第14話:押し寄せる死の軍勢と、静寂の世界
第14話をお読みいただき、ありがとうございます!
ダマシテ王国の裏切りに始まり、帝国、そして聖教会の崩壊へと続いた人類のエゴの連鎖。
すべての権力と嘘が消え去った今、人間たちが目を背け続けてきた「アンデッド軍団」の脅威が、いよいよ世界を覆い尽くします。
それでは、第14話をお楽しみください。
聖都バチリカの崩壊によって、大陸を統べる最後の権力基盤は完全に失われた。
ダマシテ王国が滅び、大帝国が崩壊し、聖教会が消え去った今、この世界には「国」も「法律」も、そして人々を縛り付けていた「神の教え」すらも存在しない。あるのは、ただ瓦礫の山と、どこまでも広がる灰色の空だけだった。
しかし、人間たちの争いが終わったからといって、この世界に平穏が訪れたわけではなかった。
むしろ、それこそが真の破滅の始まりだった。
地平線の彼方から、大地を揺るがす不気味な地響きが聞こえてくる。
それは風の音でも、遠雷でもない。何十万、何百万という死者たちが群れをなし、生者の匂いを求めて這い寄る『アンデッド軍団』の足音だった。
かつて各国は、「アンデッドの侵攻を防ぐため」と称して莫大な税を徴収し、兵士を動員し、そして「王族の生贄」による勇者召喚という禁忌に手を染めた。しかし、その実態は、為政者たちが保身と権力闘争に明け暮れる口実にすぎなかった。彼らは自分たちの利権を守ることに夢中で、本当の脅威に対してまともに備えることすらしていなかったのだ。
そして今、そのツケを払うべき人間たちは、自らが生み出した偽勇者によってすでに全員地獄へと送られていた。
守るべき者も、指揮を執る者もいない荒野を、死者の群れはまるで水が低い方へ流れるように、ただ無慈悲に飲み込んでいく。
崩壊した聖都の遠くを見渡す丘の上で、三つの影が立ち尽くしていた。
全身に呪いの鎖を纏った漆黒の偽勇者、元ミステ王国の王女セレスティア、そして彼女に寄り添う幼い少女ルリエルである。
吹き抜ける風には、腐臭と冷たい土の匂いが混じり合っていた。
セレスティアは、地平線を埋め尽くすほどの黒い濁流――アンデッドの群れが自分たちの方向へ押し寄せてくるのを、微動だにせず見つめていた。
「……すごい数ね」
セレスティアの呟きには、恐怖の色は一切なかった。あるのは、すべての因果を見届ける者特有の冷徹な静けさだけだった。
「あんなにも『世界を守るため』って叫んでいた人たちは、いざ本当に危機が迫ると、自分の保身しか考えていなかった。国を売り、人を騙し、生贄を差し出して……そうやって生き延びようとした結果が、これだわ」
――そうだ
偽勇者の低い声が、脳内に響く。
――人間は、恐怖から逃れるためなら幾千の仲間を裏切り、滅亡の淵に立ってもなお己のエゴを手放さない。だからこそ、自らの蒔いた種によって刈り取られるのが、この世界にふさわしい結末なのだ
「お姉ちゃん……こわい?」
ルリエルが少し震えながら、セレスティアの衣をキュッと引っ張った。
セレスティアはしゃがみ込み、ルリエルの小さな両手を優しく包み込むように握りしめた。その瞳には、かつての王国で怯えていた自分自身の姿が重なっていた。
「怖くないわよ、ルリエル」
セレスティアは穏やかに微笑んだ。
「もう誰も私たちを騙したり、嘘をついて生贄にしたりしない。私たちは、この世界が最後にどうやって幕を閉じるのかを、二人で最後まで見届けるのよ」
ルリエルはセレスティアの温かい目を見つめ、やがて小さく、しかししっかりとうなずいた。
アンデッドの群れは、すでに丘のふもとまで迫っていた。
腐敗した肉体が擦れ合う音、生者を求める濁った呻き声が、周囲の空気を冷たく凍りつかせていく。通常の人間であれば、その気配だけで精神を破壊されるほどの絶望的な光景だった。
しかし、偽勇者は一歩も引かなかった。
男はゆっくりと右手を掲げ、すべてを飲み込む漆黒の呪いの魔力を解き放った。
人間の身勝手なエゴが作り上げた欺瞞の歴史に終止符を打つため、そして世界を完全に無へと還すため、終焉のカウントダウンはついに最終局面へと突入していくのだった。
第14話までお読みいただき、ありがとうございます!
すべての権力や欺瞞が消え去った世界に、放置されていた「アンデッド軍団」が本格的に押し寄せてくる絶望的な展開を描かせていただきました。
人間たちのエゴが結果として自分たちを追い詰めたこの状況で、セレスティアとルリエル、そして偽勇者が迎える結末とは……?
それでは、第15話でお会いしましょう!




