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生贄を出すのが嫌で隣国を裏切ったら、世界が終わるまでのカウントダウンが始まった  作者: 凪塩 未来


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外伝第4話:新しい名前のない村で

外伝第4話をお読みいただき、ありがとうございます!


ポツポツと集まってきた旅人や生存者たちが、ついに一つの「村」としての形を整え始める第4話。

過去の身分や肩書をすべて脱ぎ捨てた人々が、助け合いながら未来を切り開く姿をお楽しみください。

季節が巡り、セレスティアたちの木の家の周りは、いつの間にか活気ある小さな集落へと姿を変えていた。

元農夫、元職人、身寄りのない子供たち、そしてかつて大きな街から逃れてきた旅人たち――。身分も過去も関係なく、ここに流れ着いた人々が、お互いに声を掛け合いながらそれぞれの家を建て、畑を広げ、一つのコミュニティを作り上げていた。


驚くべきことに、そこにはかつての世界に不可欠だった「王様」も「法律」も「教会」も存在しなかった。

誰かが誰かを支配し、税を絞り取るような仕組みはない。困ったときは話し合い、協力し、分け合う。それだけのシンプルな繋がりだけで、この新しい村は驚くほど平和に回っていた。


「セレスティア姉ちゃん、こっちの畑のトマト、すごく赤く実ったよ!」

麦わら帽を被ったルリエルが、両手いっぱいに真っ赤なトマトを抱えて走ってきた。その後ろからは、村の子供たちも楽しそうにはしゃぎながら追いかけてくる。


セレスティアは手を休め、温かい笑顔を向けた。

「本当ね、すごく立派に育ってる。みんなで一生懸命お世話したからだわ」

「うん! みんなで食べるの、楽しみだな!」


かつて、ミステ王国の王女として贅沢な暮らしを送りながらも、常に国の行く末や冷酷な政治のしがらみに怯えていたセレスティアにとって、土の匂いを感じながら子供たちと笑い合う今の生活は、かつて夢にも見なかったほど満ち足りたものだった。


夕方になると、村の中央にある広場に大きな木のテーブルが並べられ、その日の収穫を持ち寄った「夕食会」が始まるのが恒例となっていた。


「いやあ、今年の麦の出来は上々だな。これなら冬を越すのも余裕そうだ」

旅人からこの村の住民になったライルが、焼き立てのパンをちぎりながら満足そうに笑った。

「本当にねえ。昔は収穫の半分以上を税として持っていかれて、自分たちの口に入るのは黒ずんだパンくずだけだったのに……」

別の老いた女性もしみじみと呟き、目の前にある豊かな料理の数々に目を細めた。


その言葉に、周囲にいた大人たちも深くうなずいた。

かつての世界では、「誰かのため」「国のため」「神のため」という綺麗事の裏で、個人の生活や尊厳は常に踏みにじられていた。為政者たちのエゴを満たすために、人々は働き、耐え、そして見捨てられていった。


だが今は違う。

自分が汗を流した分だけ自分のためになり、目の前の大切な人たちの笑顔に繋がる。その当たり前の事実が、どれほど尊いものであるかを、ここにいる全員が心から噛り締めていた。


「ねえ、セレスティア」

隣に座っていたライルが、ふとグラスを傾けながら声をかけてきた。

「この村の名前さ、そろそろみんなで決めないかって話が出てるんだ。『〇〇王国』とか『〇〇聖都』みたいな大層な名前じゃなくて、もっとシンプルなやつをさ」


ライルの提案に、周囲の人々も「たしかにそろそろ名前があったほうが便利だな」「なんていう名前にしようか?」と楽しげにざわめき始めた。


セレスティアは少しだけ考え込み、それから柔らかく首を横に振った。

「うーん……名前なんて、なくてもいいんじゃないかしら」

「名前がないのかい?」

「ええ。名前をつけてしまうと、またそこに境界線が生まれたり、誰かが『この土地は私たちのものだ』って特別な権利を主張したくなっちゃうかもしれないでしょう?」


セレスティアの言葉に、ライルは少し驚いたような顔をしたあと、やがて納得したように小さく笑ったた。

「たしかに……そうだな。名前なんてつけちまうと、また昔の嫌な仕組みを思い出しちまうかもな。『ただの、みんなが暮らす場所』で十分か」


「そうよ。国でも街でもなくて、ただ私たちが明日を生きるための場所。それで十分だわ」


セレスティアの答えに、周囲の人々も温かい笑い声を上げた。

過去の過ちや、世界が一度滅び去った絶望を乗り越えたからこそ、彼らは「何者にも縛られない自由」の価値を誰よりも深く理解していた。


夜のとばりが下り、村のあちこちに灯されたランプの光が、優しくあたりを照らし出す。

その光景を見上げながら、セレスティアは胸の奥でそっと呟いた。


――見ていてくれるかしら。あなたがあのとき壊してくれた世界で、私たちは今、こんな風に自分の足で歩いているわよ。


空の向こうからは何の返事も返ってこなかったが、心地よい夜風がセレスティアの髪を優しく撫で、すべてが許されたような穏やかな時間が、村全体を包み込んでいた。

外伝第4話をお読みいただき、ありがとうございます!


名前のない小さな村で、過去の肩書や身分を捨てた人々が穏やかに支え合う日常を描かせていただきました。

誰もが自分の足で生きる世界で、セレスティアたちがたどり着いた温かな結末が伝われば幸いです。


外伝はいよいよ次回の第5話で最終回となります。

最後まで丁寧に描き切りますので、引き続きよろしくお願いいたします!

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