第12話:崩れゆく聖都と、教皇の醜態
第12話をお読みいただき、ありがとうございます!
聖都バチリカを囲む堅固な城壁が崩れ去り、教会の圧倒的な戦力も偽勇者の前には無力と化していきます。
恐怖に支配され、信徒たちを捨て駒にして逃げ惑う教皇レオンハルトの姿と、すべてを冷徹に見据えるセレスティアを描きます。
それでは、第12話をお楽しみください。
白亜の城壁に走った無数の亀裂は、もはや止まることを知らなかった。
『聖都バチリカ』の誇る絶対的な防壁は、偽勇者が放った圧倒的な呪いの余波の前に、砂の城のように音を立てて崩れ落ちていく。城壁の上に陣取っていた数千人の神殿騎士や狂信者たちは、巻き起こる爆風と地割れに足場を奪われ、パニックの悲鳴を上げながら次々と瓦礫の底へと転がり落ちていった。
「な、なんだこれは……!? 宝具の加護が通じない……!? 嘘だ、我々は神に選ばれし聖職者だぞ……ッ!」
神官長は手元の神聖宝具を必死に掲げ続けようとしたが、その杖はすでに真ん中から真っ二つにへし折れていた。
彼らが信じ込んできた「自分たちは特別であり、神に守られている」という幻想は、現実の圧倒的な力の前に、あまりにもあっけなく粉々に砕け散ったのだ。
大聖堂のバルコニーからその惨状を目撃した教皇レオンハルトは、足元をよろめかせ、純白の聖衣を纏ったまま床にへたり込んだ。
「ば、馬鹿な……聖都が……我が築き上げた絶対の秩序が、こんな得体の知れない化け物風情に……!」
彼の傍らに控えていた側近の神官たちは、すでに教皇を見限り、自分の保身のために金銀財宝を抱えて逃げ出そうと出口へ殺到していた。しかし、宮殿の外も内もすでに呪いの瘴気に包まれており、逃げ場などどこにも残されていなかった。
「待て……! 私を置いていくな! 私は教皇だぞ! お前たち、私に仕えるのが務めではないか……っ!」
レオンハルトが血走った目で喚き散らしたが、誰も振り返りはしなかった。危機に直面した途端、彼らが築き上げてきた「信仰の絆」や「忠誠心」という名の繋がりがいかに薄っぺらなものであったかが、残酷なまでに証明されていた。
崩壊する大通りの真ん中を、三つの影が静かに歩みを進めていた。
全身に呪いの鎖を纏った漆黒の偽勇者、すべてを失った元ミステ王国の王女セレスティア、そして彼女の手をしっかりと握る幼い少女ルリエル。
周囲では、教会の騎士たちが武器を投げ捨て、泣き叫びながら逃げ惑っている。しかし、二人はそれに目もくれなかった。
セレスティアは、目の前で燃え盛る黄金の尖塔や、剥ぎ取られていく教会の象徴を見上げながら、深い感慨とともに息を吐き出した。
「……見て、ルリエル」
セレスティアが優しく声をかけると、ルリエルは小さく「うん……」とうなずきながら、彼女の背中に隠れるようにして辺りを見回した。
「あそこにいる人たちはね、自分たちが一番正しくて、一番安全な場所にいると信じ込んでいたの。でも、他人を騙し、犠牲の上に成り立っていたものは、いつかこうして必ず崩れるのよ」
――そうだ
偽勇者の低い声が、脳内に響く。
――人間は、目の前の利益と保身のために嘘を重ね、弱者を踏み潰す。その罪を『神の試練』や『大義』という言葉で飾り立てる。だが、積み上げられた偽りの塔は、いつの日か必ずその重みで自壊するのだ
二人の歩みは止まらない。
目指すは、聖都の最奥にそびえる最高聖堂――すべての欺瞞の元凶が潜む場所だった。
最高聖堂の重厚な大扉は、偽勇者が一瞥しただけで、内側からの圧力によって蝶番ごと豪快に吹き飛んだ。
舞い散る白煙の中、祭壇の前にうずくまり、震え上がっている一人の老人が視界に飛び込んできた。
純白の聖衣を血と泥にまみれさせ、恐怖に顔を歪ませた教皇レオンハルトその人だった。
「き、来るな……! 来るな悪魔め……っ!」
レオンハルトは杖の残骸を振りかざし、狂気に満ちた目で叫んだ。
「私は神の代弁者だぞ……! 貴様のような異端を許すことは、神の意志に背くことだ……! 世界の秩序を乱す者よ、今すぐ神罰にくだれ……っ!」
その往生際の悪い、見苦しい姿を見た瞬間、セレスティアは冷ややかな笑みを浮かべた。
それは、これまで数々の国や為政者たちの最期を見届けてきた少女が浮かべる、究極の軽蔑の色だった。
「神罰、ですか?」
セレスティアの澄んだ声が、静まり返った最高聖堂に響き渡った。
「散々、神の名を騙って人々の命を弄び、生贄を差し出させておきながら……ピンチになった途端に神様を持ち出すなんて、本当に見苦しいわね。あなたたちの中に、最初から神殿の教えなんてあったのかしら?」
「ひっ……! お、お前は……ミステ王国の……!」
レオンハルトはセレスティアの顔を見て、ようやく彼女がかつて自分たちが切り捨て、生贄として差し出そうとした王族の血筋であることに気づき、顔面を恐怖の色彩に染め上げた。
「そうよ。あなたたちが踏み潰し、忘れ去ろうとした者たちの末裔よ」
セレスティアは一歩、また一歩とレオンハルトへと歩み寄った。その瞳には、もはや怒りすらない。ただ、すべての欺瞞にピリオドを打つ静かな決意だけが宿っていた。
偽勇者がゆっくりと右手を掲げる。
すべての嘘と利権の歴史を終わらせる最後の一撃が、いま、まさに振り下ろされようとしていた。
第12話までお読みいただき、ありがとうございます!
聖都バチリカの防壁が崩壊し、最高聖堂の最奥で教皇レオンハルトがついに追い詰められる展開を描かせていただきました。
最後まで神の名を騙って命乞いをする教皇の姿と、それを見据えるセレスティアの対比が物語をいよいよクライマックスへ導きます。
それでは、第13話でお会いしましょう!




