に笑いながら席を勧めてくれる。その傍らでは子供たちが走り回り、お年寄りたちが楽しそうにグラスを合わせている。
誰が上で、誰が下かなんて関係ない。
誰もが自分の足で立ち、自分の手で明日を掴み取り、互いを尊重しながら生きている。
セレスティアは温かいシチューの湯気と、人々の笑い声に包まれながら、ふと胸の奥で静かに呟いた。
――私たちは、もう二度と誰にも騙されない。誰かの犠牲の上に胡坐をかいたりしない。
――あなたが見せてくれた終わりの果てで、私たちは今、最高に誇らしく、美しい明日を生きているわ。
夜のとばりが下り、村のあちこちに灯された温かなランプの光が、満天の星空の下で一つ、また一つと柔らかくまたたき始めた。
身勝手なエゴが滅ぼした世界の跡地に咲いた、小さくも決して枯れることのない絆の花が、新しい未来の始まりを優しく祝福していたのだった。
(『生贄を出すのが嫌で隣国を裏切ったら、世界が終わるまでのカウントダウンが始まった』・外伝 完)
外伝第5話(最終話)をお読みいただき、本当にありがとうございました!
本編から続くすべてのエピソードが結実し、セレスティアとルリエル、そして新しい世界に生きる人々がそれぞれの未来へと歩み出す姿を描かせていただきました。
ダークで絶望的な始まりから始まったこの物語が、読者の皆様の心に残る温かな読後感となっていれば幸いです。
長きにわたり、本編および外伝の執筆にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
また別の作品やアイデアでお会いできる日を楽しみにしております。




