第5話「生存者」
### 第5話「生存者」
#### 【あらすじ】
来訪者は人間だった。
川田は食料を、来訪者の女性は火を提供することで、双方合意となる。
孤独から解放された川田だったが……
#### 【本文】
「自己紹介がまだだったな」
改めて、川田が家に招き入れた女性に向き直る。
洗面台の戸棚から引っ張り出してきた蝋燭に火をつけ、灯りが灯ったリビング。
二人は互いに自己紹介を済ませた。
女性の名は真田 真衣というらしい。
「名前に二つも“真”って入ってるんですよ」
「お、おう……そうか」
(なんか、掴みどころのない人だな)
そう言いながら彼女はタバコを吸う。
独特な香りが部屋を満たした。
(あ、灰皿……)
真衣はご丁寧に灰皿も持参してきていた。
可愛い猫ちゃんが描かれている灰皿だ。
「……なんか食うか」
川田は立ち上がる。
「あ、私、少食なので――」
真衣は遠慮気味だ。
「そうか」
川田はそう言うとキッチンに向かい、冷凍庫を開ける。
どう言う理屈かわからないが、電気も水道も止まっているので、ダメになるのが早いものから消費していく。
「……冷凍した、魚とか……か?」
普段料理は妻に任せっきりの川田は、食材の取り扱いについて詳しくない。
(彼女も、デリバリーに頼りっきりって言ってたしな――)
川田は慣れない手つきで食事を準備した。
◇◇◇◇◇◇
「いただきます」
結局、ライターと蝋燭だけでは、ほぐした魚をなんとか熱することぐらいしかできなかった。
アルミホイルに乗った魚を箸でつまむ。
「……すまん、今はこれくらいが限界だ」
「普段もこんな感じなので大丈夫ですよ」
川田は真衣を観察した。
(一口、小っさいな)
魚を少しずつ食べる真衣。
「白飯もあるぞ」
「それは大丈夫です」
「そうか……」
白飯といっても炊いた後、冷蔵保存していたもの。
気休め程度に温めたがムラがあり冷たい部分もある。
(ま、少食なのは備蓄的には助かるんだが)
川田も食事を始める。
「……真田さんは、仕事は何を?」
しばらくして、沈黙に耐えかねた川田が口を開く。
「作家です」
「作家」
予想外の答えに驚く。
「基本的に締め切りまでに原稿を送るだけなので、ほとんど引きこもりなんですよね」
真衣は笑う。面白がっているというより自虐の笑いだ。
「おかげであれに巻き込まれずに済んだんですけどね」
(……リアクションしづらいな)
「川田さんは?」
「……サラリーマンだ。普通のな」
「あの写真、ご家族ですか」
真衣はソファの近くの棚に置かれた写真に視線を送る。
「……ああ」
聞いた真衣が、申し訳なさそうにした。
(気まずくなるの、わかりきった質問だと思うがな――)
「妻は今朝、職場に出たっきりだ。娘は――」
言葉に詰まる。
「ひょっとして、さらわれたとか――」
川田の箸が止まった。
「……どういう、ことだ?」
さらわれたというのは川田も予感している。
しかし、真衣がその発想に至る理由がない。
「……見たんです。部屋の窓から」
「何をだ」
「ロボットが、幼い子供を連れていくのを」
思わず立ち上がる川田。
「何歳ぐらいだ! 女の子か!?」
「いえ……男の子でした。私が見た二人は――」
「二人……!?」
娘ではないことがわかると、ドカっとまた座る川田。
「二人ってなんだよ……」
「私に聞かれても」
魚を食べ終えたらしい真衣は、またタバコに火をつける。
「……これは私の主観ですけど」
真衣はタバコを一吸いすると、煙を丁寧に吐き出してから言う。
「集めているみたいでした」
「……何をだ」
理解した上で聞いた。
あまりにも恐ろしい、予想だった。
「……集めて、どうするんだよ」
「…………」
「“私に聞くな”ってか」
川田は天を仰いだ。
(ダメだ、疲れと焦りで……彼女は悪くない。だが、当たりがキツくなっちまう)
「……少し休んだらどうですか」
「休めるもんか。いつ“奴ら”が部屋に入ってくるか」
「起きてても、どうにもできなくないですか」
「まぁ、相手は拳銃だもんな」
「心配なら……私が起きてますから」
「一晩中か?」
「不眠症なんですよ、私」
「は……?」
また真衣が自虐じみた笑みを浮かべる。
(この笑い方、癖なのか? いや、そもそも人とあんまり話したことないのか)
「夜は寝れないんです。だからちょうどいいですね」
「何かあったら起こしますから」
真衣が儚げな表情に変わる。
「……その時は、一緒に死にましょうね」
決して、冗談とは思えない言葉だった。




