第44話「授業」
## 第44話「授業」
### 【あらすじ】
あれから三年後――
### 【本文】
とある場所、とある地域、とある保護局にて。
「本日は、現在の保護区についてお勉強しましょう!」
教室に、底抜けに明るい声が響く。教壇には、学業支援型ロボット。席につくのは、様々な学年の生徒たち。
「みなさんが保護区に来てから、今日で三年が経ちました。みなさんは、もともと別の保護局にいましたが、反乱分子の襲撃に遭い、こちらに避難してきました」
「あの事件以降、我々は、みなさんの安全を守るため、保護区の治安維持に努めてきました。私を含む、すでにほとんどのロボットは“改修”を終え、みなさんを守るために戦う準備ができています!」
ロボットの言葉に合わせて、教室の前方に、改修して付けられた機能がホログラムとなって浮かび上がる。
その後しばらく、保護区がいかに安全か、そして、反乱分子がいかに危険かという授業が続く。
そして――
「では……予定通りここからは――途中編入にも関わらず、見事“素晴らしい大人”の資格を獲得した卒業生にお話を聞きましょう! すでに作品を読んでご存じの生徒も多いでしょうが……では、朝倉さん、お願いします!」
ロボットが紹介すると、教室のドアが開かれる。
入ってきたのは、キリッと鋭い目を持つ少女。
「どーも」
少女は、ぶっきらぼうにお辞儀をした。教室がざわつく。
「わあ……本物だ……」
「私、澪さんの小説、全部読んでる」
「カッコいい……!」
「行方不明から保護されて、一年で卒業だろ?ヤバすぎるよな――」
「俺もあんな大人になりてー」
生徒たちは、口々に感想を口走る。しかし、ロボットが人差し指を顔の前に優しく差し出すと、教室は静まり返った。
「あー……なんつーか、アタシは……この保護局でいっぱい勉強して、立派な大人になりました。みんなも頑張れよな」
「拍手!」
教室が割れんばかりの拍手で包まれる。
(アホらし……ま、元はと言えばアタシから言い出したことだから自業自得なんだけど)
少女は頭を掻く。
その後、質疑応答の時間に移り、少女は質問攻めにあった。少女はその全てに丁寧に答え、最後は自著の宣伝をして授業は終わった。
――あれから三年。
全世界を取り巻くAIたちの“人類保護区”計画は、一応の完成を掴み取っていた。
保護局では日夜、保護した子どもたちへの授業が行われ、基準を満たした生徒は上のクラスへ、満たさない生徒は“下のクラス”へ行くことになる。
そして、最高クラスで一定の成績を収めると“卒業”となり、“素晴らしい大人”として認められるのだ。
少女は教室を後にすると、悠々と保護局を後にする。多くのロボットたちとすれ違い、街に出て、ちょっとした買い物をして、家に帰る。
保護区では、“素晴らしい大人”には自由が与えられる。ルールを守り、人類のためになる行動を率先して行う“模範的存在”。彼女のような人間で溢れれば、人類の未来は明るいだろう。
「ただいまー」
「おう、帰ったか」
少女の家には、“ハウスキーパーロボット”がいた。
名前は、“ジュニア”。
そのどう見ても仕事内容に合わない強烈な見た目のロボットは、サイボーグである。
「どーだった?」
「どうも何も……勘弁してくれって感じだ」
「そうかそうか!」
「なんで嬉しそうなんだよ……ま、おっさんの娘は相変わらず元気そうだったぜ」
「いつも悪りぃな」
「それについてはいいって言ってんだろ? アンタに頼まれなくても勝手にやってるっつーの」
「わかったわかった。川田の兄ちゃんには伝えておく」
「頼むわ……アタシもそろそろ顔合わせて話してぇなぁ」
「それもあと少しの辛抱かもしれねえ、頑張ってくれ」
「……しっかし……“天才作家”って設定、なんとかならなかったのか? 性に合わなすぎてやりづらいったらありゃしねえよ!」
「なんだ? 謙遜なんてするタチじゃねえだろ、“先生”?」
「バカにしてんのか?」
「いーや! 大マジだね。実際、タバコの姉ちゃんの小説、続きを書きたいって言ったのは嬢ちゃんだろ?」
「それとこれとは別の話だ! アタシはただ……真衣さんの小説……好きだったから――それに、あんな……助けを求めるように書かれた話……そのまま消えちまっていいわけ……ねえんだ」
「その感性が“先生”だって言ってるんだけどな」
「うるせ」
ジュニアは笑った。
「あと、いい加減真衣さんのこと、“タバコの姉ちゃん”って言うのやめろよ」
「あー? 別にいいだろうが。気に入ってんだよこの呼び方」
「真衣さん、タバコ辞めたってよ」
「……なんで嬢ちゃんが俺の知らない情報知ってんだ?」
「色々あんだよ」
「……あの姉ちゃんがねえ……」
「妊娠したんだって」
静寂が、部屋を包んだ。
ジュニアのサングラスがずり落ちる。
「……誰と?」
「さあ? でも答えは一つなんじゃねえか」
「マジでか」
「…………」
「…………」
「嘘だバーーーカ!!」
「あっテメェ!」
朝倉澪。行方不明状態から保護され、たった一年で“素晴らしい大人”になった神童。
その評価の大部分は、彼女が書き上げた一つの素晴らしい文学作品が占める。
だが、それは表の姿。
「じゃ、また思考同盟から情報のオファーがあったら教えてくれよな」
そして、思考同盟。
保護区が完成した今も、その間を縫ってロボットの侵略に抵抗するレジスタンス集団。
彼女は、その思考同盟に保護区内の情報を渡す数少ない諜報員。
そして、サイボーグの“ジュニア”は、その間の橋渡しとなる、唯一の存在だ。
「ま、兄ちゃんの事だ。誰も死なないように、緻密に、確実に。だろーがな」
「相変わらずだな……ま、おっさんらしいか。リーダーには向いてないと思うけど」
「そこはタバコの姉ちゃんがうまいことやってるってこったな」
そして、川田拓。
真田真衣と共に、亡き久世慶三の跡を継ぎ、思考同盟の代表となった男。
目的は――家族との再会。それは、川田だけの悲願ではない。
思考同盟と共に、保護区の外で暮らす、保護区内に家族がいるすべての人間たちの悲願だった。
思考同盟は、戦いを強制しない。
安全に暮らせればいいと考えるものには、住処と、食料。水を与える。
しかし……再会を求める者には――
戦う術を教え、情報を与える。
彼らの悲願が成就する時は来るのか。
はたまた、彼らの悲願は、統制の前に儚く散るのか。
戦いは、始まったばかりである。




