第8話「サイボーグ」
## 第8話「サイボーグ」
### 【あらすじ】
“清掃”に訪れたロボットを撃退し、マンションから脱出した川田と真衣。
追い詰められた二人を救ったのは、黒いスポーツカーを操る謎の男だった。
“ジュニア”と名乗る彼は、自らを人間の身体に機械の中身を持つ、サイボーグだと明かし――?
### 【本文】
“サイボーグ”
体の一部を機械化した人間を指す言葉だ。
だが、このジュニアと名乗る男は“中身は機械”と言った。
「……驚くよなぁ、そりゃ」
ジュニアは再び前を向く。
(サイボーグ化は……病気事故で悪くなった箇所を治療ではなく機械で置き換えるような代物だ)
(だが……“中身”を全部機械にするなんて、聞いたことがない)
「ちなみに、中身っつっても脳ミソはしっかりあんた達と同じだから安心してくれ」
「あ、はい……」
(……大手テック企業のCEOが、全身機械化して不老不死になったというニュースも聞いたことがある……彼もその類なのか?)
ジュニアの鮮烈な登場から一転、車内には気まずい空気が流れている。
「…………なあ、嬢ちゃんたち」
その沈黙に耐えかねてか、ジュニアが聞く。
「……俺は、人間だと思うか?」
二人は、すぐに答えることができなかった。
「だよなぁ」
ジュニアは残念そうだ。
「私は、人間だと思います」
真衣が口を開く。
「何故だ?」
「ロボットは……“自分が人間かどうか”なんて聞かない……からです」
「…………」
「…………」
「ハハ……」
「ハッハハ!! おもしれぇ答えだ! やるなタバコの嬢ちゃん!」
一瞬ドキりとする間があったが、どうやら大丈夫だったようだ。
「悪くねぇ答えだ。俺は『心が〜』とか『魂は〜』みたいなことを言う連中が嫌いでな!」
ドカドカと笑うジュニア。
「ますます気に入ったぜ。タバコの礼に色々教えてやるよ!」
そうして、ジュニアはいろいろと彼の体について教えてくれた。
まず、彼の体の中にはAI製品に広く採用されている“受信機”が内臓されているという。それは川田も良く知る製品で、ジュニアの体内構造を監視、データを送受信し適切な動作を保証するものだそうだ。
「それが昨日急におかしくなりやがってな。頭の中に“声”が響くんだ」
「“声”……ですか、それは……今も?」
「ああ。鬱陶しくてならんぜ、それに知りたくもねえことに気づいちまったからな」
“声”は、『“保護作業”と“清掃活動”に従事せよ』ということを伝えているらしい。それがどういう内容かは――
「ただ……聞こえるだけでそれが何かはわからん。しかしまぁ――」
ジュニアがサングラスをずらし、側道に目をやる。
「“アレ”を見りゃ、まともじゃねえってのはわかるな」
川田と真衣は彼の視線の先を見る。
「――!!」
「ひどい……」
車はすぐに通り過ぎたが、それがなんなのか理解するには十分な時間だった。
積み重なった人。それをロボットが運搬車両に積んでいる。
……恐らく、全員死んでいるだろう。
「…………機械の体でも同情はできる。ほとんどが何が起こっているかもわからず死んじまっただろう」
再び、車内に沈黙。
誰も、何も喋る気になれない。
「……あぁ、チクショウ」
ジュニアはそう言うと、ダッシュボードから乱暴にディスクを取り出した。
「こんな時は音楽を聴くに限るな」
「……光ディスク……? よくそんな物を――」
「“オフライン”でも聞けるすぐれモンだぞ」
「CD、いいですね」
(真田さんはこういうの好きなのか……USBメモリも持っていたしな……)
流れたのは、なかなか激しいメタル音楽だった。
それに釣られて、ジュニアの運転も荒くなる。
「……で? どうすんだ嬢ちゃんたちは」
ジュニアの言葉に、川田は言葉を詰まらせる。
「…………真田さんは――」
「私は特に。探す人もいないのですし、私のことを探している人もいないので」
「……ご家族とか――」
「さぁ……どこにいるのかも、生きているのかも知りません」
「……すみません」
「謝らないでください。自業自得ですから」
「……川田さんこそ、ご家族は――」
真田にそう聞かれて、川田は今、自分たちが“移動手段”を得ていることに気づく。
「…………ジュニアさん」
「なんだ?」
「妻が……近隣の小学校に勤めていて――消息が」
「…………もしかして、桜第一小か」
「そ、そうです。ご存知でしたか」
川田に、一瞬――嫌な予感が走る。
「あぁ。知ってるぜ。」
ジュニアは『どうしたものか』といった様子で首を振ってから続けた。
「“生存者がいないか”確認してきたからな」
「…………は?」
川田は、思わずそうこぼした。




