第9話「捜索」
## 第9話「捜索」
### 【あらすじ】
サイボーグであるジュニアは、AIロボットたちが受け取っている指示を感じ取れるらしい。
話では、「保護作業」と「清掃活動」に従事するよう、どこからか指示が出ているようだが、その実態は掴めない。
川田はジュニアに妻の勤務先である“桜第一小”の話をするが、そこはすでに“確認”済みで――
### 【本文】
「どういう……ことですか」
車内に、殺伐とした空気が流れる。
「誤解すんな。俺が行って、確認したって話だ。俺は何もしてねえぞ」
「川田さん」
「小学校はどんな様子でしたか」
「…………話したくねぇ」
川田から血の気が引いた。
全身から力の抜ける感覚。
「――あぁチクショウ!」
ジュニアはハンドルを殴りつけた。
「いいか! 俺は校舎をぐるっと回って生きた人間がいねえのを確認しただけだ。隠れてる奴がいたら見逃してるかもな!」
そう言いながら、ジュニアはハンドルを切る。
Uターンだ。
「…………昨日、保護作業の指示は夕方に来た」
来た道を戻るように進む車。
「今は、清掃活動も終わったらしい。指示が来なくなった」
「それって――」
「チャンスかもしれねぇ。人間様が動ける時間だ」
ジュニアがアクセルを踏み込む。
「行くぞ」
◇◇◇◇◇◇
――都立桜第一小学校。
正門前に、学舎にはいささか不釣り合いな黒のスポーツカーが停まった。
「ホラ、これ」
ジュニアは急いでトランクを開くと、そこには――
「こ、これってまさか……銃!?」
びっしりと積まれた銃火器。
そのうちの一つ、片手で持てるハンドガンタイプの銃を川田に手渡す。
川田は銃器に詳しくないが、それが本物であることはわかった。怖さを感じる重さだ。
「ど、どうしてこんなものを――」
「ま、色々あってな。便利だぜ、これ」
「そういうことを聞いているわけでは――」
「使い方はわかるか?」
「いえ……」
「わかるわけないじゃないですか……」
「おーそうか? こうやって相手に向けて、『BANG』だ」
ジュニアは手で銃を打つ真似をする。
「じゃ、行くぞ」
ジュニアは一際大きなライフルタイプの銃を担いで車のトランクを閉めた。
そして、銃を構え、二発――
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
突然の銃声に、二人は驚きの声をあげる。
「……そんなにビビるなよ」
「驚きますよ!! なんなんですか――」
川田がジュニアを見ると、彼は校門と昇降口に取り付けられた――いや、取り付けられていた何かを指さしていた。
「……カメラ、ですか?」
真衣が聞く。
「そういうこった。足はつかねえに越したことはないだろ?」
「だからって発砲なんて――」
「いや、そうでもないかもしれませんよ」
「嬢ちゃんの言う通りだ。奴ら、見境なく撃ってるからな。カメラに映るより銃声の方が目立たねえだろ」
「そういうものですか……」
川田はそう言いながら、ジュニアと真衣に続いて校門をくぐり、学校に入った。
◇◇◇◇◇◇
「やっぱり、消えてやがんな」
まず向かったのは体育館だった。無人の空間に入るや否や、ジュニアはそう呟く。
「消えてる……?」
「ああ。前に来た時は、ロボットどもがここに――」
嫌な予感がした川田は後ずさる。
「死体を所狭しと並べてやがった」
「川田さん!」
ふらついた川田を真衣が支える。
「……だから話したくねえって言ったんだ」
「ちょっと待ってください」
そう言ったのは真衣。
「それって、その現場にいたってことですよね?」
「ああ、そうだな」
「ジュニアさんは、ロボットたちから襲われないんですか?」
「お、いいところに気が付いたなタバコの嬢ちゃん」
ジュニアは嬉しそうに指を鳴らした。
「俺は、なんだ、あいつらと同族だと思われてるみたいでな」
「命令に従ってるフリしときゃあ、お咎めなしってわけだ」
「それで――」
「ああ、警察署だって出入り自由。車も動かし放題だ。本当は戦車でも貰って来ようかとおもったんだが――」
絶句する真衣と川田。
「なんだよ! 自衛の手段だろ!? 嬢ちゃんたちも俺のおかげで助かった! そうだろ?」
「そうですけど……」
最悪の状況だった。
下手をすると自衛隊も、駐在米軍もこのAIロボットの攻撃に倒れた可能性が――
(考えれば、当然か……? そういった施設にもAI産業は入り込んでいる。無論、セキュリティは万全だったはずだが――)
なんとか立ち直った川田はジュニアに尋ねる。
「……どんな人たちが、ここに?」
「基本は教師だろうよ。子供達を連れていくロボットどもに反抗したやつは、片っ端から、な」
「……やっぱり、子供たちをさらってるん……ですかね」
「さあな。でも、俺にはそう見えた。“保護作業”ってのがそうだと思うぜ」
「……杏奈」
川田がつぶやく。
そんな凄惨なことがあったとは考えられないほど綺麗な体育館。
もしそこに並べられた人たちの中に、杏奈がいたら――
「ここで考えててもしょうがねえ。夕方にはまた“保護作業”とか言ってロボットどもがうじゃうじゃでてくるかもしれねえ。探すなら急いだほうがいい」
ジュニアの意見に従い、一行は移動する。
道中も慎重にカメラを破壊しながら進む。ジュニアはカメラに映ってもリスクが低いと判断し、彼が先行する。
倉庫や給食室など、隠れやすそうな場所を中心に生き残りがいないか捜索していった。
「誰かいませんか! 俺たちは人間だ! 生き残りを探しに来た!」
川田は声を張る。
そして、捜索すること数十分。
再び給食室に戻った川田。
「誰か、いないのか――?」
大きな寸胴や調理器具の銀色が立ち並ぶ部屋を、不格好ながら銃を構え捜索する。
その時――
――ゴオン
音がした。咄嗟に銃を音の方に向ける。
(何だ!?)
音の方向には、大きな調理用の寸胴があった。
「誰かいるのか!?」
返事はない。
そっと、近づいていく。
(大人は、さすがに入れないが、もし、子供なら――)
寸胴に手を伸ばし、蓋を取った瞬間――
「ッ――!?」
鈍痛を右腕に感じ、思わず手を引く。
(切られた――!?)
――ガランガランガラン!!!!
寸胴が倒れる音。
そこから出てきたのは――人間だ。
一目散に給食室を出ていく。
「お〜っと、どうしたお嬢ちゃん」
しかし、タイミングよく戻ってきたジュニアがその子を捕まえる。
「やめろ! 離せっ!!」
声色からして幼い女の子だ。
川田が手を押さえながら合流すると、そこには――
工作用のハサミを持って暴れる、高学年ほどの女の子がいた。




