第6話「来客」
## 第6話「来客」
### 【あらすじ】
川田は、来訪者の女性、真田真衣と束の間の交流をする。
彼女は作家で、引きこもりがちな生活をしていたため、事件を生き残ったらしい。
何とか二人は食事を済ませるが、川田は体力の限界だった。真衣の提案で、休息を取るが――
### 【本文】
「川田さん、起きてください」
翌朝、川田は真衣の呼びかけで目覚める。
「アナウンスが――」
飛び起きると、真衣は窓の外を見ている。
『本日の保護作業が終了しました』
「なんだ――」
『正午より、清掃活動を行います』
「わかりません。七時になった瞬間、流れ始めて――」
「保護作業ってなんだ!? それに、清掃って」
嫌な予感しかしない。
しかし、昨日とアナウンスの内容が違う。
外を見ると、明らかにロボットの数は減っている。
昨日の――犠牲者たちの姿は、跡形もなく消えていた。
立ち往生していた車両も、路面の血痕も、最初から存在しなかったように消えている。
「……外に、出られるのか?」
「“保護作業”が、終わったとは言っていましたが」
「……何もできないのは、変わらないか」
「そうですね」
今朝は、食パンを焼かずに食べた。
◇◇◇◇◇◇
「何やってるんだ?」
正午を控えた午前十時。
真衣は持ってきたカバンからタブレット端末を取り出して何かをしていた。
「仕事ですよ」
「仕事?」
川田は不思議そうにその様子を見る。
「……マジで言ってんのか」
「大真面目ですよ」
「……そうか、何を書いてるのか、聞いてもいいか」
川田がそう言うと、真衣はメモリに作品の一つを移してくれた。
こんな状況でも、ローカルのデータ移動はできる。
「…………」
「…………」
その後しばらく、執筆する真衣と、それを読む川田は、黙ってそれぞれの時間を過ごした。
次に何か起こるとしたら、正午。
それまでただ待つより、よほど良かった。
――作品は、離れ離れになった家族の愛の物語だった。
(彼女は、何を思って今の俺にこれを読ませたんだ?)
慰めるためか。それとも、ただ手近な作品を選んだだけなのか。
真衣の横顔からは、何も読み取れなかった。
正直、読むのがしんどかった。だが、作者が目の前にいる手前、投げ出すのも失礼だ。
読み進めるにつれて、家族と生き別れた主人公と自分の境遇が重なり、感情移入していく。
「あ……」
そして午前十一時三十分ごろ。
渡されたデータを読み終えてしまった。
「……終わりましたか?」
真衣が、川田の読み終わる頃を見計らったように尋ねる。
「あぁ。よくわかったな」
「面白かったですか?」
「そりゃ、ここまで一気読みするくらいは」
「そうですか」
真衣は、それだけ言って執筆に戻る。
(なんか、続き読ませてくれって言うの、癪だな)
作品の主人公は、まだ家族と会えていない。それどころか、これからの川田の運命を示唆するかのように、困難に巻き込まれていく。
そして、今回読んだ最後のシーンでは、主人公を支えてきた相棒とも言える女性が死んだ。
(マジで、どんな心境でこれを選んだんだよ)
川田がそんなことを考えた直後だった。
電源が落ちていたテレビの画面が、不意に青白く光った。
『こんにちは! 人類保護局です!』
ビクッと反応し、二人はリビングに置かれた“テレビ”を見た。
「……おい」
「…………」
『この放送をご覧のみなさんの居住地は、東京都第三区域に指定されました! 市民の皆さんにお伝えします!』
『繰り返します! この放送をご覧のみなさんの居住地は、東京都第三区域に指定されました!』
テレビ画面には、やけに派手なサイバー演出を背景に、スーツを着た清潔感のある男が映っている。その声は、AI特有の底抜けに明るい調子だった。
「意味、わかるか?」
「言っているままの意味だと思いますけど」
『本日は、この後正午から清掃活動を開始します』
『市民の皆さんは、局員の指示に従っていただきますよう、ご理解とご協力をお願いいたします』
川田の額を汗が伝う。
真衣が、何を考えているのかわからない。
その後、同じ放送が二回ほど流れ、テレビは消えた。
テレビがつながっていたコンセントを確認したが、すでに通電は遮断されていた。
「何が起こるかわからないって……ぶっちゃけ怖いよな」
冗談交じりに川田は言う。
「だからと言って、できることは何もないと思いますが」
二人とも表面上はなんとか平静を装っているが、内心は穏やかではない。
“清掃”という言葉から不穏な想像をしてしまうのは、真衣が作家だからではないだろう。
死体を片付けるのが“清掃”でないなら、なおさらだ。
そして――
正午になった。
◇◇◇◇◇◇
それは、“清掃開始”とやらから十分ほど経った頃に起きた。
――パァン!!!!パァン!!!!
「!!」
「!!?」
銃声が二発。
以前聞いたような、外からの発砲音ではない。
(下から聞こえた……!?)
二人は、揃って下を向く。
「最悪だ――」
「待ってください」
逃げようとする川田を止めたのは、真衣。
「もし、清掃が人間を無差別に殺すことなら、発砲音が少なすぎます」
川田は黙った。
「昨日、私はこの階の部屋をいくつも回りました。誰にも扉を開けてもらえませんでしたが、生存者は大勢いました」
「そうか、真田さんは……この階を回ったんでしたね」
「この部屋は、この階の中央付近にあります。逃げるのは……もう少し待ちましょう」
そう言いながら、真衣はタブレットとタバコ、ライターをカバンに詰める。
(……逃げる準備はするんだな)
川田は、持ち出しやすい食料とお茶のペットボトル、衣料品を出張用の大きなリュックに詰める。
最後に、家族写真をタオルに包んで、大切にしまった。
(真田さんは、書きかけの物語とタバコ。俺は、家族の写真か)
それぞれが失いたくないものだけを、無意識に選んでいるように思えた。
そして――
――ピンポーン
電気が止まっているはずのインターホンが、鳴った。




