第2話:血塗られた祭壇と崩壊の序曲
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他国を裏切り、無辜の民を踏踏みにじってまで自分たちの血族を守ろうとしたダマシテ王国。
しかし、彼らが呼び寄せたのは「救世主」ではなく、すべてを呪う最悪の厄災でした。
パニックに陥る王城と、狂気の偽勇者の暴虐が幕を開けます。
それでは、第2話をお楽しみください。
地下深くに位置する禁忌の祭壇の間は、一瞬にして地獄の絵図へと変貌していた。
先ほどまで「世界を救う偉業を成し遂げる」と高笑いし、特等席で酔いしれていたダマシテ王国の高官や魔導士たちは、今や血の海の中で這いつくばり、あるいは原型を留めぬ肉塊と化していた。
「ひっ……あ、あぁ……!」
国王ガルド・ダマシテは、純金の王冠を泥と血にまみれさせながら、情けない這いつくばり方で後退りしていた。彼の尊厳も、王としての威厳も、先ほどまでの傲慢さはすべて消え失せ、残っているのは剥き出しの恐怖と死への怯えだけだった。
ガルドの視線の先では、漆黒の呪い纏った男――『最初の偽勇者』が、ゆっくりと足音を響かせながら歩いていた。
その足元には、ガルドの誇る近衛騎士団長の首が転がっている。鉄壁の守りを誇り、ミステ王国を蹂躙した際に先頭に立って民を切り捨てた男の顔は、恐怖に歪んだまま硬直していた。
――クク……。変わらんな、人間の本質とはいつの時代も変わらん
偽勇者が発する声は、肉声ではない。直接、脳の髄に響き渡るような、底知れぬ澱んだ呪詛の響きだった。
彼は三百年年前、同じようにこの土地の支配者たちによって「生贄」を捧げられ、世界を救うための使い捨ての駒として召喚された。どれほど人類のために戦い、血を流そうとも、最後には保身に走る為政者たちに裏切られ、暗殺されかけ、あるいは魔王の生贄として差し出された者たち。
その無限の憎悪と絶望の記憶が融合し、呪いの複合体として蘇ったのが、この「最初の偽勇者の成れの果て」だった。
「ま、待て……! 話せば分かる! 我らはあなたを召喚した主人だぞ……っ!」
ガルドは震える声で叫んだ。だが、その言葉は偽勇者の逆鱗に触れる以上の意味を持たなかった。
――主人、だと?
男の唇が、歪んだ笑みの形に裂けた。
次の瞬間、ガルドの視界が大きく揺らいだ。衝撃波が空間を引き裂き、ガルドの右腕が根元からちぎれ飛んだ。
「ぎゃああああああああっっ!!!」
絶叫が地下通路に反響する。痛みで失神しかけるガルドの髪を、男が冷徹な手つきで掴み、無理やり引きずり起こした。
男の瞳の奥には、理性の光のかけらもなく、ただ「すべてを滅ぼすこと」という本能的なまでの破滅衝動だけが燃え盛っていた。
一方、祭壇の隅、魔法陣の端に縛り付けられたままの少女がいた。
ミステ王国の王女、セレスティア・ミステである。
彼女は、自国が騙し討ちに遭い、愛する家族や臣下を目の前で殺された絶望のなかにいた。そして、ダマシテ王国の人間によって無理やりこの祭壇に引きずり出され、「生贄」として命を捧げられるはずだった。
死を覚悟し、すべてが終わったと思っていた。
「……っ」
だが、今目の前で繰り広げられている光景は、セレスティアの予想を遥かに超えていた。
自分を売り渡し、嘲笑っていたダマシテ王国の王族や騎士たちが、次々と無残に血祭りに上げられていく。王妃は恐怖のあまり泡を吹いて気絶し、我が身可愛さに逃げ出そうとした王太子は、背後から放たれた漆黒の槍に身体を貫かれて床に縫い付けられていた。
因果応報。自業自得。
言葉にするのも汚らわしい彼らのエゴが、文字通り血の海となって彼ら自身を溺れさせている。
セレスティアの身体を縛っていた魔力の鎖が、偽勇者が放つ余波の魔力によって音を立てて砕け散った。
拘束を解かれたセレスティアは、冷たい石の床に膝をつき、震える両手で自身の体を抱きしめた。逃げなければならないはずなのに、足がすくんで動かない。眼前で展開される虐殺劇の異常さと、漂う血の匂いに呼吸が困難になっていた。
やがて、血塗れの王を床に放り投げた偽勇者が、ゆっくりとセレスティアの方へと振り返った。
殺気ではない。底知れぬ冷たさを湛えた漆黒の瞳が、少女を捉える。
セレスティアは死を覚悟して目を閉じた。ここで自分もあの王族たちと同じように、無残に引き裂かれて終わるのだと。
だが、一瞬の静寂の後、頭上から低く掠れた声が降ってきた。
――お前も、あの豚どもと同類か?
恐る恐る目を開けると、目の前には異形の鎧を纏った男が立っていた。
至近距離で見ても、その姿は生者のそれではなく、長い年月と絶望にすり潰された亡霊のようだった。しかし、その手はセレスティアを切り捨てるのではなく、ただじっと彼女を見下ろしていた。
「……私は、違う……」
セレスティアは震える声で、しかしはっきりとそう答えた。
「私は……あいつらに国を騙し討ちにされ、家族を奪われ……この祭壇に、生贄として無理やり連れてこられた……。あいつらと同じわけが、ない……!」
少女の瞳に宿る光は、絶望に染まりながらも、まだ消え失せていなかった。それは奇しくも、かつてこの男が失った「何か」に似ていたのかもしれない。
偽勇者は微動だにせず、やがて低い声で吐き捨てるように言った。
――ならば、ついて来い。この世界がどのように終わるのか、その目で最後まで見届けるがいい
男はそれだけ言うと、背を向け、崩壊を始めた地下祭壇の出口へと歩き出した。
背後では、ダマシテ王国の国王ガルドが這いずりながら「助けてくれ……」とすがりつこうとしたが、偽勇者の足が容赦なくその頭を踏み潰し、完全に沈黙させた。
ダマシテ王国の栄華は、わずか一日のうちに、そして一人の偽勇者によって跡形もなく瓦解した。
生き残ったミステの王女と、すべてを終わらせるための厄災。二人の奇妙な同行が、崩れゆく世界の中で静かに幕を開けたのだった。
第2話までお読みいただき、ありがとうございます!
ダマシテ王国の傲慢な王族たちが、偽勇者によって文字通り容赦なく断罪される展開となりました。
王女セレスティアがどのような思いでこの絶望の旅についていくのか、そして世界を終わらせるカウントダウンがどう進んでいくのか……。
それでは、第3話でお会いしましょう!




